アイデアは寝て待て
小屋で夜を明かしたレイリアは、ベッドの上で大きく伸びをした。
長旅で疲れていたアマリアは、まだ寝息を立てている。
意外にも小屋の中は綺麗に整えてあり、フカフカの布団に豊富な食材まで用意してあった。
「あのバカ(ミゲル)にしては中々気が利いた仕事をしてあるわね。全く、気を利かせる所が間違ってるわ」
レイリアはベッドから出て、こっそり持ってきた畑仕事用のブラウスとスカートに着替えた。
顔を洗って二人分の朝食を作っていると、アマリアが慌てて起きてきた。
「すみません姫様!不覚にも寝過ごしました!ん?姫様その格好は‥‥」
「念の為持ってきたの。私の読み通り役に立ったわ」
「確かに。本来なら怒る所ですが、今回は目を瞑りましょう。まさかこの様な扱いを受けるとは思ってもいませんでしたので」
「同感だわ。ここまでされたら反撃してもいいわよね?」
「当然です!加えてあのバカ(ミゲル)による数々の暴言!!ババアですよ!姫様の前では一応気を使っておばさんと言いましたが、よりによってババアですよ!今度会ったら大事な所を踏み潰してやります!!」
「あ、怒るツボはそこなのね」
「なんですか?」
「いいえ!とりあえず朝食を済ませて作戦を練りましょう」
「そうですね。腹が減ってはなんとかですから」
レイリアの作った朝食を食べてから、アマリアは紅茶を淹れた。
「しかしあのバカ(ミゲル)はエリートだ何だほざいてましたが、選ぶ物は確かに高級志向ですね。この茶葉なんてバルコスではお目にかかれない代物ですよ」
「あら、あのバカ(ミゲル)を褒めるの?」
「物には罪がありませんので。褒めるのは物だけです。誰が選んだのかは置いといて」
いつもの調子が戻ってきたアマリアに、レイリアは思わず苦笑する。
「ところで姫様、これからどうします?」
「歩いて王宮まで行く事は可能だけど、王宮に入れるかどうかが問題よね。ドレスにヒールで10キロは無理だし、くたびれたブラウスやスカートじゃ相手にしてくれないでしょ?」
「それじゃあルイス様と連絡が取れないじゃないですか!」
「いいえ、一つ方法はあるわ」
「は?」
「忘れているわね?私には祝福があるのよ。妖精に頼んで私の手紙をルイスに届けて貰うつもりよ」
「なるほど!でも手紙が宙を舞っていたら不思議に思われませんか?」
「アマリアは妖精を見た事がないから理解出来ないかもしれないけど、実際に書いた手紙じゃなくて、メッセージを届けて貰うの。文字だけをね」
「姫様、さっぱり分かりません」
「つまり、妖精は空間に文字を書く事が出来るの。金色の光の粒で出来た文字をね。昔ルイスに見せた事があるから、ルイスなら分かるでしょうね。文字に触れれば消えてしまう事も」
「ほ〜!姫様にしては中々やりますね。さては妖精を使ってルイス様と悪だくみをした経験があるんじゃないですか?」
「あ、あったとしても、こうして活かせれば良かったという事になるわ。終わり良ければってね」
「終わりが良くなるかどうかは分かりませんが、この作戦を昨日のうちに思い付いて欲しかったです」
「昨日は色々な事があり過ぎて、こんな事を考える余裕が無かったんだもの。一晩ぐっすり寝たおかげで、冷静に考えられる様になったわ」
「まあ何にせよ、連絡方法が見つかって良かったです。頼みの綱はルイス様だけですから」
「ああ見えてルイスは結構面倒見がいいのよ。時々うざったいけど」
「ああ見えてって姫様にはどう見えてるんですか?ルイス様は気遣いが出来る紳士ですよ」
「私にはすぐ憎まれ口を叩くんだもの。決して紳士では無かったわ」
「それはアレですよ。思春期特有のやつですよ。姫様も挑発して勝負とか持ちかけるから、ルイス様は素直になれなかったんですよ。まあ、お子ちゃまの姫様には分かりませんかねぇ」
「またバカにするー!」
「大人になりたかったら今から私の用意する本を読んで、しっかり勉強して下さい。さて、ちょっと荷を解いて来ますから、その間に姫様は妖精を呼んでルイス様に連絡を取って下さい」
あのバカ(ミゲル)の言った事は一つだけ合っている。
アマリアは荷解きが得意なのだ。
レイリアが文章を考え終わる前に、アマリア秘蔵の恋愛小説がレイリアの前に並べられた。
アマリアの簡単な説明では、男の子が大好きな幼馴染の女の子の気を引く為、いじめたり泣かせたりしてしまう話だそうだ。
正直レイリアにはどうでも良かったが、結局アマリアに押し切られ、読んで感想を言う事になった。
まあいいわ。
ちょっと面白い事思い付いたから。
こういう時は、ルイスが頼もしく思えるわね。
文章を考えている時のレイリアを、途中でアマリアがチラリと覗く。
口の端を上げてニヤリと笑うレイリアは、悪だくみをする時の顔になっていた。
読んで頂いてありがとうございます。