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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
145/175

それぞれに責任がある

日の暮れかかる夕方、町に着いたジョアン達は、宿に部屋を取って食堂へ向かった。

ちょうど夕食時という事もあってか、食堂はかなり賑わっている。

座る席が確保出来そうにも無かったので、宿の食堂は諦め、町へ出かける事にした。

町では仕事帰りの人々や、食材の買い出しに精を出す主婦、この町の神殿が運営している学校帰りの学生達等が行き交い、賑やかで平和な日常を当たり前の様に過ごしている。

王都でもよく見かけるこの風景を見て、ジョアンは酷く懐かしさを覚えていた。


「人々が安心して生活出来ている。オセアノが平和な国だという証拠だな‥‥」

同じ風景を見ながら隣を歩くエレナが、ポツリとそう呟いた。

言われてみれば確かに、イスペルの町は人通りもまばらで、治安も悪かった。

ジョアンはこの当たり前だと思っていた風景が、どれだけ貴重な物であったのかという事を、戻ってみて改めて実感した。

そして、この貴重な風景を守らなければと強く思う。

ジョアンの中にはもう、全てを捨て去るという気持ちは無かった。

「そうだな‥。これ程尊い風景は無い。これを守り、存続して行く‥これこそが私の責任だ。エレナ、貴女のお陰でそれに気付けた。私にとってこの旅は、実りの多い旅だった」

エレナは首を傾げて不思議そうな顔をしていたが、ジョアンは満足気に微笑んだ。


「あ、やっぱこれこれ!いや〜旦那、やっぱりオセアノの飯はどれも美味いですね!」

口の周りをソースだらけにしながら、ペドロが次々と料理を口に運ぶ。

ホセやホアンも同じく頬張りながら、美味しそうに食べている。

「ああ、私もつくづくそう思う。だがお前達の釣った魚や、ウサギも美味かったぞ。解体は出来れば遠慮したいが」

「ハハハ‥あの時の顔は忘れられないな。でも中々上手に捌いていたよ。結構器用なんだな貴方は」

グロテスクと言って顔をしかめたジョアンを思い出したのか、エレナはクスクスと笑っている。

「器用か?人との接し方が不器用だとは言われるが、初めて器用と言われたぞ」

「旦那、その不器用は意味が違いますって。でも一緒に過ごしてみて、そんな風には思いませんでしたよ?」

「いや、お前達が知らないだけで、私は滅多に笑いもしない、傲慢で冷酷な王太子と言われているのだぞ。まあ、それはそれでいいと思っている。時には冷酷になる事も必要だからな」

「旦那、なんか最初より、随分とすっきりした顔をしてますね。精悍な顔つきというか、男ぶりが上がったというか。まあ、元から男前でしたけど。羨ましい!」

「顔つきが変わったか。そう言って貰えるのなら、少しは成長出来たのだろうな。だが、男前は余計だぞ。男前というのは兄上を言うのだ。兄上は全てにおいて男前だからな」

「出ましたね!旦那の兄上自慢!そんな旦那には悪いんですが、俺は一足先に主人の元へ報告に上がります。旦那が無事に戻ったら、直ちに報告する様言われているもんで」

ホセはそう言って立ち上がると、全員と握手をしてから宿へ向かって歩いて行った。


ホセはかなりのスピードで夜も寝ずに馬を飛ばし、半日程で王都に辿り着いた。

そして王宮のエディの元へ報告に上がって、イスペルでの出来事を全て話した。

「ホセ、ご苦労だったね。疲れただろう、ゆっくり休んでくれ。ジョアンの元へは迎えを出すから、後は心配しなくていいよ」

「はい主人、お言葉に甘えてそうさせて頂きます」

寝不足の目を瞬きながら、ホセは頭を下げて退出して行く。

エディはすぐに国王へ使いを出して、ジョアンの帰還と迎えを出す旨を伝えた。

すると国王は報告を聞いた途端立ち上がり、真っ直ぐにエディの元へやって来た。


「エドゥアルド!まだ迎えは出していないだろうな?迎えは私が行く。そしてジョアンを‥褒めてやりたいのだ」

「父上‥しかしジョアンと父上は、2人だけできちんと会話が出来ますか?昔から2人は、必要最低限以外、会話をしてきていないでしょう?」

「エドゥアルド、それは心配するな。ラウール叔父に同行を頼んだ」

「大叔父上ですか?まあ、大叔父上が一緒ならば、ジョアンも少しは緊張が解れるでしょう。知っていましたか父上?ジョアンは父上を前にすると、いつも緊張していたのですよ」

「分かっている。全ては私が蒔いた種だ。マンソンの事も含め全てがな。だから私は償わねばならん。少しずつ歩み寄る努力をするつもりだよ。エドゥアルド、お前は手出しするなと言ったが、マンソンの事は大丈夫なのか?襲撃は明日の晩だろう?」

「大丈夫です。父上はご自分のお心を、ジョアンに伝えて下さい。優しく真っ直ぐな心の、自慢の弟なのですから。私はそんな弟を支えられる存在でありたい。さて、それでは私は問題を片付けて、王太子を迎える準備でもしますか」

国王は頷き、エディはニッコリと笑って、それぞれの準備に取り掛かった。

読んで頂いてありがとうございます。

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