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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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【その後】午後のひととき1.

新しく「アルドの花嫁」というお話を書き始めました。

引きこもり中の暇潰しにでも、読んで頂けたら幸いです。

「少し休憩しないかジョアン?今お茶を淹れるから一緒に休もう」

兄上はそう言って女官にお茶の用意をさせると、自らお茶を淹れ始めた。

こうやって二人でお茶を飲む日が来るなんて、少し前なら考えもしなかった事だが、今はこれを楽しみにしている自分がいる。

なんと言っても大好きな兄上が淹れてくれたお茶なのだ。

これが苦い薬湯であっても、私は喜んで飲むだろう。


「兄上、レイリアの調子はどうだ?体調を崩して寝込んだりはしていないか?」

「私は心配で気が気では無いのだがね、リアは動いていた方がいいからと、しょっちゅう森へ散歩に出かけているよ。幸いな事に悪阻も無いし、母子共にすこぶる順調さ」

「そうか、さすがレイリアだな」

言いながら思わず顔が綻ぶ。

兄上が結婚してから5ヶ月経ち、つい最近レイリアが懐妊している事が分かって、私は今から楽しみで仕方がないのだ。

兄上とレイリアの子供ならば、きっと二人以上に私が甘やかしてしまうだろう。


レイリアの異変に気付いたのは、本人ではなく兄上だった。

やたらと眠そうで果物を多く食べる様になり、体温が高かった事から、兄上が医師を呼んだのだ。

自分の体調の変化に全く気付いていない所が、いかにもレイリアらしいと言えばらしいのだが、それに気付ける兄上も、らしいと言えばらしいのだから、全くこの2人はやはりなるべくして夫婦になったのだと改めて認識させられる。

まあ、散歩にはいつもエレナが付き添っているから、安心はしているのだが。


「ところでジョアン、提案なんだが‥エレナとの結婚を考えてみないか?」

口に含んだお茶を思わず吹き出してしまうほど、突然の兄上の提案に私は狼狽えた。

「な、何を突然言い出すんだ兄上!よ、よりによって結婚などと‥!私には願っても無い話だが、エレナには迷惑この上無い話だろうに!」

「迷惑かどうかは‥エレナに確認してみないと分からないだろう?それにこの提案は、イスペルの独立にも関わる事なんだよ。ミドラスでおかしな病が流行っている事は、お前も承知しているね?」

「身体中に赤い斑点が出来て、高熱が続くと死に至るという、原因不明の病の事か?」

「そうだ。さっきルイから届いた書状では、どうやら皇帝と第一皇子、第四皇子も感染しているらしい。皇帝に至っては、持って後数日と言った所だそうだよ。そうなると‥少なからず皇位継承争いが起きる可能性が高いんだ。ここまで話せばお前なら、私が何を言わんとしているかが分かる筈だ」

「‥内乱に乗じて‥イスペルを独立させるつもりなのだな。私とエレナの婚姻が成立すれば、オセアノがイスペルに介入する建前が出来る。内乱により力の分散したミドラスでは、オセアノに対抗する術を持たないからな。だけど兄上‥兄上こそ建前で、私をけしかけようとしているのではないか?」

「バレたか。さすがに私の事を良く知っているねジョアン」

「当たり前だ。私は兄上の事なら、ホクロの位置からスリーサイズまで把握している!」

「スリーサイズって‥それは少し複雑な気分だな‥。まあ、それには触れないでおこう。私が言いたいのは、今の状況を利用しない手はないと言う事だよ。状況が状況なだけに、私から結婚する様言われたと説明すれば、お前も結婚の申し込みがしやすいのではないかと思ってね」

「いや、それではエレナが断り辛くなってしまう。私の事は多分、友人以上に思っていないのだから‥」

「またそんな根暗な発言を!ジョアン殿下が結婚してくれないと、私がいつまでも結婚出来ないじゃないですか!」

どこから聞いていたのか、書類を抱えたエンリケが、いつの間にか立っている。

そして当たり前の様に自分の分のお茶を淹れると、ジョアンの隣に腰掛けた。


「とにかく、さっさと自分の気持ちを伝えて、早いとこ結婚して下さい。私も婚約者をあまり待たせたくありませんので」

「婚約者だと!?エンリケ、いつ婚約したのだ!?」

「先日行った第41回ネーミングセンス大賞の時です」

「ネーミングセンス大賞だと?何故婚約とネーミングが関係する?エンリケ、敬語はやめて詳しく説明してくれ」

「それならば友人として話しましょう。実は今回貴族のご令嬢にも参加を募ったのだよ。そうしたらたった一人参加したマヌエル男爵のご令嬢が、素晴らしい作品を寄せられてな‥残念ながら大賞は逃したが。そこで彼女は私の作品にアドバイスをくれたのだ。私は直感したよ、彼女なら私のネーミングにかける熱い思いを理解してくれると。そこですぐ私は求婚したという訳だ」

「えっ!?いいのかそんな理由で?」

「もちろんだ!彼女は美人ではないが、溢れる知性とネーミングセンスを持っている。私にはこれ以上無い程ピッタリな相手だと確信している」

「君がいいなら何も言うまい。で、何と言って求婚したのだ?」

「聞きたいか?あまり参考にはならないと思うが、こう言ったのだ。私に一生ネーミングのアドバイスをして欲しいとな」

「‥本当に参考にはならないな。君にしか言えない求婚のセリフだ」

「だから言ったではないか。とにかく、ウジウジ考えるより、正直な気持ちを相手に伝えるのが重要だぞ。私は毎日作品を手紙にしたためて、彼女に送っている」

「それでは嫌がらせではないか!わたしだったらノイローゼになってしまう。兄上、兄上からも言ってやって下さい」

「ハハハ!エンリケらしくていいのではないかな。相手の女性が嫌がっていないなら、それも一つの形だよ」

「その通りですよエドゥアルド殿下。彼女は律儀に添削して送り返してくれるのです。本当に私は彼女に出会えて幸運ですよ。だから早く結婚したいと思うのですがね。ジョアン、私は君が結婚するまでは独身でいると決めている。さっさと片付いてくれないか?」

「片付いてって‥人を子供が散らかしたオモチャみたいに言うな。私だって‥一応アピールはしているつもりなのだが、響いている様には感じないだけだ」

「ダメだ!君のアピールは伝わり辛い。なんと言っても君は根暗だからな。いつも当たり障りのない会話をして終わりではないか。これでは無理だと前々から思っていた。善は急げだ、せっかくエドゥアルド殿下からも勧められたのだから、今から行って求婚してみてはどうだ?」

「な、何故今からになるのだ!?」

「ジョアン、私もエンリケの意見に賛成だ。このままでいたらいつまでも友人の枠から抜け出せないよ。どんなきっかけだっていいじゃないか。行って気持ちを伝えて来なさい。これは兄からの命令だ」

「兄上‥そんな!」

「お前が悩んでいる姿を見ていられないのだよ。けれどこればかりは、私がどうこう出来る問題ではないからね。だからせめて仕事だけは、お前の分もやらせて欲しい。エンリケもいるのだし、この後の事は問題ないさ」

「‥兄上にそう言われてしまっては、嫌と言えないではないか‥」

「この時間ならちょうどリアに付き添って、森を散歩している筈だよ。リアはアマリアと二人で戻ればいいから、お前はゆっくりエレナと話したらいい」

「分かった‥。行くしかないのだな」

「「頑張れ!!」」

二人にけしかけられる形で、仕方なく私は森へ向かった。

しかしレイリアに会って初めて、これが兄上の策略だったと知る事になる。

何故ならレイリアは、嘘がつけない性格なのだから。

いつもありがとうございます。

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