【その後】リサーチ2
王宮の長い回廊を歩くのも久しぶりだ。
しかもこんな風に応接室へ案内されるってのは、少し緊張する。
まあ、今日訪ねる事は事前に連絡しておいたから、殿下側でも迎える準備を整えてくれたらしい。
そこは抜かりがない僕だ。
ちょっと早く着き過ぎたのは、ご愛嬌って事で。
「こちらで少々お待ち下さい。只今殿下に報せて参ります」
深々と頭を下げる侍従の言う通りに、僕はこの煌びやかな応接室で待つ事にした。
ソファなんかフカフカで、思わず飛び跳ねたくなってしまう。
そういえば昔レイリアとそんな事をして、ドミニク兄さんに叱られたっけ。
あれは確か‥バルコス城の応接室だったなぁ。
「壊れたら新しいのを買う訳にもいかないんだよ。うちは貧乏なんだからね」
弱冠7歳のドミニク兄さんがそう言って叱ったら、後ろで聞いていた大公様が涙目になっていたのが忘れられない。
確か「ごめん、貧乏で‥。うっかりドミニクの前で、予算が足りないと言ったばっかりに」って呟いてた。
今思い出すと笑いが込み上げるよ、ホント。
「おお!ブラガンサ殿、いや〜お待たせしてしまいましたね」
おっと、エンリケ様の登場だ。
良かったよソファで跳ねる前で。
「エンリケ様もお元気そうで何よりです。最近の調子はどうですか?」
「いや、調子は相変わらずです。エントリーすら叶わないのが、辛い所でして‥妻は入賞しているというのに!」
「あ、そっちの調子ですか。つまりネーミング愛、変わらずって事ですね」
「くっ!そのキレ味!そのセンス!羨まし過ぎる!」
「いやいや、僕のは単なる思い付きなだけですよ。殿下達はまだ手が開かないんですか?」
「お二人共すぐに向かうと言っていましたから、もう来ると思いますが‥ああ、ほら、来ました!」
応接室の扉がガチャリと開き、二人の殿下が入って来る。
お二人共変わりない‥いや、微妙に違うぞ!?
エドゥアルド殿下は前より体つきが逞しくなって、すっかり健康そうだけど、そこは想像の範囲内だ。
なんていうか、お二人からオーラのような物を感じるんだよなー。
何だろう?
「ルイス殿、久しいな。元気そうでなによりだ」
「ジョアン殿下もお元気そうですね。ご結婚されてから、何だか輝いて見えますよ。太陽並みに明るい光が後ろに見えます」
「明るい‥とな!それは最高の褒め言葉だ。何しろ私は‥根暗だからな」
いや、褒めたつもりはないんですけど‥
ん?おいおい、ジョアン殿下笑ってるよ!
これって奇跡が舞い降りたって事!?
「ルイス殿、随分早かったんだね。待ってたよって言いたかったのだけど、残念だなあ」
「エドゥアルド殿下、すっかり元気そうですね。実は予定より早く着いてしまったんですよ。ところでその、"待ってた"ってやつは流行ってるんですか?さっきレイリアにも同じ事を言われたんですが?」
「ああ、リアも同じ事を言ったのかい?参ったな、私も随分とリアに感化されている様だね。夫婦だと似てくるものなのかもしれないね」
えっ?それってエドゥアルド殿下的にはどうなんだろ?
レイリアに似て来てるなんて、いい想像出来ないんだけど。
でもまあ、殿下は常識人だから、そこら辺は僕が心配する事じゃないか。
「さっき離宮でレイリアと話しましたが、本当に幸せそうでした。もうすぐ産まれるそうですね」
そう言うと少し照れながら、嬉しそうに微笑むエドゥアルド殿下。
こんな事思うの不謹慎だけど、その顔‥かわいいかよっ!!
案の定ジョアン殿下が「兄上、抱き締めても良いか?」と聞いている。
あ!分かった!お二人から感じたのは、幸せオーラだ!
よく見ればエンリケ様からも少し感じるよ。
きっと少しなのはネーミングが上手くいかないせいだな。
それじゃあやっぱ、聞いてみるしかないね。
「あのー、突然変な事を聞きますが、皆さんは何と言ってプロポーズをしたのですか?」
この僕の質問に、すかさず反応したのはエンリケ様だ。
「ほう?プロポーズとは、さてはブラガンサ殿、ドキッ!プロポーズしちゃおっかなー大作戦!ですかな?」
うわっ!久しぶりに聞いたよそのネーミング‥
これは永久にエントリーすら叶わないね。
「えーと、まあ、そんな所です。やっぱり先輩方の例を参考にした方がいいかと思いまして。しちゃおっかというよりもする方向なんで、"求に婚な事言ってごめん"って感じですかね」
僕のセリフにいち早く反応したジョアン殿下が、頷きながらしみじみと言った。
「いや、さすがはルイス殿だ。求婚をもじって急(求)にこん(婚)なとは、どこかのワンパターンしか使わない輩に、爪の垢を飲ませてやりたいぞ!」
「くっ!ついには輩呼ばわりか。いや、諦めたらそこで試合終了だ!‥しかしこのキラリと光るセンスは、喉から手が出る程欲しい!」
あーあ、何か変な方向へ話が行っちゃってるよ。
僕の質問には答えてくれないのかな?
「すまないねルイス殿、私はプロポーズの言葉を教える訳にはいかないんだ。あの言葉はリアだけに贈った言葉で、リア以外には聞かせるつもりはないんだよ。私の10年間の想いと、これからの約束だからね」
えっ!まともに答えてくれたのはエドゥアルド殿下だけ?
でも教えてくれないんか〜い!
「兄上!やはり兄上は、素敵過ぎる!抱き締めても良いか?」
えーと、どうしよう収集つかなくなってきちゃったよ。
いや、もうちょっと粘るべきか?
エンリケ様じゃないけど、諦めたらそこで試合終了だもんな。
よし!めげずにもうちょいリサーチだ!
読んで頂いてありがとうございます。