行き掛けの正直者
ブラガンサ領からバルコスへと繋がる道は、数日前の雷雨によって一時的に通行止めになっていた。
落雷による倒木が道を塞いだ為だ。
元々道が悪い上にぬかるみも酷く、復旧には数日かかる見込みだ。
ドミニクがオセアノ国王へ遣わした使者も、ここで足止めを食う羽目になった。
使者は大至急というドミニクの期待に応えて、通常10日かかる所を7日で辿り着き、そのままとんぼ返りでもう一つの用事を済ませる為、ブラガンサ領に寄ったのだ。
国王からの返事を辺境伯に託し、辺境伯自慢の鳥達を使ってドミニクへ届けて貰う為に。
使者が滞在する国境に一番近い宿は珍しく空いていて、宿泊客は他に三組しかいなかった。
宿の主人の話では、バルコスへ行くのは使者と、三組の内の一つ、二人組の男達のみだという。
使者は親しみを感じ、食堂で二人組の男達に声をかけた。
「あんた達もバルコスへ行くんだってな。俺はジョゼって名前でバルコス人だ。お互いに参ったな。でもここは良くある事だから、待つ以外にはないんだけどな」
男達は最初驚いた顔をしたが、バルコス人だと聞くと、態度を変えて色々と聞いてきた。
「バルコス人は色素が薄いと聞くが、あんたはそうでもないな」
「バルコス人だからって、全員がプラチナブロンドって訳じゃない。多いってだけでオセアノ人とあんまり変わらないよ」
「瞳の色には特徴があるのかい?例えば光の加減で色が変わるとか」
「そんなの今バルコスにはいないさ。それは祝福って言って、妖精王の恩恵なんだから」
「では光に透けるとピンク色に輝く髪っていうのはいるのか?」
「いないね。あんた達が言った特徴を持ったバルコス人なんて、今バルコスにはいないよ」
男達は何故か肩を落として項垂れた。
「なんだ?そんなに残念なのか?俺は今はいないって言ったんだ。あんた達の言う特徴を持った人物なんて一人しかいないからな」
二人の内一人が顔を上げて、ジョゼの言葉に食いついた。
「その特徴を持った人物とは娘か?もしそうだとしたら何処にいるんだ?」
「娘なんて言い方は失礼だぜ。一応高貴な身分なんだから」
「高貴?それはいったい誰なんだ?」
「今オセアノへ行ってるうちの姫さんだ。祝福は姫さんだけの物だし、髪も姫さんだけしか持っていない。若様も綺麗なプラチナブロンドだけどな」
男達の顔色はサッと変わった。
「ジョゼさん、俺達はどうやら忘れ物をしたらしい。一旦戻る事にしたんで、あんたとはここでお別れだ。あんたに会えて良かったよ。旅の無事を祈る。気を付けてな!」
「あ、ああ。えらい急だな。あんた達も気を付けて!」
「ありがとう!」
男達はそう言うと、さっさと荷物を纏めて宿を出て行った。
「えらい忙しい連中だな‥」
見送ったジョゼはポツリと呟いた。
宿を出た男達は、馬を準備しながらこんな話をしていた。
「念の為ブラガンサ領から洗い直して良かったな」
「ああ。偶然とはいえ、思わぬところで意外な話を聞けた。まさか姫君だったとは」
「とにかく急いで王都へ戻り、エンリケ様に報告だ!」
「よし!急ぐぞ!」
男達は馬を跳ばして、一路オセアノ王都を目指し、あっという間にブラガンサ領から去って行った。
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