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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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役者が揃う

想像通りの反応に、エディは一つ溜息を吐いた。

しかしここで、自分が動揺してはいけない事は、十分に分かっている。

傍聴席に目線を移し、一度だけレイリアの姿を目に刻むと、自分の中の闘志を奮い立たせた。


「ハメスの証言を聞く限り、私を暗殺しようと計画したのはマンソン侯爵という事になる。では刺客として送られた2人にも確認してみよう。リカルド、ルイ、君達はどの様な経緯で暗殺を依頼されたのだ?」

2人は互いに目配せをすると、一歩前に進み出た。

「最初に断っておきますが、ここで話すのは俺1人にさせて頂きます。俺の出身はイスペルで、このルイはヘラングです。ヘラングには独特の訛りがあり、ルイの証言は理解出来ない方が多いかと思いますので」

「いいだろう。それでは話して貰おうか」

リカルドは頷くと、会場全体を見つめながら話し始めた。


「俺達はある任務の為、オセアノへやって来ました。この任務については話す事が出来ませんが、遂行するには王宮へ入り込む必要があったのです。そこで下町の裏稼業を斡旋している酒場へ行くと、マンソン侯爵が腕利きの男達を集めているという話を聞きました。マンソン侯爵と言えば大物です。俺達は王宮へ入り込む足掛かりになればと、侯爵の元へ行く事にしました。行った先では集められた男達同士で戦わせるという、トーナメント形式の採用試験が行われていました。そこで俺達は勝ち抜き、無事採用されると、侯爵から仕事を依頼されたのです」

「仕事ね‥。それはどんな仕事だったのだ?」

「ミゲルという男を暗殺せよという依頼でした。侯爵の話では王宮の地下牢に捕らわれているとの事で、入り込む機会を狙っていた俺達にとっては、渡りに船の様な話でした。そしてまんまと王宮に入り込む事が出来た俺達は、本来の任務を遂行したのです。まあ、王宮に入り込んだ所で、どのみち侯爵の依頼は遂行出来ませんでしたからね。何故ならミゲルは王宮ではなく、他の場所に移されていたからです。それから色々あって、結局任務は失敗したんですが、縁あってある方にお仕えする事になりました。そしてその方からの指示で、ミゲルを暗殺した風を装い、再びマンソン侯爵の元を訪れたら、エドゥアルド殿下の暗殺を新たに依頼されたのです」

リカルドが言い終わると、マンソンの肩がピクリと動いた。

表面的には平静を装ってはいるが、瞳は怒りに燃え、リカルドをジッと見据えている。


恐らく気付いたのだろうな。

リカルド達が私の手の者であった事に。

さて、侯爵はどう出るのか‥?


「フム、成る程ね。最初は他の依頼を受けていたという事か。では何故ミゲルは、始末されなければならなかったのか?これはこの2人に語って貰おう。2人共、入ってくれ!」

エディが後ろの扉に声をかけると、2人の男が入って来た。

先頭の男を見た瞬間、マンソンは目を見開いて驚きの表情を浮かべている。

初めて動揺を見せたマンソンを確認すると、エディは先頭の男に問いかけた。


「ミゲル、それからシモン、聞いていたと思うが、何故ミゲルは狙われなければならなかったのだ?」

先頭の男‥ミゲルは、得意げにこう答えた。

「それは私が侯爵様の自室から、ある物を拝借したせいだと思います。このある物というのは、侯爵様にとって、誰にも知られたくない物でしたからね。まあ、私の様な優秀な男は‥」

すかさずシモンが話を遮る。

「義兄の話の途中ですが、自己紹介をさせて頂きます。私はマンソン分家の嫡男、シモンという者で、今語った男は元嫡男のミゲルという者でございます。今義兄の語った通り、本家に盗みに入った義兄は、侯爵様の自室からある物を盗み出しました。これは世間で囁かれているある噂を裏付ける物で、非常に危険な代物なのです」

「おい!盗みなどと人聞きの悪い事を‥モガッ!」

シモンはミゲルの口を抑えて、これ以上余計な事を言えない様にした。

傍聴席から見ていたレイリアには、ルイスが横を向いて笑いを堪えているのが分かる。

ミゲルの辞書には緊張という文字がないらしい。


「危険な代物‥ね。それは一体どんな物なのだ?」

「分量によって人の命を奪う薬。‥つまり毒です」

毒と聞いて会場は一瞬静まり返った。

ある噂‥『マンソンの呪い』を裏付ける物の正体は、人々の間ではおおよその見当が付いていたのだろう。

「そういう毒については、私も体験上良く知っているよ。ならば本人に説明して貰わねばならないな。マンソン侯爵、先程から何度も貴方の名前が出ているが、これについての説明をして貰おうか!」

エディの指名で会場の視線は一気にマンソンに注がれた。

マンソンは挑む様な目付きで、エディを睨みながらゆっくりと立ち上がった。


「説明などする必要はないでしょう。全ては私を失脚させようとする陰謀で、言いがかりに過ぎないのですから」

「言いがかり?シモンとミゲルは分家ではないか?分家が本家の長に言いがかりを付ける理由があるのか?」

「シモンは庶子で一族には恨みがあります。我が一族は血統を尊重しますから、風当たりが強かったのを覚えていますよ。加えてミゲルは一族から追放された立場です。そやつの性格ならば、逆恨み位するでしょう。それから先程のフォンテですが、親戚とはいえ余りにも遠縁で、付き合い等はございません。まあ、時々金の無心に来ては追い返していたので、逆恨みの末罪をなすりつけ様としたのではないかと思いますが。ゲレイロ伯爵の子息にしても、助かりたい気持ちから、苦し紛れに私の名前を出したのでしょう。私には敵が多いですからな。大方どこぞの侯爵家からの入れ知恵では?」

「随分はっきりと否定するのだな。そこまではっきり言い切るからには、身の潔白を証明する物を見せて貰わねばならないぞ」

「証明?それはこちらのセリフですよ、エドゥアルド殿下。先程から聞いていれば、単なる証言のみで、私が首謀者だという証拠は何も見せて貰っていません。私が首謀者だと言うのならば、きちんと証拠を見せて下さい」

少し口の端を上げて、嫌な笑みを浮かべながら、マンソンは堂々と言い切った。

何一つ証拠は残していない。

自分だと分かる物は全て処分して来たのだ。

まるでそう言っているかの様に、勝ち誇った視線をエディに投げかけている。

だが次の瞬間、その視線は驚きに満ちた物に変わり、別の人物に注がれた。


「証拠ならあるぞマンソン!」

後ろの扉から金髪をなびかせ、公式行事の正装姿でジョアンが入って来た。

会場では驚きの声がそこら中から聞こえ、一気に皆の関心が集中する。

「久しぶりだなマンソン。どうした?驚いた顔をして。私の帰還を喜ばぬのか?」

「ジョ、ジョアン殿下!よくぞ、よくぞ戻られました!ご無事でなによりです」

「マンソンの血を引く王族の帰還だ。其方が喜ばぬ筈はないだろうよ。生まれてから一度も有り難いと思った事のないこの血を、忌まわしき私の生い立ちを、私は明らかにする為に戻って来たのだ。ここにある其方の証拠と共にな」

「何を‥何を仰っているのですか?貴方は我が一族の希望、唯一の至宝なのですよ?」

「其方の言う至宝とは、其方の傀儡に成り下がった私だろう?私という存在を作り出す為に、其方も母も随分と多くの命を犠牲にして来たものだ‥‥。それは‥今の其方の様に人らしい感情を捨て去り、冷酷非情で狡猾にならねば出来ぬ事だ。母もそういう人だった。一度も母親らしい愛情も、優しさも死ぬまで見せてはくれなかった‥。ところが唯一、母には良心の呵責という物があったらしい。ここにあるのは母が死ぬまで側に置いた、全ての罪を書き記した王妃の日記だ!」

ジョアンはそう言ってマンソンに見せる様に、日記を高く持ち上げた。

マンソンは雷にでも打たれた様に硬直し、真っ青な顔色に変わっていく。


「王妃の遺品として私が譲り受けた物だ。まさかここに書かれている事を、偽りだなどと申さぬよな?王妃を嘘つき呼ばわりする程、其方は愚かではないのだから」

ジョアンは敢えて"王妃"と強調した。

それは国王に次ぐ位の、ましてや自分達一族出身の貴人を、マンソンが侮辱する事は出来ないからだ。

つまりマンソンは、全てを肯定するしか方法がない。

この事は流石にレイリアにも理解出来た。

そして日記。

見せて貰った事はないけど、神殿での告白の時にジョアンが口にした物だ。

これを世に晒したらどの様な結果になるのか‥。


『私は‥生まれながらの罪人なんだ』


小屋で言われたこの言葉を思い出すと、どれ程の覚悟を持ってこの場に臨んだのか、胸が締め付けられる思いだった。

読んで頂いてありがとうございます。

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