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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
23/175

形勢逆転


侍女は泣いている。

これ以上ないほど大袈裟に、時々大声を上げて泣いている。

エンリケが何かを話す声を、搔き消す程の大声で。


ルイスはアマリアの側へ行き、背中を摩りながら耳打ちをした。

『アマリア、普通でいい。話が出来ない』

チラリとルイスを見るアマリアは、チッと微かに舌打ちをして、泣きながら頷いた。

泣き声のボリュームが落ちると、あからさまにホッとした顔のエンリケが、レイリアの前へ跪く。

「姫君、この度の数々の無礼、姫君に大変不愉快な思いをおかけしてしまいました。これも全て私と殿下の不徳の致すところであり、先ずはお詫びをさせて頂きたく存じます。大変申し訳ございませんでした!!」

言い終わるとエンリケは、床に額を擦り付けながら平伏した。

続いてジョアンもエンリケの横へ並び跪くと、頭を下げて謝罪を述べる。

「私の愚かな行動が全ての原因であり、姫君を傷付け、取り返しのつかない事をしてしまった。今更この様なと思われるかもしれないが、姫君には本当に申し訳なく思う。姫君、本当にすまなかった!」

二人が謝罪してもレイリアからは何の返事もない。

そこで二人はそれぞれ「申し訳ございません」と「本当にすまない」を何度も繰り返してみるが、やはりレイリアは何も言わなかった。


「ああ、そうか!これでは姫君は何も話せない。お気付きですか殿下?姫君は十項目を忠実に守っているのです。殿下の許可がない限り、姫君は話す事も笑う事も顔を見せる事も出来ないのです。姫君の答えを望むなら、殿下が許すと仰らなければ!」

ルイスはいかにも今気付きましたよという顔をして、レイリアの状態を解説した。

これにはジョアンも焦りの色が隠せない。

「姫君、発言を許す。いや、十項目など最早撤回する!どうか返事をして貰えないだろうか?」

するとレイリアは、ゆっくりと二人の周りを一周して、漸く口を開いた。

「ご自身で出した条件を、簡単に撤回すると仰るとは、随分と勝手な了見です事。一国の王太子のなさりようとはとても思えませんわ。それがこの国のやり方だと仰るのならば、私は今すぐミドラスへ旅立ちましょう。そうだわ!最初からそうすれば良かったのだわ!少なくともミドラスからは、バカげた条件など出されなかったというのに」

ジョアンの顔色は真っ青だ。

「愚かな私は、姫君にそう言われても仕方がない事をしでかした。姫君の仰る通り、身勝手な条件を突き付け、傲慢な態度をとった事、これは罪に値する行いだ。だがどうか、ミドラスという選択だけはしないで欲しい。私なら殴るなり蹴るなり、姫君の気の済むまで、どんな罰でも受け入れよう。どうか愚かな私のせいで、国民を危険に晒す事だけは!!」

「殴るなり蹴るなりですって?では殿下、立って下さい」

「いや、姫君への謝罪にこの姿勢を崩す訳には‥」

「立って下さいと言ったのです。聞こえませんでしたか?」

ジョアンは渋々立ち上がった。

「顔と体どちらを望みますか?」

訳が分からないジョアンは、何と答えたらいいか迷っていた。

「お答えにならないのなら、私のやりやすい方に致します。そうですねぇ‥体にしましょうか。お腹に力を入れて下さい。これは親切で言っています」

益々訳が分からないジョアンは、言われた通り腹に力を入れた。

するとジョアンの体の側で、シュッと風を切る音がした。

「‥グッ!!」

脇腹に衝撃を感じて、鋭い痛みが走る。

一歩後ろへよろめいたが、ミゲルと違って鍛えてあったので倒れはしなかった。

目の前のレイリアを見ると、片足を上げながら一回転して元の位置に戻った。

ヒラリとベールが舞い上がり、ほんの一瞬だけ顔が見えたが、表情は分からない。

「‥姫君、これは‥?」

「殴るなり蹴るなりと仰ったでしょう?だから蹴った。それだけです。ミドラスは考え直してあげましょう」

まさか本当に蹴られるとは、ジョアンも思っていなかった。

ルイスも予定外のレイリアの行動に、困惑している。

エンリケは姿勢を崩さないが、一瞬だけピクリと動いた。

アマリアは‥‥安定の演技だ。


「殿下、一つ教えてあげましょう。殿下の条件に対する抗議文を、兄が既に国王陛下へ送ってあります。今後の事は殿下抜きで、陛下と兄の間で話し合われる事になるでしょう。それから、どの様な条件でも受け入れると仰ったとか。本当にどの様な条件でも受け入れるつもりですか?」

抗議文に狼狽えるジョアンだったが、条件については誠意を見せた。

「‥それは、もちろんだ姫君」

「では、バルコスの国境全てに兵を配置して、ミドラスが侵入出来ない状態にして下さい。これは陛下と兄の話し合いが終わるまで続けて頂きます。そうすれば兄も安心して、オセアノへやって来れるでしょうから」

エンリケはギョッとして思わず顔を上げた。

そして他国の警備にどれほどの経費が掛かるのか頭の中で計算し、考えただけで頭が痛くなった。

「戦争に比べたら、安い物だと思わない?ねえ、そこの‥お名前を聞いていなかったわね。そこの方」

「エンリケ・ヴェローゾと申します。姫君の仰る通りでございます。この度は本当に申し訳ございませんでした。殿下の失態は私の失態。姫君の条件は甘んじて受け入れましょう」

「それから、私の条件がこれだけだと思わない事ね。殿下は十項目もの条件を出してきたのだから。私はご覧の通り忠実に守ってきたわ。貴方方も誠意を見せて、私の条件を受け入れる準備でもしておきなさいな。ああ、ルイス、十項目第六をお願い」

「十項目第六なるべく顔を見せない事」

「私はこれを変えるつもりはないのでお忘れなく。殿下は私を見る度に、自分の行いを思い出す事になるでしょう」


私達の目的は謝罪では無かったのよね。

バルコスが優位に立つ事。

これが目的よ。

後はお兄様に任せれば間違いないわ。


まあ、殿下には蹴りを食らわせたから、それなりにスッキリしたけどね。

それにしても硬かったわ。

私自慢の脚力によく耐えたわねぇ。

蹴った私の方が足が痛いわ。

読んで頂いてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] レイリアさん、素敵! そして王太子は初恋をこじらせてる上に初恋の相手との関係をこじらせた(笑)。気付くまでニマニマしながら続き読ませていただきます。
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