【その後】リサーチ
久しぶりに王都の大神殿で祈りを捧げる。
もちろん供物もバッチリだ。
え?何でそんなに熱心に祈っているのかって?
そりゃあまあ、ちょっと精神統一的なアレかな。
だってこれから僕の将来に関わる、大きな事をするんだから。
大神殿を後にして、王宮横から森に入り、真っ直ぐに離宮を目指す。
ここを因縁の場所と言えばそうなるんだけど、今となってはいい思い出かな。
基本僕も田舎者だから、自然が豊かな場所は好きだ。
僕よりもっと田舎者の従妹にとっては、最も相応しい場所とも言える。
多分言えばムッとするだろうけどね。
昔はそういうのも気を引きたいが為に、ワザと言ったりしたよなぁ。
結局何も上手くいかなかったけど、いい勉強にはなったかな?
そう、今度は失敗したくないんだ。
だからきちんとリサーチしなきゃ。
「ブラガンサ様、遠い所をご苦労様です。レイリア妃様もお越しになるのを、それはもう楽しみにしておられましたよ」
迎えてくれた女官長の、額の部分につい目が行く。
どうやらあの時床にぶつけた跡は、残っていない様だ。
なんせ派手な音がしたからねーあの時!
ちょっとまずいんじゃないかと思っていたんだよ、うん、跡が残っていなくて良かった良かった。
「あらルイス、意外と早く着いたのね。せっかく待ってたのよ〜!っていうのをやりたかったのに」
「それに何の意味があるのか知らないけど、君は相変わらずだねレイリア。変わったのはお腹が大きくなった事ぐらいだ」
「そうなの!最近急に膨らんで来たのよ。あと3カ月程で産まれるんですって。だから最近重くって、それでゆっくり歩いてるのに、エディったらいちいち抱き上げるから、運動にならないのよ。本当、過保護過ぎて困りものだわ」
おやおやこれは愚痴なのか?それともノロケ?
まあ、どっちでもいいか。
結局幸せって事なんだから。
「それは良かったね」
「えっ!何よそれ、全然感情がこもってないじゃない!」
「幸せそうで良かったねって事だよ。殿下が過保護なのは前からだろ?今更って気がするよ」
「それはまあ、そうなんだけど」
「それよりアマリアはどうしたんだい?姿が見えないけど?」
「ああ、何か最近恋愛小説家になって、出版社へ原稿を届けに行ってるのよ。多分もうじき帰って来ると思うけど」
「なんだ、せっかくお土産も持って来たのに」
僕がお土産と口にすると、レイリアは珍しく真面目な顔をした。
まあ、そこはお互いによく知った仲だ。
なんとなく言われる事には察しがつく。
特に僕は察しがいいからね。
「お土産って‥ねえルイス、多分アマリアはそのお土産いらないんじゃないかと思うわ。だってルイスが選んだんでしょ?」
「いや、君に言われたくないね。それに、今回は僕じゃなくて母上が選んだんだから、何の問題もない筈だよ」
「なら良かった。じゃあ私にもお土産頂戴!」
「あー君のは僕がじっくり選んだからね、かなり自信があるいい物をあげるよ」
「えっ!?なんで私だけ?」
「そりゃあ選びたかったからさ。僕のセンスを理解出来るのは、レイリアだけじゃないか」
「否定はしないけど、選ぶのと貰うのじゃ訳が違うわ。‥まあいいか、エディにあげよう‥」
うわーなんかエドゥアルド殿下が雑に扱われてるよ。
ん?僕のお土産が雑に扱われてるって事じゃないか!
全く、こういう所は変わらないな。
レイリアはやっぱりレイリアだ。
「まあ!ルイス様、お久しぶりですね!」
勢いよく扉を開けて、お待ちかねのアマリア登場だ。
そう、今日はどちらかというと、アマリアに用がある。
こういう話はアマリアの専門だからね。
「やあアマリア、待ってたんだよ。とりあえずこれ、ブラガンサ地方のお土産。言っとくけど、それは母上が選んだやつだからね」
「まあまあ!私にですか?どういう風の吹き回しですかね?いえ、ありがとうございます」
母上と聞いて、そうあからさまにホッとしなくてもいいじゃないか。
僕のセンスもそう捨てたもんじゃないよ?
でもまあ、これは所謂謝礼代わりだから、確実な方を渡すしかないや。
アマリアは早速箱を開けている。
ああ、やっぱ普通に喜んでるし!
「さすがブラガンサ伯爵夫人はセンスがいいです!このブローチはブラガンサ地方の伝統工芸品なんですね。で?どういう風の吹き回しですか?」
「えーと、実はちょっと折り入って相談したい事があってさ、年頃の女性はどんな物を貰ったら喜ぶと思う?」
「おや?これはこれは、そういう事ですか。なるほど、勝負に出るつもりなんですね?」
「えっ?何?何の勝負よ?アマリア、私にはさっぱり分からないわ」
「奥様は不得意分野ですから、そこのお菓子でも食べていて下さい。これは私の専門分野ですからね。ルイス様、無難なのは花ですよ。大抵の女性は花を貰えば喜びます」
花か‥。
まずは第一候補だな。
「えー花なんか貰ったって嬉しくないじゃない!どうせ枯れるし、食べられないし」
「それは奥様だからです。それじゃあ聞きますが、奥様はエドゥアルド殿下に貰って、何が一番嬉しいと思いましたか?」
あ、なんかそれ聞いてみたい気がする。
殿下はロマンチストだし、いつも甘いもんな。
あの甘さは、レイリアと出会っていなかったら、相当勘違いする女性いただろうなぁ。
ただでさえあの高身長で美形だし。
きっとさりげない甘さを演出した系の、アクセサリーとかそういう類じゃないか?
「エディから貰って嬉しかった物?そんなの決まってるわよ、プロポーズの言葉!」
えっ!ちょっと待って、予想外なんだけど。
「奥様にしては中々いい事言いますね。さすが母親になろうとしているだけはありますよ。まあ、私もそういう物なんだと思っていましたが。ルイス様、要は贈り物より真心です。無難な物を渡して、真心を伝えるのがベストですね」
「真心って‥何て伝えればいいのさ?」
「それは‥先輩方を参考にしたら如何でしょう?エンリケ様ですとか、ジョアン殿下やエドゥアルド殿下とか」
う〜ん、アマリアの言う事も一理あるな。
個人的にジョアン殿下のプロポーズの言葉に興味あるし。
「分かった、ちょっと行って聞いてみる。また後で顔を出すから、レイリアのお土産はその時に渡すよ」
「ええ。ルイス様の健闘を祈ります!」
グッと親指を突き出したアマリアに激励されると、僕は来た道を引き返し、王宮へ向かった。
遠くでレイリアが叫んでいる。
「お土産は忘れていいからね」だって?
おいおい、もっと他に言う事ないのか?
あんなにズレていたら、エドゥアルド殿下も苦労してるだろうなぁ。
さてと、それでは先輩方の言葉を、リサーチさせて貰いますか!
読んで頂いてありがとうございます。