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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
172/175

【コミカライズ1巻発売記念!】あの時の話1

12月4日 こじらせのコミカライズ第1巻が発売となりました。

コミカライズが始まってから、知らぬ間に10,000ブクマオーバーしておりまして、あらビックリ!

いや、ホント有り難い限りです。


オセアノ騎士団の訓練は、通常早朝から正午までで、午後になれば訓練場はもぬけの殻となり、物音1つしない静かな場所となっていた。

しかしここ最近、午後になると普段なら聞こえる筈のない、剣を打ち合う音が聞こえている。

好奇心からその音に足を止めて覗いた人々は、目にした微笑ましい光景に、つい顔を綻ばせていた。


「うん、スジがいいですぜ子主人!さすが主人の息子なだけアラァ!」

屈強な体つきにヘラング訛りの男は、目の前の子供に対して満足気に頷いている。

「スジ?スジってなぁに?それに子主人ってなぁに?」

サラサラなピンクゴールドの髪に、深い青色の瞳をキラキラと輝かせた小さな子供は、自分の身長の半分もあるかという程の長さの、訓練用の剣を一生懸命に構えている。

そして穢れを知らない純粋な子供の質問に、稽古を付けている男はたじろいだ。

「えーっと‥おいリカルド!上手く説明してくれい!」

「ルイ、都合が悪くなったら俺に振るのは止めろ。自分で言った言葉なんだから、しっかりと責任を持て。大体子主人なんて呼び方、俺はどうかと思うぞ」

「チッ!俺ァ学が無いから、何て説明したらいいか分かんねーんだよ!主人の息子だから子主人って呼んで何が悪い!‥っと、何ですか子主人?」

いつの間にか師匠に当たる男、ルイに近寄り、小さな子供は上着の裾を引っ張っている。


「ルイ、今チッ!ってやったでしょ?それやっちゃいけないヤツだってアマリアが言ってた。母上がやったらう〜んと怒られてたから、ルイもやっちゃダメなんだよ。アマリアはねえ、怒らせちゃダメなんだって」

「へっ!?い、いやぁその‥確かにあの侍女殿は強烈だけどヨォ、それ、怒らせちゃダメって誰が言ったんです子主人?」

「母上!」

「ああ、納得‥。子主人の母上の得意技は、侍女殿を怒らせる事でサァ。俺のは怒られないから、何の問題もネェんですよ」

「そうなの?じゃあ僕もチッ!ってやってもいいの?」

「い、いやその、子主人はダメでサァ!えーっと、やっぱり俺もダメでサァ。‥ダメだ、うっかり子供の前で変な事言えネェな‥」

後ろで見ていたリカルドは、堪え切れずにプッと吹き出した。

かつてミドラスで傭兵として、何人もの強者と渡り合っていた男が、たった3つの子供に翻弄されている姿が、可笑しくて堪らなかったからだ。


「おいリカルド!笑ってネェで助け船を出せ!」

「助け船ってなぁに?お船の事?どんなお船なの?」

「うっ‥勘弁してくだせェよ子主人‥」

狼狽えるルイを見ながら、腹を抱えて笑うリカルド。

苛立ちながらリカルドをギッ!と睨み付けたルイの視線の先には、こちらへ向かって歩いて来る、一人の人物の姿が見えた。


「あっ!父上〜!!」

小さな子供は持っていた訓練用の剣を放り、その人物の元へ真っ直ぐに駆け寄る。

「ロナウド、良い子にしていたかい?」

両手を広げて抱き上げられるのを待つ子供を、やって来た人物、エドゥアルドはひょいっと抱き上げた。

「うん!あのね、スジっていうのがいいんだって。父上、スジってなぁに?」

「ルイがそう言ったのかい?良かったねロナウド、それは褒めてくれたんだよ。もっと上手くなるってルイは言ったんだ。でも、それはロナウドが毎日休まず練習しないとダメだからね、サボったり怠けたりしてはいけないよ」

「うん!僕ちゃんと練習する!」

キラキラと輝かせた深い青色の瞳は、紛れもなく初代から受け継がれて来たオセアノ王族直系の証。

この瞳を見る度に、エドゥアルドは願う。

『どうかこの瞳が曇る事の無いように』と。


「いや〜主人、流石は主人でサァ!子主人は質問が多いから、俺ァ頭を抱えていた所なんでサァ!」

「ご苦労だったねルイ。最近ロナウドは何でも知りたがってね、リアも時々頭を抱えている事があるよ」

愛おしそうに息子の頭を撫でるエドゥアルドを、リカルドは穏やかな目で見つめる。

「主人、わざわざ主人が迎えに来なくても、ロナウド様なら俺がお連れしましたのに」

「いいやリカルド、これは父親としての私の役目なんだよ。昼間はあまり時間もなくて構ってやれないから、少しでも一緒にいてやりたくてね」

少し申し訳なさそうに言うエドゥアルドに、ロナウドは嬉しそうに抱かれている。

きっと父親の懐が、彼にとって一番安心出来る場所なのだろうと、リカルドは思った。

だからこそどんな事があっても、守り抜こうと心に誓う。


「さてロナウド、母上が迎えに来るまで、ジョアンの所で待てるかい?」

「叔父上の所?うん!美味しいお菓子くれるから、叔父上は大好き!」

「えっ!?そんな理由!?それじゃあ餌付けじゃネェですか?」

「まあ、こういう所はリアに良く似てるかな。それじゃあ二人共、また明日も頼むよ」

既にジョアン=お菓子という法則を頭に浮かべたロナウドは、ワクワクしながら元気良く二人に手を振る。

そうして父親の腕に抱かれたまま、ジョアンの執務室へ入ると、ロナウドは元気良く飛び降りた。


「叔父上〜僕が来たよ!」

難しい顔で書類を睨んでいたジョアンは、一瞬にして満面の笑みを浮かべた。

「良く来たなロナウド!美味しいお菓子を用意してあるぞ」

「やった!!やっぱり叔父上は分かってるぅ♪」

「ぬ!どこでそんな言葉を覚えたのだ?」

「えっとね、母上が言ってた」

「そ、そうか。何というかロナウドは、日に日にレイリアに似て来ているな。‥中身が」

「いただきま〜す!」

複雑な顔のジョアンを見て、クスリと笑うエドゥアルドは、息子の目線に合わせる様に屈んで、小さな頭をそっと撫でた。


「私はこれから出かけてしまうけど、母上が迎えに来るまで、ジョアンの所で良い子にしているんだよ」

「うん。僕、良い子にしてる!あ、父上!」

「うん?」

「痛いの飛んでけー!」

ロナウドはおまじないを口にして、エドゥアルドの腕を摩る。

そのやり取りを不思議そうに見ていたジョアンだったが、撫でた場所を見て一瞬苦悩の表情を浮かべた。

「ありがとう。もう痛くないから大丈夫だよ」

ロナウドの頰に軽く口付けると、ジョアンに頼んでエドゥアルドは部屋を出て行った。

美味しそうにチョコレートケーキを頬張るロナウドに、ジョアンは一つの質問をしてみた。


「ロナウド、兄上は‥怪我をしているのか?」

口一杯に頬張って返事が出来ないせいか、ロナウドはフルフルと首を振る。

「ああ、ほらお茶も飲みなさい。喉に詰まらせるぞ」

慌ててお茶で流し込むと、ロナウドはフゥと一息ついた。

「えっとね、古傷なんだって。痛くないって父上は言ってた。でもおまじないすれば早く治るでしょ?」

「‥そうか。やはり‥あの時の傷跡なのだな‥」

「あの時?叔父上、あの時ってなぁに?」

そう問いかけるロナウドに、フッと泣きそうな笑顔を浮かべて、ジョアンはロナウドの向かい側に座った。

「‥そうだな‥。話してやろう。あの時の話を‥」

いつも読んで頂いてありがとうございます!

皆様の応援がとても励みになります。ペコリ!

ペコリまり

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