乗りかかった船
一夜明けて王宮での最初の朝、レイリアは早朝からルイスに叩き起こされた。
叩き起こしたといっても、レディ(?)の部屋へルイスが入る訳にはいかないので、直接起こしたのはアマリアだ。
想像以上にフカフカで、寝心地の良いベッドに後ろ髪を引かれつつ、渋々身支度を整える。
「姫様、フワァ〜やっぱりこれやります?」
「当たり前よ。今更後には引けないわ、フワァ〜殿下に啖呵を切った後だもの。アマリアの欠伸が感染ったわ」
アマリアはベールをレイリアに被せて、顔が見えない様整えた。
「ルイスはなんだってこんな早く起こしに来たの?」
「神殿がどうのって言ってましたよ。昨日の奇跡って騒いでたヤツじゃないですかね?」
アマリアは心底どうでもいいという感じだ。
「まさか本当に供物を捧げろって言うんじゃないでしょうね?そんなに信心深かったかしら?」
「さあ?行ってみれば分かりますよ。さっさと戻って二度寝しましょう。今日は休むって決めてるんで」
「賛成よ。あ、アマリアが決めてるのね」
二人は支度を終えて、部屋の外で待つルイスに合流した。
「なんだってこんな朝早く起こしに来たのよ?」
「神殿で供物を捧げる為に決まってるだろ!君は奇跡を目の当たりにしたんだから」
まだ言ってる。
眠いし、朝からルイスとやり合う気力もないし、言う通りにしてさっさと二度寝と決め込みますか。
ルイスはご丁寧にレイリアの分の供物を用意していた。
「僕は日の出と同時に済ませたから、君は一人で行っておいで。逃げようったってそうはいかないからね!」
「はいはい。言う通りにしますよ。やればいいんでしょ、やれば」
「分かればいい。ここでアマリアと待っているから、この先の突き当たりにある祭壇に供物を捧げて祈って来るんだ。分かった?」
面倒くさくなったレイリアは、黙ってルイスに頷いた。
神殿入口の階段を上り、言われた通り真っ直ぐ進む。
オセアノは多神教で様々な神を祀っているが、神々の頂点に立つのは全能神シントラとされている。
この王家の神殿では、シントラが祀られていた。
神殿の中は広間になっており、細かい彫刻が施された立派な柱が何本も並んでいる。
広間の先には人一人が通れるくらいのアーチがあり、そこをくぐると祭壇があった。
まだ半分頭が寝ている状態のレイリアは、祭壇の前に着くまで、先客がいる事に気付かなかった。
「姫君、早いな。貴女も祈りを捧げに来たのか?」
誰?と思って振り向くと、そこにいたのは
「で、殿下!!」
「ああ、おはようと言うべきだね。昨日は良く眠れたかい?」
「あ、ハイ、おかげ様でグッスリ眠れました。でも殿下、ナゼココニ?」
「私の日課でね。この時間しか都合が付かないんだ」
驚いてカタコトになってしまったわ。
考えてみたらそうよね。
王家の神殿に殿下がいても、何の不思議もないんだから。
それにしても、殿下の話し方に違和感を感じる。
どうしたのかしら?
「殿下、つかぬ事を伺ってもよろしいでしょうか?」
「私に答えられる事なら何でも」
やっぱりなんか違う!
なんかフレンドリー!
「昨日と印象が違うんですけど。話し方とか」
「神の前で自分を偽る事は出来ない。普段はそうあるべき自分でいるんだ」
なるほど!とは言い難い。
それ程知っている訳ではないし。
「殿下は信仰心が強いのですね。バルコスでは宗教より妖精第一なので、あまり祈りを捧げる機会が無いのです」
「信仰心というよりは、懺悔の様な物かな。昨日貴女に話した通り、私は罪人だからね。どんなに祈っても罪は消えないんだ」
うう‥朝一からその話題は‥かなり重い。
かといって、聞いたからには気になるし。
こういうのを何と言ったかしら?
渡りに船じゃなくて、アレだわ!
「今ここにいるのは私と殿下だけです。良ければ少しだけ聞かせて頂けませんか?懺悔には聞き手が必要でしょう?」
ジョアンは少し考えて、静かに頷いた。
「では少しだけ。私は生まれながらのと言ったね。その話から話すとしよう」
半分頭が寝ていたレイリアだったが、ジョアンの話が気になって、すっかり頭が冴えていた。
私が受け入れられる範囲の話ならいいんだけど‥
静かに話し始めるジョアンを前に、レイリアはそんな事を考えていた。
暑いです!
これ以上ないくらい
暑いです!
熱中症には気を付けて下さいね。
読んで頂いてありがとうございます。