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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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危ない橋を渡る

ゴトゴトと森の中を馬車は進んで行く。

座席にはレイリアと、その対面にルイスとアマリアが並んで座っている。


「さてレイリア、僕が何を言いたいのか分かっているよね?」

ルイスはとても意地悪な顔をして言った。

ブンブンと音が聞こえる程勢い良く頷くレイリアに、アマリアはチッと舌打ちをする。

「‥殿下を蹴った事よね?」

「分かってるなら話が早い。ああもう!ちょっとその格好、馬車の中では取ってくれ!顔が見えないと君が反省しているかどうか分からないからね!」

言われてシュンとしながら帽子とベールを取った。


「姫様、シュンとしてもダメですよ。もう少しで全て台無しになる所だったんですから。いくら得意だからといって、回し蹴りを披露する姫君がどこにいます?おや、そこにいましたか。私の見間違いかなとは思いましたが、そこにいましたか!」

お説教中のアマリアは舌好調だ。


「‥殿下には、謝罪したわ」

「当たり前だ!あの小屋の中には僕等と殿下達以外いなかったのがまだ救いだ!もしも衆人環視の中だったらと思うとゾッとするよ!」

確かにルイスの言う通りだ。

謝罪したとはいえ、返す言葉が無い。

「それで姫様、殿下は何と?」

「元より自分の言い出した事だと言って、怒るどころか褒めてくれたわ。中々素早い足捌きだと」

「‥‥奇跡だ!レイリア今日からお祈りをサボるなよ!そして神に感謝しろ!僕は今日奇跡を見た」

「神というよりは、殿下の寛大な処置に感謝ですよ。私なんか驚いて鼻の穴にタマネギを突っ込んだんですから!血液どころか鼻水サラサラですよ!」

「感謝しているわよ。思っていたより話の分かる方だったわ。私を楽しい人だと言って、笑っていたし」

「笑った!?殿下が!?」

「ええ。二回笑ったわ」

「やっぱり奇跡だ!!殿下は愛想笑いしかしないと言われているんだぞ!その殿下が二回も笑ったんだ!レイリアお祈りじゃあ足りない。明日王宮の神殿に供物を捧げるんだ!」

「いやルイス、殿下だって人間だわ。笑うくらいで大袈裟な。たまたま私がツボにハマったんでしょう。なんせ田舎者の天然記念物だから珍しかったのよ」

「姫様、たまたま運が良かったからといって、開き直りは許しませんよ。ドミニク様は姫様にレディになって欲しいと望んでおいでです。姫様がこんなお転婆になったのも、自分が武術など仕込んだせいだと、ご自身を責めておいででした。姫様はドミニク様の期待に応える気はおありですか?私にはそう見えないんですが?」

「‥うっ!お兄様の名前を出されると、何も言えないわ。明日から、明日から頑張るから!」

「その言葉、ルイス様しっかり記録して下さい。幸い滞在先は王宮です。レディ教育には事欠きません。明日からみっちりしごきますからそのつもりで!」

「‥はい」

今度こそ本当にシュンとなった。


「で?殿下と何を話していたんだい?」

「えーと所謂誤解?殿下の考えとか、色々食い違いがあった事とか、まあ色々よ。そこそこ理解出来たわ」

「ふーん。君はあんまり物事を深く考えないからね。ドミニク兄さんが来るまでしっかり監視しないといけないね。明日からくっついて回るから覚悟しなよ。僕はドミニク兄さんに頼まれているんだから」

「‥はい」


「ところでレイリア、殿下は想い人について何か言っていなかったかい?」

「想い人?ああ、とても大切に思っているという事は分かったわ」

「想い人とはどこの誰とは言っていなかったのか?」

「いいえ。ただ‥‥やっぱり何でもないわ」

「何か隠しているだろ?僕には分かる。君は隠し事をする時、視線を逸らすんだ」

「ないわ。よくそんな所見てるわね。レディに失礼よ」

「どこにレディがいるんだい?僕には見当たらないが?」

「とにかくないったらないわ」

「言いたくないなら仕方がない。僕は勝手に調べるさ。殿下の想い人とやらをね!」

「本当に想い人については誰とは言っていなかったのよ。ただ殿下はその方の事を幸せにしたいとだけ言っていたわ」

「分かった。今の言葉は信じるよ。だが僕はやはり調べる必要があると思う。殿下に望まれて誰にも知られない女性など、このオセアノにいる筈がないんだから」

「どういう事?」

「つまり、実在するのかって事だよ。普通は殿下に話しかけられただけで自慢したり、噂に上ったりする筈だからね。でもこの想い人に関しては、全く何の情報もない。だから僕は疑問に思うんだ。本当に実在の人物なのかと」

「‥確かにそう言われてみればそうね‥‥」


殿下が王太子を退く事で、想い人は幸せになれると言っていた。

と、いう事は想い人とは少なからず存在するという事なのだろう。

これはルイスには話せない。

いずれにせよ殿下の秘密を聞かない事には、想い人とは誰なのかも分からないのだ。

陛下が戻るまでには‥と、殿下は言っていた。

でも一つだけ教えてくれた言葉が引っかかる。

「私は生まれながらの罪人なのだ」

この言葉の意味を考えると、レイリアは秘密を知るのが恐ろしくなった。

読んで頂いてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自国に圧力を掛けてくる国の王太子は、謂わば敵で決して味方ではない。 なのに味方であるルイスとアマリアに、ジョアンが言った「自分は罪人だ」ということを話さないのはすごく不自然だなと思いま…
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