一石二鳥
「えっ!?何ですって姫様?もう一度言って下さい」
お説教をしようとやってきたアマリアは、予想外の話に困惑している。
レイリアは大鍋に入れたベリーを煮詰めながら、火加減を調節したり味見をしたりと忙しく動き回っていた。
「何度聞いても同じよ。厄介者としてオセアノへ行く事になったの。まあ、十項目の条件さえ守っていれば、特に問題ないわ」
「うっ‥ううっ‥うう‥」
「ちょ、ちょっとアマリア!なんで泣いてるの?」
「ひ、姫様が‥私の大事な姫様が‥!余りにもお可哀想で‥こんな酷い条件ありゃしませんよ!ううっ‥!」
「えーそんな酷い条件かしら?要するに、王太子殿下の視界に入らない様気を付ければ良いって事じゃない」
「ご自分の婚約者にこんな条件を出すなんて、鬼畜ですよ!鬼畜!」
「婚約者‥かぁ。全然ピンと来ないのよねぇ。だって顔も知らないし、名前だってさっき聞いたばかりだもの。それに、他に意中の女性がいるという所へ私が割り込むのよ?邪魔をするなという警告だと思うのよねー。だったら大人しく従った方がいいわ」
「姫様は悔しくないのですか?意中の女性とやらにご自分の婚約者を奪われて、ご自身はないがしろにされるのですよ?普通はドロドロの愛憎劇です。ひとりの男を巡って争い合う女達。男は最初冷たくしていた妻に段々と心惹かれ、それを知った愛人は妻を憎み、あの手この手で‥」
「えーと、アマリア何の話をしてるの?小説の読み過ぎじゃない?」
「少々熱が入りましたが、こういう展開だって有り得るかもしれません。失礼しました」
「ある訳ないじゃない。だいたいアマリアの恋愛小説コレクション読んだって、ドキドキとか胸キュンとか全然理解出来ないんだから。何で男の人に対してそんな気持ちになるのかしら?」
「姫様、それはある意味問題です。もう18歳になるというのに、初恋もまだなんて!」
「だってこの国にはお兄様よりステキで、お兄様より賢くて、お兄様より強い男の人なんていないんだもの」
「出ました!超絶ブラコン!確かにドミニク様以上の男性はこの国にはいません」
「でしょ?うちのお兄様は世界一だわ!」
「‥姫様がそんなだから返り討ちに遭った死体の山が増えるんです。自覚は無いようですが。これはある意味で、オセアノへ行くのは姫様が成長出来るいい機会なのかもしれません」
「どういう事?」
「大国ならばより多くの男性がいます。ドミニク様以上の男性だって見つかる筈です。王太子殿下はどうせ結婚する気なんてないでしょうから、姫様はオセアノで胸キュン相手を探したらいいんですよ」
「うわー出たわね恋愛脳。そんな上手くいきっこ無いわよ」
「いいえ!私には予感がします!こうしてはいられない!荷造りに取り掛かりますね!それから、私もオセアノへ付いて行きますから!」
「えっ!?ちょっとアマリア!」
「あ〜忙しい!」
アマリアはスカートの裾を持ち上げて、慌ただしく厨房から出て行った。
こうなったアマリアは誰にも止められない。
「初恋ねぇ。別に成り行き任せでいいんじゃないかしら‥‥」
レイリアは呟くと溜息を吐いた。
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