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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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【その後】午後のひととき2.

馬で森を駆けながら、肝心のエレナがどの辺りにいるのか聞き忘れるという、初歩的なミスに気付く。

それだけ私は動揺しているのだろう。

とりあえず離宮へ向かってみれば、きっと近くにいる筈だと思い、森に走る道の途中で左側に折れた。

兄上とレイリアは新居に森の離宮を選んだ。

理由は緑の多い環境の方が、レイリアにとって暮らし易いからだそうな。

確か妖精がどうのと言っていたが、私には理解出来ないので、そこはただ頷くのみだったが。


エレナが付き添っているとはいえ、身重の体では遠くまで行くまいと、私は離宮周辺を探し始める。

するとまるで待っていたかの様に、レイリア達は立ち止まっていた。


「ジョアン!やっと来たわね!」

開口一番レイリアが、腑に落ちない言葉を口にする。

「やっと?」

「い、いえ、やって‥、やって来たのねって言ったのよ。ね、アマリア?」

「え、ええそうです。多分そんな感じだった気がします」

「そうなのか?私にはやっとと聞こえたが‥?」

「えーと、もしかしたら無意識に、やっと会えたわねって言おうとしていたかもしれないわね。ほら、会うのは結構久しぶりだから」

どうにも苦しい言い訳に、チロリとレイリアの様子を伺う。

そして兄上から聞いていた、後ろめたい事のある時のレイリアの特徴を発見した。


兄上の言った通りだ。

激しく目が泳いでいる。

兄上はクロールを泳いでいる位の激しさだと言っていたが、私にはバタフライ並の激しさに思えるぞ。

それも世界新記録を狙える勢いだ、これは間違いなく‥兄上と示し合わせていたな。


「そ、そうだわジョアン、せっかく久しぶりに会えたんだから、離宮で一緒にお茶でも飲みましょうよ」

「いや、さっき兄上にお茶を淹れて貰ったのだが‥」

「えー!でもすっごく美味しいお菓子があるのよ。是非食べさせたいから、ねっ!行きましょう!」

珍しく強引なレイリアに押し切られる形で、私は離宮へ寄る事になった。


離宮では到着と同時にお茶が運ばれ、まるで私の訪れを待っていたかの様に、室内も整えられている。

いや、実際待っていたのだろう。

連絡も無く突然訪れた割には出来過ぎだ。

3人で座ってお茶を飲み始めたが、やけにワクワクしているレイリアから、なんとも言えない圧を感じた。

とはいえレイリアの期待に応えられる様なスキルは持ち合わせていない訳で、ましてや人前で切り出す話でもない。

これは適当にやり過ごして戻ろうと考えていたら、業を煮やした侍女殿が口を開いた。


「そういえば奥様、今夜の献立の事で、料理長から相談があると言われていました!すっかり忘れていましたよ」

「えーそんなの何でもいいじゃない。好き嫌いはないわ」

「いいえ、奥様が良くても旦那様が良いとは限りません。さ、早く行かないと夕食に間に合いませんよ!」

「えー!これからがいいとこなのに!」

「そりゃあ私だってそういう話は大好物ですよ。ですがここは空気を読んで、大人の対応が必要です。ではそういう事なんでジョアン殿下、奥様は暫く席を外します。ごゆっくりどうぞ!」

2、3回ウインクを送りつつ、侍女殿はレイリアを引っ張って行った。

離宮ではかしこまった呼び方をせずに、奥様、旦那様と呼んでいるらしい。

そうして2人きりにされたのだが、途端に緊張が走った。


「ええと、そうだエレナ、レイリアとは随分親しくなったのだな」

「私の男装がいたくお気に入りで、このぶっきらぼうな男言葉も、男前と言って喜んでくれるよ。本当に可愛らしい王太子妃だ。エドゥアルド殿下が溺愛するのも分かるな」

「あの2人は私の自慢で、大切な家族なのだよ。ただ一緒にいる時は、レイリアが無茶をしないか見守って欲しい。今は身重の体だから大人しいが、あれでレイリアは相当なお転婆なのだ」

「お転婆といえば‥聞いたよジョアン、森の小屋での出来事を。レイリアに回し蹴りを食らったんだって?」

「聞いたのか!?参ったな‥森の小屋は私とレイリアの因縁の場所だ‥。本当に私はとんでもない事をしでかしたのだよ‥」

「レイリアは特に気にしていなかったぞ。そう暗く考えず、反省を活かす方法を考えたらいいさ」

「暗くか‥。私は根暗な性格だからな。君には‥一生この性格にアドバイスをして欲しいのだが‥」

そこまで言ってハッと気付く。


これでは参考にならないと言ったエンリケのセリフを、丸ごと使ったも同然ではないか!


身体中から血の気が引いて、頭の中が真っ白になる。

私はしでかしてしまったのだ。

人生最大の過ちを。

案の定エレナは首を捻って、今の言葉の意味を考えている。


「す、すまない、順序を間違った。その、何というか‥君は迷惑だと思うが、私は君に好意を抱いているのだ。だから君が‥一生側にいてくれたらいいのにと思って、つい口にしてしまった。嫌な気分にさせてしまったな‥。今のは‥忘れてくれ」

「何故そんな風に決め付ける?私は少しも嫌な気分になっていないぞ」

「えっ‥!?」

「イスペルからの旅路で、慣れない事をひたむきに努力する君を尊敬した。そして最後の検問で私の危機を、君の機転が救ったのだ。お陰で私は今こうしてオセアノにいられる。命の恩人からの好意を、嬉しいと思わない筈はないだろう?」

「しかし‥私の事は友人以上には思っていないのでは‥?」

「色恋に関しては縁が無かったからな、正直そういった感情はよく分からない。でも一生側にいるのなら、他の誰でもなく君がいい」

「そ、それでは‥私の求婚を受け入れてくれるのか!?」

「ちょっと待て!あれは求婚だったのか?」

「あ、いや、その‥やり直させてくれ。どうか私の妻になって貰えないだろうか?」

「フフッ‥ジョアンらしい真っ直ぐな言葉だな。私は君のそういう所が好きだよ。何も持たない私で良ければ喜んで!王太子殿下」

思わず立ち上がってエレナに近付き、両手でエレナの右手を握った。

その手にそっと口付けて、私はエレナに感謝を伝える。


「ありがとう。今迄生きてきた中で、これ程嬉しいと思った事はない」

少し頰を赤らめて、エレナは照れ臭そうに微笑んだ。

するとこの絶妙なタイミングで、レイリアと侍女殿が顔を出す。

にやけた顔をした2人は、一部始終を聞いていたらしい。

それはレイリアの様子を見れば、何をしていたかが一目で分かった。


後日作家デビューを果たした侍女殿の本が、巷で流行ったので私も取り寄せた。

表紙には『華麗なる王太子のプロポーズ大作戦!〜求婚の言葉は人真似から〜』と書いてある。

これを見て言葉を失くしたのは言うまでもない。

タイトルを見る限り、エンリケも一枚噛んでいた事は間違いないだろう。

読んで頂いてありがとうございます。

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