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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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心境の変化

国王一行は先に送った使いに指示した通り、サンショ男爵の邸を訪れていた。

流石に国王が町の宿屋を訪れる訳にはいかないので、急遽サンショ男爵邸を提供して貰ったのだ。

ジョアン達は既に到着しており、エレナは国王に面会する為支度をしていると言う。

国王とジョアンは用意して貰った部屋で、対面をする事になった。


さっきから感じている重苦しい空気に、ラウールは戸惑い、様子を伺っていた。

先程対面を果たして儀礼的な挨拶を交わした後、ジョアンと国王はずっと黙り込んでいる。


これが久し振りに顔を会わせた親子だというのだから、この2人の溝は思ったより深いのだな‥

これは一朝一夕にはいかないぞ。

さて、どうしたものか‥


ラウールは居心地の悪いこの場の空気を、ジョアンに話しかける事で変えようと試みた。


「ジョアン、イスペルの事を教えてくれ。どの様な国なのだ?」

「イスペルですか‥そうですね、自治権は認められているとはいえ、あまり豊かとは言えない所でした。イスペル刺繍の工房は数多くありましたが、全て利益を搾取されてしまうそうです。その為人々の暮らしも貧しく、治安も悪い上に賄賂や横領がはびこっている‥そんな所でした」

「フム、この短期間で良く観察して来たな。成長したのうジョアン」

「いえ、私は本当に足手まといでした。兄上が寄越してくれた3人の世話になりっぱなしで、自分がいかに世間知らずであったのかを思い知りました。まあ、お陰でウサギの解体が、出来る様にはなりましたが」

「ほお!ウサギの解体か。私も軍にいた頃は、野営地でよくやったものだ。シチューにすると美味いからな。のう陛下、幾度か陛下にも食べさせた事があったな?」

「‥そうだったな叔父上。貴方に無理矢理食べさせられたのを思い出したぞ」

「ハッハッハ!美味かっただろう?」

「まあ、確かにな」


よし!話も弾んで来た。

これで幾らか打ち解けて‥


ラウールがそんな風に考えていると、ジョアンは立ち上がりきっぱりと言い切った。

「陛下、大叔父上、エレナの仕度が出来たか見て参ります。陛下にはわざわざこの様な遠くまで、エレナを迎えにご足労頂き、感謝しております。私の用事はこれで済みましたでしょうから、先にエレナを連れてお戻り下さい」

背中を向けてさっさと部屋を出て行くジョアンに、国王もラウールも呆気に取られ、何も言う事が出来ない。

ジョアンの足音が遠ざかっていくと、国王は盛大に溜息を吐いた。


「陛下、そう溜息を吐くな。最初から上手くいくとは思っておらんだろう?」

「‥分かってはいたがな、いざ目の前にすると‥ジョアンに何と声をかけたらいいか、分からんのだ‥‥」

「それはジョアンとて同じだろうよ。何よりジョアンは、陛下に嫌われていると思っておるからの。それは陛下自らが蒔いた種だ、受け入れなければならん事よ」

「叔父上の言う通りだ。しかし取りつく島もないとは、こういう事を言うのだな‥」

「陛下、陛下は関係を改善したいのだろう?だったら呑気に、溜息を吐いている暇などないぞ。何の為にここへ来たのだ?伝えるべき言葉は、まだ伝えていないではないか」

国王はハッとして立ち上がると、ラウールの方を向いて頷いた。

「こんな事にも気が付かんとは、全く私は愚か者だ。すまん叔父上、ジョアンを追いかける」

そう言うと国王も部屋を出て行き、ラウールはその背中を微笑みながら見守っていた。


部屋を出たジョアンは、エレナのいる部屋に向かった。

部屋の前には3人がいて、ジョアンに気付くと駆け寄って来る。

そして3人は興奮気味に話し始めた。

「今お連れしようと思っていた所です。旦‥殿下はもう、陛下とのお話はお済みですか?」

「挨拶と報告なら終わった。陛下の用があるのは、私ではないからな。それより、旦那と呼んでくれて構わないぞ。お前達に殿下と呼ばれると、何だか変な感じがする」

「いえいえ、旦‥殿下と呼びますよ。そこはきっちりしとかないと。ここはもうオセアノなんですから」

「旦那という呼び方は、結構気に入っていたのだがな‥。しかしお前達、何だか興奮していないか?」

「そりゃあ興奮しますよ!俺達のお姫様は、やっぱりすこぶる美人なんですから!」

「お姫様?ああ、エレナの事だな。まあ、お前達の生まれ故郷のお姫様だからな」

「まあいいから見て下さいよ!エレナ様、旦‥殿下がいらっしゃいました!」

ペドロが扉の外から声をかけると、中から返事が返って来た。

3人に押される形でジョアンは部屋に入り、真ん中に立つエレナを見た瞬間、驚いて言葉を失った。


銀色に輝く髪を結い上げ、サイドから巻いた髪を垂らしている。

青いぴったりしたドレスは、エレナの細い腰を際立たせ、真っ白な肌がより一層白く感じる。

そして薄く化粧を施されたその顔は、ジョアンが最初の印象で思った通り、美女と呼ぶに相応しい凛とした美しさを引き立てていた。

「ね、ね、俺が言った通りだったでしょ?あれ?旦‥殿下、顔が真っ赤ですよ?さては‥見惚れてますね?」

「ああ‥。とても綺麗だ‥」

ジョアンの言葉を聞いたエレナは、恥ずかしそうに俯いている。

「き、綺麗な格好という意味だろう。こんな格好をしたのは久しぶりだからな。流石に男装では陛下と対面出来ないから、仕方なくドレスを着たが、どうも落ち着かない」

「いや、君自身が綺麗と言ったのだ。私は世辞が言える程、社交的ではないからな。本当に綺麗だ」

「そんな風に面と向かって言わないでくれ。恥ずかしくて前が見れない」

「堂々としていればいい。貴女はこういう格好も似合うのだから。さて、お姫様のエスコートは、王子の務めだ。私の腕に掴まってくれるか?」

エレナは頷き、ほんのりとピンク色に染まった顔を上げて、ジョアンに微笑んだ。

その微笑みを目にした途端、ジョアンの胸は急にドクドクと早い鼓動を刻み始める。

まるで全身が心臓になったのではないかと思える程の、感じた事のない早い鼓動。

エスコートしながら部屋を後にする時、隣のエレナに聞こえるのではないかと、ジョアンは落ち着かない気持ちになった。

読んで頂いてありがとうございます。

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