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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
151/175

良き判断

詳しい状況は把握していないが、これだけの騒ぎだというのに、誰一人としてやって来ないという事は、あらかじめ人払いがされているのだろう。

ドミニクはそう推測しながら執務室へ急いだ。

エンリケは側近とはいえ、元々は文官上がり。

二人掛かりで襲われたら、ひとたまりも無いだろう。

どうか無事でいてくれと祈りながら執務室へ辿り着くと、開け放たれた執務室の中から物が壊れる音が聞こえた。

「エンリケ殿!!」

ドミニクが慌てて執務室へ飛び込むと、近衛の制服を着た男が2人伸びており、その側にはエンリケと意外な人物が2人いた。


「ふふん!トドメを刺してやったぞ!どうだシモン、私も中々やるだろう?」

「さっきまで震えて、エンリケ様の後ろに隠れていたのは誰ですか?私が押さえ付けていたから、義兄上は余計な事が出来たんです。それに、その壊した花瓶は、どうやって弁償するつもりなんですか?」

「不測の事態だ。気にするな」

「気にする気にしないではなくて、弁償しなければならないという現実を言っているんです。私は払いませんからね。自分で何とかして下さい」

「エ、エンリケ様、請求されるんですか!?」

途端に目が泳ぎ出したミゲルは、エンリケに縋り付いた。

シモンは呆れながら、手早く2人の男を縛り上げている。

当のエンリケはドミニクの姿に気付いて、申し訳なさそうに口を開いた。


「ドミニク殿下、せっかく報せて頂いたのに、私の落ち度でこの様な事態になってしまいました。申し訳ございません」

「いや、エンリケ殿が無事で本当に良かったよ。それより、どうして2人がここにいるんだ?」

するとミゲルがドミニクの前へ進んで、得意げに語り始めた。

「実はですね、先日弟がエドゥアルド殿下たっての頼みとの事で、わざわざ農場まで私を迎えに来たのですよ。重要な戦力の私が、農場を去るには偲びなかったのですが、そう言われては来ない訳にいきません。農場の連中は、そりゃあ悲しげに私を見つめていましたよ。私は頼りにされていましたからね」

「義兄上、やはり一度病院へ連れて行きましょうか?頭ばかりか、目や耳までお悪いようだ」

「何を言っている?私は真実を語っているのだぞ?しかしシモン、よく縄を持っていたな」

「いつでも義兄上を縛り上げられる様に、常に携帯していますよ」

「なっ!なんて弟だ!私を大切にしろ!」

「大切にする要素が見当たりませんが?」

2人のやり取りにウンザリしたエンリケは、堪らずミゲルの前へ進み口を挟んだ。


「ああもういい、ミゲル、私が説明するからシモンと一緒にこいつらを片付けなさい。ドミニク殿下、2人がここにいた理由を話します。実は今ミゲルが語った通り、エドゥアルド殿下が呼び寄せたのです。この作戦終了後に行われる裁判で、ミゲルに証言させる為に。迎えに行ったシモンの判断で、夜に紛れてミゲルを連れて来たのですが、まさかこんな事になるとは思いもしませんでした。本当にシモンには助けられましたよ」

「シモン1人で2人をやっつけたのか!?流石だね。やはり本物の近衛は、偽物とは格が違う」

ドミニクに褒められ照れながら、シモンはそれについて話し始めた。

「いえ、相手が弱かっただけですよ。それに、こいつの顔には見覚えがありましたから。確か、フェレイラ男爵の息子で、セルヒオという名前だったと思います。以前訓練を見た事がありましたので、こいつの癖は熟知していました」

「君は優秀だね。とにかく君がいてくれたお陰で、エンリケ殿が無事だったのだから、礼を言わせて貰うよ。本当にありがとうシモン!」

「私からも改めて礼を言うよ。シモン、君は命の恩人だ」

2人に褒められ真っ赤になるシモンは、恥ずかしそうに頭を下げた。

「いや、私だってトドメを刺したぞ!」

「義兄上は黙っていて下さい!花瓶を壊しただけなんですから。余計な事を言うなら、義兄上も縛り上げますよ」

「うっ!それは嫌だ‥」

シモンに睨まれ流石にミゲルも大人しくなった。


「それはそうと、エドゥアルド殿下はご無事でしょうか?」

「大丈夫。なんとか救い出して、隣室に避難して貰ったよ。僕は助けを呼びに走ったんだが、アフォンソ翼でも揉めていてね、5人捕まえて白状させたら、エンリケ殿が狙われている事を知ったんだ」

「ああ、ご無事で良かった‥‥。それでは直ちに事態の収拾を致しましょう。下がらせている兵達を呼び戻さねば!」

エンリケはそう言うと、捕まえた2人をシモンに任せて、ドミニクと一緒に執務室を出て行った。

向かう先はダナン翼という宮で、ドミニクはまだ行った事がない。

エンリケが言うにはこの作戦の間だけ、全ての女官や警備兵達をダナン翼に集めたという事だった。

2人が足早にダナン翼の方へ向かうと、向かい側から沢山の足音や声が聞こえて来る。

ドミニクは警戒して一旦エンリケを止めると、自分が前に立ち剣を構えた。


「エンリケ様!ご無事でしたか!」

やって来たのは、ダナン翼に集められていた警備兵達だった。

「おお!今君達を呼びに行く所だったのだ。よくぞ戻ってくれた!素晴らしい判断ではないか!」

「いえ、我々は言われた通り待機しておりました。ですが先程ポンバル侯爵様とご令嬢がいらっしゃって、何事かが起こっているから直ちに王宮内の警備に戻れと言われました」

「ポンバル侯爵とイザベラ嬢が!?助かった!侯爵には感謝せねば!」

「はい。そこで最初にアフォンソ翼へ向かった所、この混乱を知りました。エンリケ様、ご指示をお願いします」

そこでエンリケは警備兵達を、テキパキと動かし始めた。


「エンリケ殿、僕はエドゥアルド殿の元へ向かう。それで君達、イザベラ嬢とポンバル侯爵は何処へ向かったんだ?」

「お二人共エドゥアルド殿下を心配なさって、ホアキン翼へ向かわれました。我々の半分も一緒に向かわせております」

「そうか、なら僕も合流しよう。エンリケ殿、後は任せる」

「はい!ドミニク殿下には感謝してもし足りません。タイトルを付けるならば‥"助かった!麗しの貴方に感謝しちゃいま〜す!"といった所ですかね?」

エンリケが言い終わりドヤ顔をする頃には、既にドミニクの姿は無かった。

残念そうに溜息を吐くエンリケは、気を取り直して捕らえた連中の処分に努めた。

読んで頂いてありがとうございます。

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