受け入れて下さい
急いでいるとはいえ、ドミニクはレイリアに男装をさせ、更にルイスとエディへ妖精の言伝を送らせていた。
お陰で暗くなる頃王宮へ着くと、伝えた通り西門前でルイスが待っていてくれた。
ルイスの隣には第1小隊隊長もいる。
エディからの命令を受けて、隊長が出迎えに来たそうだ。
「ドミニク殿下、エドゥアルド殿下は例の作戦の為、出迎えは出来ないと仰っておりました」
「わざわざすまないね隊長、その作戦がどうにも気掛かりだと妹が言うものだから、迷惑を掛ける事は分かっていたけど、念の為確認に来たんだよ」
「迷惑だなんてとんでもない!この私が命に代えても、お2人を守ってみせますよ!」
そう言うと隊長はニカッと笑って、勢いよく胸をドンと叩いた。
隣のルイスは明らかに引いている。
だが隊長は全く気にせず、エディからの指示を伝えた。
「エドゥアルド殿下は、今夜ホアキン翼で眠る事になっています。ですからホアキン翼には、決して近寄らない様にとの事です」
「近寄らない様に‥ね。隊長、第1小隊はどんな手筈で動くのか教えてくれないか」
「ここではなんです、一旦場所を変えて説明致しましょう」
そこで全員は隊舎へ移動して、隊長から説明を受ける事にした。
「我が隊は殿下の眠る隣室に5人待機させ、刺客の潜入を確認した後、入口に5人配置する予定です」
「近衛や他の隊には連絡していないのかな?」
「ええ。秘密裏に進めている作戦ですし、バレたら元も子もありません。それに近衛は陛下の護衛で出払っております。ですからエドゥアルド殿下は我が隊だけを使うおつもりです」
「近衛がいない‥‥そして第1小隊だけか。あまり万全とは言えないな。隊長、僕とレイリアを隣室待機の人員に混ぜてくれないか?」
「何を仰るのですかドミニク殿下!万が一の事がありましたら、私はエドゥアルド殿下に顔向け出来ません!」
「怪我の心配なら無用だよ。僕の腕前は知っているだろう?」
「ですが‥」
「今の話を聞いて、僕はそうするべきだと思ったんだ。近衛は確かに出払っているんだよね?」
「はい。‥どういう意味ですかな?」
隊長同様、ルイスとレイリアもドミニクの言っている意味が分からず、キョトンとしている。
それを見てドミニクは、真剣な表情で話し始めた。
「レイリア、来る前に僕はビジョンが見えたと言ったよね?」
「ええお兄様。おかしなビジョンが見えたと言っていたわ」
「僕が見たビジョンは、近衛の制服を着た数人の男達だ。この意味が分かるかい?」
ドミニクに聞かれて、レイリアは途端に青ざめた。
「つまり、出払っている筈の近衛が‥新たな刺客って事?」
レイリアの言葉に、ドミニクはゆっくり頷いている。
それを見たルイスと隊長も、急に顔色を変えた。
「兄さん、僕はどうしますか?」
「ルイスは急いでこの事を、エンリケ殿へ報せてくれ」
「分かりました!行って来ます!」
勢いよく扉を開けて、ルイスは隊舎を飛び出して行った。
「ドミニク殿下、貴方はともかく、姫君が行かれる事はありますまい。危険を報せて頂いただけで十分です。後は我々が対応致しますぞ」
「いや、行かなければならない訳があるんだ。だから無理を承知で頼みたい。どうか受け入れてくれないか?」
真剣な表情のドミニクにジッと見つめらて、隊長はポッと頰を染めた。
レイリアは隊長に渡す筈の"報酬"が脳裏をよぎり、ドミニクに対して後ろめたい気持ちになった。
「‥これが愛の告白なら、いくらでも受け入れるんですが‥」
「え?どういう意味だい隊長?」
「いえ、独り言です。‥分かりましたよ。ドミニク殿下にそう言われては、私は受け入れない訳にはいきません。ですが、私も一緒に隣室で待機致しますぞ!」
「隊長が一緒なら心強い。無理を言ってすまなかったね。レイリアも世話になったそうだし、本当に感謝しているよ」
ドミニクは柔らかく微笑み、立ち上がって隊長の前に立った。
隊長も思わず立ち上がってドミニクを見ると、ドミニクはフワリと隊長にハグをした。
「至福‥!!」
そう呟いた隊長は、少しだけ瞳を潤ませている。
レイリアは後ろめたいとは思いつつも、近いうちに必ず隊長に"報酬"を渡そうと決心した。
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