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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
147/175

とんぼ返り

ポンバル邸の一室、向かい側で優雅にお茶を飲むドミニクを盗み見しながら、レイリアは背中に冷たい汗を掻いていた。

ドミニクはゆっくりとお茶を流し込み、全く何事も無かった様な顔をしているが、この沈黙が何を意味するのか、レイリアには分かっていた。


「お兄様‥本当にごめんなさい!本当に本当にごめんなさい!」

「何を謝っているんだいレイリア?自分で責任が取れるから、勝手な真似をしたんだろう?だったら謝る必要は無い。きちんと責任を取ればいい」

「うっ!‥‥はい。どんな罰でも受ける覚悟です‥」

「なら見せて貰おうか。レイリアは3日も経てば忘れてしまうからね、最低でも10日はかかる量のマナー教本と、地質学の本の写しを作ってくれるよね?」

「ヒェッ!と、10日!!」

「覚悟は出来ているんだろう?どちらも今後必要な知識だ」

「‥‥はい」

「それじゃあ早速取り掛かるんだね。僕は構わないけど、長引いて辛いのはレイリアだろう?」

「‥仰る通りです。何の反論もございません」

「そう?じゃあ頑張って。隣の部屋に全部用意してあるから、とりあえず夕食までやりなさい。ああ、進行状況を見に行くから、決してサボろうなんて思わない事だよ」

「はい、分かりましたお兄様」

レイリアは項垂れながら立ち上がると、扉に向かってスゴスゴと歩いて行った。

そして扉に手を掛けながらチラリとドミニクの顔色を伺い、胸騒ぎについての話を切り出すべきかどうか観察してみた。

優雅な仕草でお茶を口元へ運ぶドミニクは、相変わらず穏やかに微笑んでいる。

しかし、生まれてからずっと一緒に育って来た兄の、小さな変化は誰よりもよく分かってしまうのだ。


お兄様‥目が笑ってないわ‥!

うう‥怖いけど、やっぱり言わなきゃいけないわよね。

どうせ叱られているんだから、叱られついでにもう一つ、覚悟を決めなきゃだわ!


「あの、お兄様‥一つ相談したい事が‥」

「何だい?もっと増やして欲しいのかな?」

「ヒェッ!え、えーと、その話じゃなくて‥今夜の話なんだけど‥」

「今夜?エドゥアルド殿へ刺客が差し向けられる話の事?」

「そうです。エディは絶対大丈夫だって言うんだけど、私も計画を聞く限り大丈夫だとは思うんだけど、どういう訳か妙に‥胸騒ぎがするの‥」

「胸騒ぎだって?どんな風に?」

「何ていうか、胸がザワザワして体中の血が暴れているみたいな、落ち着かない気持ちというか‥」

「落ち着かない‥ね。前にもそんな事を言っていたのを憶えている。あれは確か、谷が崩落する前だ。結果金鉱脈が現れて、バルコスが危険に晒されたんだ‥。レイリア、それはエドゥアルド殿に感じるのか?」

「ええ。何故だかエディが大丈夫だと言う度に、胸騒ぎがしていたの」

レイリアがそう言うと、ドミニクは顔色を変えて立ち上がった。


「胸騒ぎで済まないかもしれない。お前は祝福を受けた者だ。印に関する事柄は、誰よりも敏感に呼応する。そして今、おかしなビジョンが見えた。僕は今すぐ王宮へ向かって、様子を見て来よう」

「待ってお兄様、行くなら私も一緒に行くわ!」

「ダメに決まってるだろ!今戻って来たばかりじゃないか!」

「万が一を考えて、戻る前に中庭の妖精に頼んで来たの。エディの側にいて、何かあったらすぐ報せてって。お兄様には妖精が見えないでしょ?だから私が行く必要があると思うわ」

「‥ハア‥悔しいが僕には妖精が見えない。仕方がない、連れて行くけど、僕の側から離れないと約束出来るかい?」

「絶対離れないわ!お兄様は世界一強いんですもの!」

「全く調子がいいんだから。でも僕も大概妹に弱いな。そして末っ子の妹は、甘えるのが上手ときてる。本当に困った妹だよ」

「エヘヘ。お兄様大好き!」

レイリアは久しぶりにドミニクに抱き着いた。

文句を言いながらも、ドミニクはそれを受け止めると、にっこり笑って一言呟く。


「でも、やる事はやって貰うからね。覚悟は出来ているんだろう?」

途端にレイリアはシュンとして、無言で何度も頷いた。

それを満足気に確認したドミニクは、急いで支度を整えて、レイリアと共に馬で王宮へ向かった。

読んで頂いてありがとうございます。

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