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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
159/175

幕間

「では、当時の状況から説明致しましょう」

ゲレイロ伯爵の顔をチラリと見てから、エディは静かに話し始めた。

「私は特定の寝所を決めていなかったので、あの晩はホアキン翼で眠る事にしました。そしてベッドに入り暫くすると、人の気配で目が覚めました。それはここにいる2人が、私の寝所へ忍び込んで来た気配だったのです」

話しながらリカルドとルイをエディが見ると、ゲレイロ伯爵は声を上げた。


「殿下、お話の途中ですが、その2人が忍び込んで来たと仰いましたね?だとしたらその2人は、侵入者ではありませんか?」

「その通りだよゲレイロ伯爵。彼等2人はある人物に依頼された、刺客であると言っておこう」

言いながらマンソンの方を見ると、ここで初めてマンソンは目を開いた。

そして途端に不機嫌な表情になり、リカルド達を睨み付けている。


「なんですと!?刺客が何故証人としてそこにいるのですか!?」

「その説明は後でしよう。今は状況説明の最中だ。さて、2人の気配で目が覚めた所まで話しましたね?その直後です、勢いよく扉が開いて、数人の男が飛び込んで来たのは。それがそこにいるイケル達で、彼等は最初に灯りを消し、私めがけて剣を振るって来ました」

剣を振るいと聞いた途端、貴婦人達の悲鳴にも似た囁き声があちこちから聞こえた。


「真っ暗な室内で剣を振るうという事は、互いに敵を見失ってしまうという事。彼等は私の位置を把握したつもりが、味方同士で手柄を争ったせいで、敵も味方も分からなくなってしまったのです。だから室内はただ闇雲に剣を振り回す、混沌とした状態でした。もちろん私も素直にやられる気は無いので、枕元に用意しておいた剣で攻撃をかわしておりました。そんな時です、ドミニク殿が駆け付けてくれたのは。ドミニク殿は混沌とした中から私を救い出し、安全な場所へ避難させてくれました。そしてアフォンソ翼へ向かい、ブラガンサ殿と第1小隊を助け出し、更にエンリケの元へ向かってくれたのです。今回の事件で犯人を捕らえる事が出来たのは、全てドミニク殿のお陰と言っても過言ではない。ドミニク殿は私の命の恩人で、今回一番の功労者です」

エディがそう言うと、何処からともなく拍手が聞こえて、いつの間にか会場全体が拍手に包まれた。

鳴り止まない拍手にドミニクは優雅に一礼をすると、今度は貴婦人達のホォッという悩ましげな溜息がそこら中から聞こえて来た。


「ドミニク殿、アフォンソ翼ではどの様な状況だったのか、そこで貴方が見聞きした事を話して欲しい」

エディに言われて頷くと、ドミニクは前に進んで話し始めた。

貴婦人達は前に乗り出し、頬を染めながらドミニクを見ている。

その様子を見てレイリアは、隣のイザベラにヒソヒソと話しかけた。


「ねえイザベラ、お兄様ったらいつの間にこんな人気者になったの?」

「ドミニク様の評判は、元々オセアノでは広く知られていたのよ。金鉱脈が発見されてからは尚更ね。でも単なる評判で、噂だけなのだろうと言われていた所に、思いがけずご本人が現れて、若いレディを中心に信奉者が増えていったの。なんと言ってもあの容姿でしょ?加えてご婦人に対する物腰の柔らかさですもの、好きにならないご婦人はいないわ」

「ほ〜!さすが私のお兄様は世界一だわ!きっとここでも又お兄様の信奉者は増えるんでしょうね」

「‥そうでしょうね。さ、私達も静かにドミニク様の話を聞きましょう」

「そうね。静かにしないといけないんだったわ」

レイリアはチラッとだけイザベラの顔色を伺い、それから前を向いて座り直した。

今イザベラの口から出た言葉は、思わずツッコミたくなる言葉だ。

けれども今はそれどころではない。

貴婦人達を真似て前に乗り出し、裁判の方に集中した。


「アフォンソ翼に近付くと、複数の金属音が聞こえて来ました。日頃から聞き慣れた、剣のぶつかり合う音です。僕は直感で何が起きているかを理解し、慌てて駆け付けると、そこにはルイス・ブラガンサ以下第1小隊隊員3人と、近衛の制服を着た5人の男が争っていました。急いで彼等に加勢して、5人の男を捕らえた所、1人の男がこう証言しました。"大臣の息子に逆らえず、言う事を聞くしか方法がなかった"と。そして彼等が近衛の制服を着ていた理由を聞くと、呆れた理由が飛び出しました。これは、聞き出した男から話して貰った方がいいでしょう。エデル・コエントラン、こちらへ来てあの時言った事を話してくれ」

ドミニクが被告人席へ向かって言うと、1人の男が前へ進み出た。

そして捕らえられた時に話した内容を、しっかりとした口調で全て話してみせた。


「どうですか皆さん、呆れた理由でしょう?」

ドミニクがこう言うと、会場からは「全くだ!」という賛同の声が多く返って来た。

そこでエディが又話し始める。

「エデル・コエントランの証言を聞く限り、イケルを首謀者とした襲撃犯の動機は、ゲレイロ伯爵の話と違う様だ。伯爵、貴方は言いましたね?マルグリットが嘘の情報を流し、私に扮した偽物を、イケル達が捕らえに向かったと。しかし私ははっきり聞きました。部屋に入って来た瞬間『エドゥアルド殿下、覚悟!』と叫んだイケルの声を。これは偽物に対して言う言葉ではない。彼等は私が本人であると知った上で、私を殺めようとしたのです」

「そ、それは‥言葉の綾と言いますか‥」

「さすがにその言い訳は苦しいねゲレイロ伯爵。それでは彼等がわざわざ近衛の制服を着ていた訳は、どう説明するつもりだろうか?と言っても、貴方は近衛の制服について知らなかった様なので、せっかくだから実物を見てから説明して貰おう。例の物を用意してくれ」

「はい、かしこまりました」という女性の声がして、近衛の制服と何かの紙を持った女性が後ろの扉から入って来る。

服装を見る限り侍女の様だが、女性は制服を置くと退出せずその場に留まった。


「これが彼等の着ていた近衛の制服です。そしてここにあるのはイケルが頼んだ仕立屋の、受領書を借りて来た物です。この受領書にあるサインは、イケル・ゲレイロとはっきり書いてありますが、何故この制服を仕立てる必要があったのか、説明して貰えますかゲレイロ伯爵?」

「‥‥‥」

「フム、伯爵は説明出来ない様だね。では頼んだ本人に聞いてみよう。イケルよ、この制服を注文する必要があったのは、エデル・コエントランの証言通りで間違いはないか?」

「間違いございません」

「では、ここにいる女性が誰だか、君は知っているだろう?誰なのか言ってくれないか?」

「マルグリット嬢の‥侍女です」

「君はこの侍女から私の寝所を聞き出して、今回の事件を引き起こした。聞く所によると、君はマルグリットの信奉者だそうだね。だからマルグリットに近付く為に、この侍女と親交を深めた様だが、それも間違いないのだね?」

「間違いございません」

「では彼女にも証言して貰おう。イケルは君に近付き、どうやって私の寝所を聞き出したのだろうか?」

侍女は躊躇する事もなく、スラスラと語り始めた。


「私は元々フォンテ家の侍女にございました。今回マルグリット様の王宮ご滞在に当たって、ご子息のハメス様から遣わされたのでございます。それはフォンテ家がある任務を引き受けた為、連絡係が必要であった事と、マルグリット様はご存知の通り、振る舞いに問題がある方です、監視役としても適任だと判断なされたからでしょう。王宮に滞在して暫く経った頃でした。イケル様が私に近付いて来られたのは。侍女を伝手にご婦人と親しくなるという事は、良くある事にございます。私は任務の遂行もございましたので、丁重にお断り申し上げましたが、イケル様は諦めようとせず、頻繁に金品を贈って来られました。主人の恥を話すのは本意ではございませんが、フォンテ家の内情は火の車です。マルグリット様はそれらを受け取っては、フォンテ家に援助しておりました。その様な日々は暫く続いておりましたが、先日イケル様から私にある提案が出されたのです。お父上であるゲレイロ伯爵様と、マンソン侯爵様のお話を聞かれたとの事で、イケル様はフォンテ家の任務を知ってしまったと仰いました。そこで自分も協力者だからと、全ての情報を流す様促されました。私に対する見返りは、良い働き口を紹介するという事で、浅ましくも私はその話に乗ってしまいました。エドゥアルド殿下があの晩、ホアキン翼を利用する事は、宮仕えの侍女から聞き出しました。そして私はイケル様にお伝えしたのです。ですがまさか、襲撃するとは思いもしませんでした」

「成る程。ゲレイロ伯爵、マルグリットの侍女が私の寝所を教えたという事が分かりました。だが彼女は、襲撃する事は知らなかった。これでもまだ嘘の情報を流されたと言い張りますか?」

「‥‥‥」

「何も答えられない様だね。これは先程貴方が言った事が、作り話だと肯定したも同然だ。苦し紛れについた嘘にしては、良く出来ていたと言っておこう。それでは先程話に出た、フォンテ家の任務について追求していきたいと思います。これについてはブラガンサ殿、アサードで聞いた事を話してくれないか?」

「はい」

今度はルイスが返事をして前に進んだ。


「数日前の事です。僕はフィリペ神官と別れて、昼食を摂ろうとアサードという店に行きました。ちょうど昼時で店は混んでいましたが、一箇所だけ空いている場所がありました。それは酔った男が店員を怒鳴り付け、関わりたくない他の客達が遠巻きに見ていた為です。僕の席は仕切りを一枚隔てた隣で、不愉快に思い注意しようと腰を浮かせたら、入り口からマルグリットが入って来て、男の席に座ったのを見ました。僕は注意するのをやめて様子を伺うべきと判断したので、大人しく隣で食事を始めたら、聞こえて来たのです、酔った男がハメスでマルグリットを呼び出したという事が。2人は暫く話し込み、先程の証言通り金銭を渡すと、マルグリットは1人で店から出て行きました。その際ハメスは随分と釘を刺していました。失敗したら罪は我が家が被る事になっているんだと。僕は気になったのでハメスにワインを勧め、少し探りを入れてみました。ハメスは酔っている為か、秘密と言いながら全て話してくれましたよ。エドゥアルド殿下に刺客を送り、殺める計画がある事を。そしてその際罪を被るのは、自分達が買って出たとね。マルグリットの養子縁組はその見返りで、王宮への滞在は刺客を手引きする役目を担っているからなのだとの事でした」

ここまでルイスが話すと、会場は又少しザワついた。

マンソンは口元へ手を当てジッと動かず、真っ直ぐ前を向いている。

エディはそれを確認してから、ハメスに向かって問いかけた。


「ハメス、ブラガンサ殿の言った事は間違いないだろうか?」

「‥はい、間違いございません」

「では改めて聞こう。君達が身代わりに罪を被ると約束したのは、一体誰なのだ?」

「‥‥重要参考人席に座る‥マンソン侯爵です」

はっきりとその名を口にしたハメスは、マンソンの方を指差した。

会場はどよめきに包まれ、全ての視線がマンソンに注がれていた。

読んで頂いてありがとうございます。

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