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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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四阿からの導き

レイリアとアマリアは頭を抱えていた。

今日考えていた予定が全て塗り替えられ、新たな予定が立てられたお陰で、予想外の問題が起きたからだ。

「本当にどうしましょうかねぇ。いっその事開き直って、その格好を止めてみたらどうでしょう姫様」

「ダメよ!絶対にこの格好は変えないわ。私にも意地があるのよ」

「だったらどうします?どうしたってそのベールは、勉強には向きませんよ」

二人でう〜んと唸って考え込む。


今日はゆっくり休むつもりだった。

アマリアもレディ教育は、明日からになるだろうと予想していた。

だがエンリケは、二人の想像以上に行動が迅速で、ルイスやアマリアが依頼した"レディ教育に必要な講師陣"を今日早速揃えてきたのだ。

「姫君の為に最高の講師陣を揃えました」

と、満面の笑顔で。


それ自体は何の問題もない。

二人が悩んでいるのは、レイリアのベールが視界を遮り、読み書きにどうしても不都合が生じる事だった。

「姫様はどこまでなら顔出しアリだと思います?私は目だけそこそこ隠れていればアリなんじゃないかと思います」

「目だけって、結局よく見えないじゃない」

「それでは真ん中からこう分けるようにしてみます?カーテンみたいに」

「それもどうかと。それに分けたら顔が見えるじゃない」

「姫様も何かアイデア出して下さいよ。私は姫様が顔を隠すのは、あんまり好ましく思っていないんです。姫様を飾って、うちの姫様はこんなに美しいんだぞ!ってアピールしたいんですから。そして殿下にこんな美しい姫様に、理不尽な条件を突き付けた事を、もっと後悔させてやりたいんです」

「いや、それはナイから。私程度の容姿など、殿下は見慣れているでしょう」

「分かっていませんねぇ。姫様はご自分の価値を知らな過ぎですよ。ちゃんとした格好をすれば、誰よりも輝けるというのに」

「そんな必要ないし、興味もないからね。それよりも今はどうしようかという事よ」

「いっその事今日は講師の先生方に挨拶だけ済ませて、明日までに考えるというのはどうでしょう?王宮の見学をするからという事で」

「それいいわね!じゃあアマリアは考えておいて。私は挨拶と見学をしてくるから」

「分かりましたよ。姫様が見学している間に考えておきます。ついでに私は赤毛の貴公子でもリストアップしておきます」

「赤毛の貴公子って、まだ諦めて無かったの!?」

「当然です。胸キュンは最重要事項ですから」

やれやれと思いながら、案内係の女官に付いて、レイリアは部屋を出て行った。


一通り講師陣には挨拶を済ませ、本格的な勉強は明日以降になった。

そこで王宮を見て回っている訳だが、とにかく広く、迷路の様な王宮に、レイリアは覚えられる気がしないと思った。

エンリケからの指示が行き届いている為か、レイリアの格好を見ても、誰も気にした様子はない。

そこはエンリケに感謝なのだが。


増改築をし過ぎよね。

王様によって好みが様々で、一貫性がないわ。

思わずぼやいてしまう。

この建物は強敵だ。

何個目か分からない渡り廊下を歩いている時、中庭に小さな四阿を見付けた。

「あれは普段使っているのかしら?」

「いいえ、あそこは今使われておりません」

「まあ!凄く可愛い四阿なのに、使わないなんて勿体無いわ」

「あそこは取り壊す予定だったのです。ですが殿下が反対なさって、そのままになっているのです。殿下には思い出深い場所ですから」

「思い出?」

「はい。殿下の亡き兄君で、エドゥアルド前王太子殿下との思い出の場所です。お二人はお小さい頃、いつもあそこで読書をなさったり、お昼寝をなさったりと、とても仲良く過ごされておりました」

「兄上様は亡くなられたのよね」

「はい。もう10年も前になります。お出掛け先で急に亡くなられたという事でした」

「お気の毒だわ。まだ幼かったのでしょう?」

「エドゥアルド様は殿下と同い年ですから、12歳で亡くなられました。エドゥアルド様の方が8ヶ月先に産まれていますが」

「そう。少し四阿で休んでもいいかしら?誰も使わないなら、私が使っても構わないわよね?」

「もちろんです。ではお茶でもお持ちしましょう」

「お願いするわ」

女官は頷き、レイリアを置いてお茶の準備をしに、渡り廊下を戻って行った。


最初は何人かお供を付けられそうになったのだが、一人でいいからと無理を言って逆に良かった。

ゾロゾロと行列を引き連れて歩くなんて、性に合わない。

四阿のベンチに腰掛け、やっと一息つく。

すると何故か袖を引っ張られた。

見ると妖精が引っ張っている。

「あら?こんにちは!どうしたの?私はレイリアよ。よろしくね」

『祝福があるレイリア?来て!泣いてるんだ』

妖精は尚も袖を引っ張り、何処かへ連れて行こうとする。

「私に用事があるの?」

『来て。付いて来て』

レイリアは妖精の必死な様子を見て、これは只事じゃないと思い、後を付いて行った。


妖精は急いでいるのか、走らなければ追い付けない。

必死に走って付いて行くと、比較的新しい宮の、長い回廊へ入った。

妖精はスピードを緩めず回廊を進むと、壁の中に吸い込まれる様に入っていく。

えっ!壁の中って!?

どうやって入るのよ?

レイリアは焦ったが、人気の無いこの回廊では、誰かに聞こうにも誰もいない。

本当に、なんでこの宮だけこんなに人がいないんだろう?

不思議に思いながらも他に方法が無く、試しに壁を押してみた。

ギイという音と共に、壁は回転して別の通路が現れ、そこには一つだけ扉があった。

妖精は扉の前でクルクルと回転して

『早く開けて。早く』

とレイリアを急かす。

レイリアはそっと扉を開けて、周りを見渡しながら中に入った。

扉の中には部屋があった。

小さな窓が二つあり、その側にはぶ厚いベルベットのカーテンが半分閉められた、天蓋付きのベッドがあった。

壁一面には本棚があり、びっしりと本が並べられている。

誰もいないのかと思って、部屋の中央へ進むと

「誰だ?」

と言う声がした。

レイリアが声のする方を見ると、それはベッドの上からで、深い青色の瞳を涙で潤ませた、赤毛の美しい男性が横たわっていた。

読んで頂いてありがとうございます。

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