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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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メインはスパイスの香り

執務室からはエンリケの声とルイスの怒鳴り声が聞こえて来る。

ジョアンが中に入ると、エンリケがルイスを羽交い締めにしていた。

「今更ノコノコとご登場ですか殿下?我が従妹殿がどうなろうと、殿下には取るに足らない事の様だ」

片方の口の端を上げ、笑みを浮かべながら皮肉を込めてルイスは言った。

「ブラガンサ殿!先程から貴方の言動は、全て不敬に当たりますぞ!」

暴れるルイスを押さえつけながら、エンリケが叫ぶ。

「やめろエンリケ!ブラガンサ殿を離せ!これは不敬では無い。ブラガンサ殿の怒りは当然の事なのだ」

エンリケの拘束から逃れたルイスは、自由になった腕を摩り、大袈裟に顔をしかめた。

(よし!つかみはオッケー)


「ご立派ですな殿下。殿下の慈悲深さに涙が出ます。この様に慈悲深い方が、なぜ少しも姫君とバルコスに心を砕いて下さらなかったのか。お陰で姫君は行方不明となり、今頃はミドラスにでも連れ去られているやもしれません」

エンリケとジョアンの顔色が変わった。

「ミドラス!ブラガンサ殿、今ミドラスと申したのか?まさかその様な目撃証言があったというのですか?」

(おっ!いいね〜エンリケ殿!その調子!)


「私は一番可能性が高いと言ったまで。それに姫君の生死は不明だ。最悪のパターンを想像してみるがいい。バルコスという国は消え、オセアノに血の雨が降るだろう」

片手で顔を覆い、指の隙間からジョアンの様子を覗いてみると、真っ青になりながら拳を握りしめている。

(右フック、いや左ストレートか?どっちでもいい、とにかく効いている。このくらいのパンチをジワジワと浴びせていくのが目的だからね。いや、ちょっとジワジワよりバンバンに近いか?壊しちゃったからねー色々と)


「ブラガンサ殿の言う事は尤もだ。私の行いは全ての者にとって最悪の行いであった。だが今は姫君の捜索が最優先だ。ブラガンサ殿、詳しく話してくれぬか?何があったのかを?」

(はい、キター!あのバカ(ミゲル)がお膳立てしてくれたフルコースに食い付きましたねぇ殿下)

ルイスはワザと溜め息を吐き、離宮でのやり取りを話し始めた。

話し始めると直ぐ遠くで大声が聞こえ、ルイスは一つ咳払いをして一旦話を止めた。


「離せ!離せよ!庶子の分際で弟面するな!」

「私だってあなたを兄などと呼びたくはありません。聞けばお漏らしをしたそうですね。ああ恥ずかしい!汚いから触りたくありませんが、仕事だから仕方なくです」

執務室の外からミゲル(メインディッシュ)の喚き声が近付いて来る。

「カルロお前、言ったな!一番言っちゃいけない奴に言ったな!」

「聞くなとは言われましたが、言うなとは言われておりません」

「お前の主人は誰だと思ってる!」

「旦那様ですが?何を当たり前の事を。坊っちゃまはそんな事も分からないんですか?はぁ、嘆かわしい」

(何だ?坊っちゃまって‥お漏らしとか‥。やめてくれ、そのやり取り。面白すぎるじゃないか。頼むから笑わせるなよ‥お漏らしとか)

ルイスはこめかみを押さえて顔を顰めた。

エンリケは口元を押さえて、プルプルしている。

(エンリケお前もか!)


右頰が膨らみ薄く青痣になり、首には包帯という出で立ちで現れたミゲルは、エンリケの笑いのツボを押した様だ。

微かに「フフ‥」と声を漏らした。

ジョアンがエンリケをジロリと睨むと、エンリケは咳払いをしてミゲルに尋問を始めた。

「ミゲルよ、昨日姫君を何処へ案内した?」

「私はご指示通り"森の家"に姫君をご案内致しました。私には何の落ち度もございません」

「先触れはどうした?離宮には先触れを送る手筈であった筈だが?係の者もお前からは連絡が来ていないと、はっきり言っていたぞ」

「さ、先触れ?え〜と、確認不足でございました。しかし、先触れなど必要ないと思います。あの小屋に先触れなど送っても意味がありません」

「小屋だと?小屋とは何だ?それにお前のその顔は、落馬などではないな。どう見ても殴られた顔だ。お前を殴ったのはこの国の人間か?」

「‥‥言えません」

「ミゲル!この場でその様な返答が許されると思っているのか!」

黙り込むミゲルに思わぬ助け船が現れた。


「あの〜、私はマンソン家の家令を務めますカルロと申します。この顔の為坊っちゃまは碌に口が利けませんでしたので筆談しておりましたが、参考までに坊っちゃまの書いた物を持ってきました」

「カルロお前!主人を貶めるつもりか!」

「ですから、私の主人は旦那様ですって。坊っちゃまは本当に記憶力がお悪い。エンリケ・ヴェローゾ様でございますね?こちらが坊っちゃまの書いた物でございます。どうぞご確認下さい」

「さすがマンソン家の家令は優秀であるな。読ませて貰うが、その際のやり取りも説明して欲しい」

「はい。一言一句漏らさずでよろしいですか?殆ど私の愚痴になりますが?」

「大まかで良い。行かないとは?」

「呼び出しに対し、ズル休みを選択されました」

「それでこの落馬したとでも‥に続くのだな?見た目以上に痛いとはあの顔の事として、あれはやはり殴られたのか?」

「聞くなという事は多分そうなのでしょう。坊っちゃまに限っては良くある事なので」

「ミゲル、もう一度聞く。お前を殴ったのは外国人か?」

ミゲルは黙ったままコクンと頷いた。

「まさか‥!本当にミドラスなのか‥?ミゲル!お前は森のどの場所で殴られた?」

「‥入り口からおよそ10キロ先の、森の家の前です。姫君のご滞在場所である小屋の前です」

(ようやく言ったか)


絶句するジョアンとエンリケを確認すると、ルイスはミゲルの弟の反応を見た。

近衛の制服に身を包み、ミゲルよりずっと背も高く体格の良い弟は、残念な物を見るような顔をしていた。

読んで頂いてありがとうございます。

余談ですが、登場人物の名前はポルトガル風、いやむしろまんまポルトガルーな名前を使っています。

サッカー選手の名前も出て来るかもです。

過去の代表選手とか。


暑さに負けず、頑張ります!




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