【その後】リサーチ3
カドカワフロースコミックより、コミカライズがスタートしました。
漫画家van様により、レイリアも元気に動いています。
ありがたや〜!
「えーっと、時にエンリケ様は、何と言って求婚したんですか?」
まあね、こんな時は困った時のエンリケ様だ。
「私ですか?いや、私のはあまり参考になりませんよ。以前ジョアン殿下にも参考までにと聞かれましたが、本当に参考にならないと言われた実績もありますし」
何回参考って単語を言うんだって位、参考を連発してるから、きっと本当に参考にならないんだろうな。
ジョアン殿下も深く頷いてるし。
「ルイス殿、エンリケのは聞くまでも無いぞ。まあ、どうしても知りたければ、不本意だがレイリアの侍女殿の本を読んでみるがいい。不本意だがな」
そうか、恋愛小説は柄じゃないから、タイトルだけしか読まなかったけど、アレはやっぱりジョアン殿下をネタにしてるのか。
う〜ん‥読むべきか‥読まざるべきか‥
悩む僕の肩を、エドゥアルド殿下が軽くポンと叩く。
以前はライバルの名乗りを上げる前に、圧倒的な敗北を喫したこの方だけど、全く悔しいとは思えない位、僕はこの方を尊敬している。
だってあのレイリアを妻に出来るなんて、尊敬しかないだろ?
どのみち僕じゃ相手にもされなきゃ、手に負える筈も無かった。
「ルイス殿、君は君らしく、思ったままを伝えるのが一番だと思うよ。飾らない君の言葉を受け入れてこそ、お互いに相応しいと思える相手だと私は思うんだ」
あ、ヤバイな‥ちょっとグッと来た。
この方は常に真っ直ぐレイリアと向き合って来たんだ。
どんな目に遭っても諦めずに。
よし!ちょっと勇気貰った!
上手い言葉でカッコつけようとしたって、結局僕は僕だもんな。
「なんかお騒がせしました。ちょっと急用を思い出したので、今日の所は失礼させて頂きます」
僕の都合でさっさと帰るのも失礼かと思ったけど、殿下達もエンリケ様も快く送り出してくれたから、そこは国のトップ、流石に懐の深さを感じるよ。うん。
とにかく僕は一目散に、彼女の元へと馬を飛ばした。
目指すはカストロ子爵邸。
行儀見習いを終えて、実家に戻ったイネス嬢の家だ。
一応今日訪問する事は、事前に手紙で報せてあるけど、予定よりは大分早い訪問にはなる。
にも関わらず快く迎えてくれた執事に、僕は応接室へと通され、イネス嬢の訪れを高鳴る胸の鼓動を抑えて待った。
「お久しぶりでございます、ルイス様」
柔らかな笑顔を浮かべたイネス嬢は、記憶にある姿よりもずっと輝いて、うるさいぐらいに心音が高まる。
僕は相当舞い上がっていたんだろう。
いきなり聞いたのは自分でも、何でそんな事を?ってやつだった。
「ひ、久しぶりだねイネス嬢。えっと、大きくなった様に見えるけど、身長伸びた?」
「は?身長ですか?変わらず156センチですが?」
僕のバカ〜!!
何聞いてんだよ!
でも、ここで怯んでいられない。なんとか巻き返しを図ろうとして、いつもの言葉遊びを持ち出した。
「そ、そうなんだ‥。うん、相変わらず君の笑顔に、君の身長と同じダメージを食らったよ」
「身長と同じ‥ですか?」
訳が分からないといった顔で、小首を傾げるイネス嬢。
ああ、こんなんじゃ全然伝わらない!
だけどこれも僕らしさだ。
「えっと‥つまり、その‥156…イチコロって事なんだけど‥」
「えっ!?」
みるみる顔を赤くして、両手を頰に当てる仕草を見せるイネス嬢に、高鳴る鼓動は最早ドクンどころかズキュウンに変わる。
ああ、やっぱり可愛いなぁ。
うん、全てにイチコロだよ。
「イネス嬢、僕は近い将来、ブラガンサ辺境伯の跡を継ぐ。だけどブラガンサ領は王都と違って、楽しい事も何も無い所なんだ。そんな魅力も何も無い土地だけど、僕は生まれ育った土地をとても誇りに思っているよ。先祖が命を懸けて守った、大切な土地だからね」
イネス嬢は僕の話に、黙って頷いている。
ああ神様、ここからがいよいよ本場です!
「だけどね、僕にはもう一つ大切な物が出来たんだ。それが今、目の前にいる君だって言ったら、君は嫌かな?」
「ルイス様‥」
「嫌ならはっきり断ってくれて構わない。だけど僕は、君にブラガンサ辺境伯夫人になって欲しいと思うんだ。楽しい事も何も無い所だけど、ブラガンサ辺境伯は守る事にかけては、このオセアノのどの貴族にも負けないつもりだよ。だから君の事も、守らせて欲しいんだ‥」
ドキドキしたけど、これが正直な僕の気持ちだから、一生懸命伝えたつもりだ。
どんな答えが返って来るのか、ズキュウンを抑えて返事を待つ。
すると意外な事に、イネス嬢はクスクスと笑い出した。
「もう、ルイス様ったらおかしな事を。ルイス様がいて、楽しくない筈がないじゃないですか」
「えっ!?それじゃ‥返事はオッケーって事?」
「ええ。毎日ルイス様のセンスある言い回しが聞けると思うと、とても楽しみですわ」
思わずガバッと抱きしめて、二人で顔を真っ赤にしたよ。
やっぱり神様は見てるよね〜!
ともかくこれからの人生が楽しみで仕方がない!
あ、散々聞いておいてなんだけど、殿下達やエンリケ様には、僕のプロポーズの言葉は内緒にしておこう。
彼女にイチコロと言った経緯を、エンリケ様に聞かせたら悔しがるだろうからね。
読んで頂いてありがとうございます。