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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
156/175

最後の秘密

馬を飛ばしたお陰で予定より大分早く着いたジョアンは、出迎えの侍従にエディの居場所を聞き、3人や近衛を引き連れて執務室へ向かった。

執務室にはエディの他にエンリケの姿があったが、ジョアンの目にはエディの姿しか入らない。

「兄上!貴方という人は、本当に‥どうしてこんな無茶をするんだ!」

開口一番エディに向かって怒鳴り付けると、早足で近付きギュッと抱き締める。

「すまないジョアン‥。疲れているだろうに、こんなに早く着くという事は、かなり無理をさせてしまったのだね‥」

「私の事などどうでもいい!それより兄上、怪我はしていないか?体は大丈夫か?」

「怪我も無いし大丈夫だ。心配かけてごめんよジョアン」

エディはジョアンの背中をポンポンと叩いて、少しだけ力を入れて抱き締め返した。

体から伝わってくる体温や規則正しい鼓動を感じて、ジョアンはやっと落ち着いて息を吐く事が出来た。


「あー、オホン!感動的な場面に水を差す様で悪いが、ジョアン、私の存在を忘れていないか?さっきから置いてけぼりで、大の男2人が抱き合うという姿を、ずっと見せられているのだが?」

「その声はエンリケ!いつの間に入って来たのだ?」

「最初からいた!君が気付かなかっただけだ!」

「そうだったか?エンリケ、君にも文句を言わねばな。君が付いていながら、この有様はどう説明する?何故兄上を危険に晒した?」

「それは‥言い訳のしようが無い‥。どんな処分を下されようとも、反論は出来ない事は十分に分かっているよ‥」

「いやジョアン、エンリケも命を狙われたのだよ。それにエンリケは私の指示に従ったまで。責めるならエンリケではなく、私にしてくれないかい?」

「命を狙われた!?‥‥私はまだ事件の全貌を把握していないのだ。エンリケ、説明してくれ」

エンリケは言われた通り、事細かに説明を始めた。

そこで捕らえた連中を裁判にかける事や、その際にマンソン派を失脚させる計画についても話し、犯人の親であるゲレイロ伯爵とフェレイラ男爵に呼び出しをかけた事も話した。


「いや、呼び出しなど手緩い!直ちに2人を捕らえるべきだ!」

「しかし、陛下の許可も取っていない状況では、そこまでの権限は無いのだぞ?」

「責任は私が持つ!陛下も間も無く戻る筈だ。エンリケ、君が指揮を執って近衛を向かわせてくれ!」

強い眼差しできっぱりと言い切るジョアンを見て、エンリケも覚悟を決める事にした。

こういう顔をしている時のジョアンは、何かしらの覚悟がある時だ。

長い付き合いのエンリケには、それが理解出来るのだ。

「分かりましたジョアン殿下。直ちに向かいましょう!」

そう言うとエンリケは外の近衛の元へ向かった。


「兄上、姫君やドミニク殿下は何処だ?2人には礼を言いたいのだが?」

「2人には休んで貰っているよ。夜通し働かせてしまったからね。2人には本当に‥救われたな‥。リアには一度ならず二度三度もだ‥。我ながら情け無い」

「そこは反省して欲しい。兄上の大丈夫程当てにならない物はないのだから」

「ごめんよジョアン。大変な思いをして戻ったというのに、私の事で無理をさせて‥」

「私は大丈夫だ。兄上の為なら地獄の底にだって行く自信がある。ともかく、本当に無事で良かった‥。ところで、裁判の事なのだが‥マンソン本人についても提案があるのだが‥?」

「提案?どんな提案だい?」

「‥イスペルへ行くまで私は、自分の全てをさらけ出す勇気が無かった。上手く言えないのだが、私自身というか、私を産んだ母親も含め私だという事を、認めたくなかったのだ」

「うん。でも、どんなお前でも私にとっては弟に変わりない。大切な弟だよ」

「兄上がそう言ってくれるのを私は知っているし、それは兄上だけで良かったのだ‥。他の‥思い出したくもない母親などから、その様な言葉を言って欲しいとも思わなかった」

「ジョアン、お前が言いたい事は‥王妃に関する事なのかい?」

「そうだ兄上‥。だから兄上にも見せなかった。どうしても認めたくない言葉が書いてあったから‥」

「見せる?何を見せたくなかったのだジョアン?」

ジョアンは一度目を瞑り、深く息を吸い込んでからゆっくり吐き出した。

そして強い眼差しでエディを見つめると、はっきりとした声で伝えた。


「母親の遺品として、私が唯一受け取った物がある。生涯誰の目にも触れさせるつもりは無かったが‥それが間違いだと分かったのだ。兄上に見せたい物とは、母親の‥‥日記だ‥」

読んで頂いてありがとうございます。

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