本番直前
ジョアン達3人が小屋へ辿り着くと、離宮の捜索隊は膝を折って頭を下げた。
その中の一人がジョアンの前に進み出て、深刻な表情で口を開く。
「殿下、我々の捜索が遅れた為に、この様な事態を引き起こし、大変申し訳ございません。姫君の無事は確認出来ました。ですが姫君は、旅の準備をせよと仰っておられます」
「旅の準備とは、どこか他へ移るという事か?」
「いいえ。姫君はミドラスへ向けて旅立つと、その要求が通るまで、小屋から一歩も動かないと仰って、扉を固く閉ざしております」
「‥‥時すでに遅しの方か。姫君との会話は可能だろうか?」
「分かりません。少なくとも先程までは、我々の問いかけに答えてくれました」
「‥そうか。状況は分かった。そなた達には苦労をかけた」
捜索隊は一斉に頭を下げて、待機の陣形を組んだ。
「殿下、先ずは私が姫君に問いかけをしてみます。殿下が受け入れられるかは、まだ分かりませんので」
エンリケはそう言って小屋の扉の前へ進むと、馬を跳ばして乱れた髪を整えた。
「いや、ヴェローゾ殿、貴方方では難しい。事態は深刻だ。身内の私が話をしてみる」
扉をノックしようとしたエンリケを制し、ルイスが前へ出た。
「申し訳ない。確かにブラガンサ殿の言う通りだ。ここはお願いしても良いだろうか?」
ルイスは頷き扉をノックした。
コン!ココン!
ギイっと少しだけ扉が開き、アマリアが半分だけ顔を出す。
「私だ。従妹殿にお会いしたい。中へ入れて貰えないか?」
アマリアは無言で頷き、ルイスを中に入れて扉を閉めた。
「アマリア、何か臭うが何の臭いだい?」
「タマネギです。私は"大袈裟に泣く侍女"ですから。ほら、こうやると涙が出ますよ」
アマリアが切ったタマネギの欠片を取り出し、ルイスの鼻先に近付けると、ルイスは露骨に嫌な顔をした。
「分かった、分かったから僕に近付けるのはやめてくれ。努力は認めるけど、臭いがキツイ」
「タマネギをバカにするもんじゃありませんよ。泣きながら血液サラサラです」
「いや、それはどうかと。一旦タマネギから離れてくれ」
その様子を見ていたレイリアは、少し呆れながら二人を諭す。
「二人共、扉から離れて話しましょう。聞かれたら台無しになるわ」
二人は頷き、レイリアが座っているミゲルが用意したソファに進んだ。
「さてルイス、首尾はどう?」
「上々だよ。ミドラスを何度も匂わせたから、本気で君がミドラスへ行くと思っている。殿下は僕に頭を下げて謝罪した。君にも頭を下げるだろう」
「一応反省はしているみたいね」
「君に謝罪を受け入れて貰う為なら、どんな条件でも受け入れるって。しっかり言質は取れたよ」
「うまく追い詰めたじゃない!まあこれだけ大騒ぎになったら、殿下一人で解決出来る問題では無くなったわね」
「君はその格好で更に追い詰めるつもりだろう?例の解説は必要かい?」
「もちろんよ。ルイスはフォローをお願い」
「任せとけって相棒!」
「それじゃあ入って貰いましょうか。アマリアも準備はいい?」
「姫様‥グスッ既に準備は出来てグスッ」
「あ、大丈夫みたいね」
ルイスは立って扉へ向かい、振り返って頷くと扉を開いた。
扉の側で待っていたエンリケは、中の姫君を見てギョッとした。
ジョアンは再び目にした姫君の姿に、ショックを隠しきれなかった。
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