ピンチはチャンス
金色の文字を読んだルイスは、直ぐに行動を起こした。
部屋付きの侍女に森へ遠駆けに出かけると言い、馬と地図を手配して貰った。
森の地図を頭に入れると、真っ直ぐレイリア達の小屋を目指す。
まずは昨日の出来事から、アマリアを交え詳しく聞いた。
レイリアは何処にいてもレイリアだ。
あのバカ(ミゲル)に回し蹴りを喰らわせたそうだ。
予想と憶測をお互いに話し合うと、そこから一つ作戦を立てた。
次に目指すは離宮"森の家"。
離宮の少し手前では、真新しい森番小屋が目に入る。
情報収集の為立ち寄って話を聞いたら、なんともお粗末な話が聞けた。
レイリア達が今いる小屋は、近々取り壊す予定だという事だ。
あのバカ(ミゲル)が昨日業者を呼んで何やら行っていた事を、不審に思った森番は、確認の為聞いたそうだ。
あのバカ(ミゲル)はこう答えた。
森の家はここしかない筈だと。
親切な私は田舎者に本物を見せ付けてやると。
正真正銘のバカだった。
離宮が"森の家"と呼ばれている事くらい、王宮で働く者なら誰でも知っている。
そもそもあのバカ(ミゲル)は一度しか森に来た事がないとの事だ。
離宮の存在や真新しい森番小屋に森番が住んでいる事を、あのバカ(ミゲル)は調べなかったのだな。
まあ、私とレイリアの予想通りだったが。
小屋の件は証人が得られた。
このネタは大いに利用出来る。
「女官長殿!今言った事は本当ですか?姫君は到着していないと、間違いなくそう言ったのですね?」
大袈裟によろめきながら、片手で顔を覆うルイスは唇を噛んで笑いを堪えた。
それが却って悲しみを堪えている様に見える為、女官長はオロオロと取り乱している。
「姫君には最高のおもてなしをせよとのご命令でしたので、私共も選りすぐりの女官のみを集めて姫君の到着を待っておりました。ですが姫君到着の先触れは未だに来ません。これはどういう事なのでしょうか?」
「それは私が聞きたいね!ともかくだ、この状況は非常にまずい。私の従妹殿がよもや行方不明になっているとは!もし姫君に何かあったら、私は貴女方を生涯許さないだろう!」
ルイスの演技に拍車がかかり、女官長は真っ青になっている。
悪いね。
女官長には何の落ち度もない。
貴女は姫君到着の先触れを、今か今かと待っていただけ。
ここでは事件が発生したと印象付ける事が重要なんだ。
姫君行方不明という事件がね。
「ブラガンサ様、大変申し訳ございません!直ぐに搜索する様手配致します!」
「君達など信用出来ん!王宮には私が連絡する!ああ、姫君はさぞかし心細く思っている事だろう!姫君は繊細でしとやかな方なのだ(真逆だけど)心に傷を抱えてしまうかもしれん!」
「本当に、本当に、本っっっっ当〜〜〜に、申し訳ございません〜!!!!」
女官長は涙目になって、床に頭を擦り付けながら土下座をしていた。
レイリア到着の先触れが来ないのを心配して、殆ど寝ずに待っていたのだろう。
女官長の目は充血し、くっきりとクマが浮かんでいた。
少しばかり罪悪感はあるが、大袈裟になればなるほど都合が良い。
女官長には頑張って騒いで貰おう。
「とにかく、私は急ぎ王宮へ向かう!女官長殿は姫君の捜索を続けてくれ!」
「かしこまりました!重ねて申し訳ございませんっ!!」
ゴツっ!
女官長は勢いよく床に頭をぶつけた。
それを見たルイスは顔をしかめて、なんとか笑いを堪え馬に跨った。
ルイスの行き先は、レイリア達のいる小屋だ。
小屋の手前の林が生い茂る中に馬を繋ぎ、辺りを警戒しながら慎重に小屋へと進む。
コン、ココン!
と、ルイスが軽くノックをすると、中からコココと3回ノックが返って来た。
音をたてずにそっと中へ入ると、ワクワクと期待に目を輝かせたレイリアが待っている。
「どうだったルイス?そっちの首尾は?」
「上々さ!見せたかったね、僕の迫真の演技を!」
「クスクスと笑う二人を見て、アマリアは昔を思い出す。この二人の悪だくみに、どれほど苦労させられた事か。被害に遭ったのは殆ど私だったっけ」
「「ちょっとぉーアマリア、ナレーションっぽく嫌味を言うのはやめて(くれ)!」」
「おや、お二人共聞いておりましたか」
アマリアは少し悪戯っぽくおどけてみせた。
今回ばかりはアマリアも、この悪だくみには賛成なのだ。
「さて、これで姫君は行方不明だ。これから僕は王宮へ戻って騒ぎを大きくしてくるよ。君のセリフは覚えたかい?しっかり練習してくれよ」
「任せて!迫真の演技をしてみせるわ。頼んだわよ!相棒!」
「ああ!僕等は僕等のやり方で、殿下に一矢報いてやろう。それじゃあよろしく!相棒!」
ルイスは小屋を出ると、王宮目指して馬を走らせた。
彼らの悪戯や悪だくみを、今まで阻止出来たのは、たった一人ドミニクだけだった。
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