にわかには信じ難い
レイリアの言葉に、ジョアンは再び跪いて頭を下げた。
「姫君にそこまでさせてしまった事、そして傷付けてしまった事、いくら謝罪しても足りる物ではない。何と言ったらいいのか分からないので、せめて頭を下げさせてくれ。本当に申し訳なかった」
「ではお気の済むまでどうぞ。それで私はこれから何処へ追いやられるのでしょうか?このままこの小屋へ留まれば良いのですか?」
慌ててエンリケが口を開く。
「とんでもないことでございます!姫君には陛下が戻られるまで、国賓として王宮に留まって頂きます。そもそも、離宮などと言い出さなければ、この様な場所に姫君をご案内する事もございませんでした。私共の失態、重ねてお詫び申し上げます。只今迎えの馬車を手配致しますので、この様なむさ苦しい場所で大変心苦しいのですが、もう暫くお待ちください」
外の捜索隊に指示を出しに行ったのだろう。
エンリケは慌てて飛び出して行った。
アマリアはまだ泣いている。
ルイスは慌ててアマリアに駆け寄り、背中を摩りながらヒソヒソと話す。
『アマリア空気を読んでくれ。もういいから』
『鼻の穴からグスッ!タマネギが抜けまグスッ』
あたふたとルイスは、アマリアを外へ連れ出した。
ちょっと!殿下と二人きりって!
ないわ〜!
このシチュエーションないわ〜!
レイリアの心の叫びとは裏腹に、ジョアンは顔を上げるとレイリアに話しかけてきた。
「姫君、どうしても二人だけで話したい事がある。私が頼める立場ではないが、時間を頂いても良いだろうか?」
図らずも二人きりになってしまったこの状態で、レイリアに断れる訳がない。
「仕方がありませんわ。実際二人しかおりませんもの」
レイリアが投げやりにそう言うと、ジョアンは「人払いをしてくる」と言って出て行った。
戻って来ると扉を閉めて、レイリアの手を取りソファへ座らせる。
エスコートって訳ね。
物凄く今更って感じ。
二人で話とか。
サッサと終わらせてしまいましょう。
ジョアンがレイリアの向かい側に座ると、レイリアが徐ろに切り出した。
「で?お話とは何ですか?」
ジョアンは一度深呼吸してから話し始めた。
「姫君に出した条件、あれは本当に酷い物だった。本当に申し訳ない。いくら焦っていたとしても、やってはいけない事だった。結果として当初の目的通りになったとはいえ、姫君を利用した上傷付けた」
「利用?聞き捨てならない台詞ですが?」
「こんな事を言うのはどうかしていると思われるだろうが、私は失脚するのが目的だった。私より相応しい人物に王太子の座を譲る為に。その為に姫君を利用して、自分の評価を著しく下げた。姫君には陛下に訴えて貰う予定だったのだ。あの様な非道な人間は、王太子に相応しくないと」
「マジ?いえ、正気ですの?まともな考えじゃないわ?」
「誓って言うが、いたって正気だ。私は国王になってはならない人間なんだ。私より相応しい人物は既にいる。私は陛下に何度もそれを訴えて来たが、全く聞き入れて貰えなかった。それでも時間をかければ、いずれ理解して貰えると思っていたのだが。ここにきて急に状況が変わった」
「それはミドラスと私というお荷物かしら?」
「いや、確かにミドラスの圧力が一番の原因だが、陛下が私にこう仰ったのだ"速やかに姫君と結婚せよ。結婚した暁には即王位に就け"と。姫君には私が王太子の座を退き、相応しい人物の元へ嫁いで貰う予定だったのだが、陛下に先手を取られてしまった。焦った私は何としても阻止しようと、バカな条件を出して姫君を酷い目に遭わせてしまった」
「殿下は国王になってはならない人間と仰いましたが、その理由は何ですの?そこに殿下の想い人とやらは関係しているのですか?」
「私が退く事で、私の想う相手は幸せを手に入れる事が出来る。その為なら私は、どんな手段も厭わない。理由‥‥か。それについて今は詳しく話せない。陛下と私以外、誰も知らない事だから。ただ、今一つだけ言える事がある」
「一つだけ言える事?」
「ああ、一つだけ。私は生まれながらの罪人なんだ」
何を言っているのだろう?
殿下の言う事は理解出来ない。
アマリアが言っていたアレかしら?
「色々と複雑なんですよ、大国の王族という物は」
複雑にしても程があるわ。
それにしても殿下、罪人とか、そんな爆弾投下されても困るんですけど!
読んで頂いてありがとうございます。