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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
142/175

出番?

シモンは馬を走らせ、ある場所へ向かっていた。

段々と民家が少なくなり、左右に広がる畑の真ん中を進むと、目指す場所が近付いて来る。

そして辿り着いた先には、あのフィーゴ農園があった。

「エドゥアルド殿下からの呼び出しと聞いたら、どんな反応をするのか容易に想像出来るな。うるさいだろうから、帰りは思いっきり馬を飛ばして行こう」

そう呟いたシモンは、一つ溜息を吐いて管理人室へ向かった。

管理人に事情を説明すると、今の時間だと北の農園でジャガイモの収穫をしていると教えてくれた。

そこで北側へ向かってみると、目的の人物が楽しそうに、掘ったジャガイモを籠に入れている姿が目に入る。


「義兄上!」

「おっ!なんだシモンではないか!私に会いに‥」

目的の人物、ミゲルが嬉しそうにそう言うと、言い終わる前にシモンが遮った。

「最初に言っておきます!決して義兄上に会いに来た訳ではありませんよ!来たくは無かったんですが、来なきゃいけない理由があったんですからね!」

「なんだ、照れているのか。私に会いたかったんだろう?」

「会いたくないと思った事は何度もありますが、会いたいと思った事は一度もありません」

「そうかそうか、そんなに会いたかったんだな?ほれ、よく顔を見せてやろう。何ならハグをしてくれてもいい」

「やめて下さい気持ち悪い!全く、義兄上は相変わらずすぎて、怒る気にもなりませんよ。私はこんなくだらない事を話しに来たんじゃありません!忙しいんですから、さっさと身支度を整えてくれませんか?」

「何故だ?今はこっちが忙しいのだぞ?私がいないと皆が困る」

「おや?義兄上も少しは成長した様だ。他の人を気遣う事を学びましたか。フム、農園は義兄上にとっていい環境だな。一生農園にいた方がいいのかもしれない。世の中の為にも」

「おい!今何か物騒な事を口走ったな?私はシティーボーイだぞ!田舎は苦手なんだ!」

「十分馴染んでいるじゃありませんか。そんな事より、さっさと身支度を整えて下さい。仕事の事なら、管理人には話を着けてありますから」

「分かった。私がいなくて大変だろうが、皆よく働けよ」

他の農夫達は冷たい目でミゲルを一瞥すると、無言で黙々と仕事をこなしている。

それでも反論して怒鳴られていないだけ、義兄も戦力にはなっているのだなとシモンは思った。


宿舎に戻って身支度を整えると、シモンの用意した服に着替えて、ミゲルはクルリと一回転してみせた。

「どうだシモン、久々にきちんとした格好をしたぞ。やはり私にはこういう格好が似合う」

「私には作業着の方が似合うと思いますが。いや、むしろ作業着以外は似合わないと言った方がいいか‥」

「何を悩む必要がある!?つまり私は何でも似合うのだろう?やっぱりそうだと思ったのだ、着こなし上手だからな私は」

「義兄上、その根拠のない自信はどこから来るのです?全く人の話を聞いていませんね。まあ、その格好はとりあえず合格としましょう。これから向かうのは王宮ですからね」

「何っ!?王宮だと!!先にそれを言え!アレだろう?ついに殿下が私を必要としたのだろう?やっぱり主役は必要だからな。やはりエドゥアルド殿下は見る目がある」

「王宮より先に、病院へ連れて行きましょうか?妄想癖がある様なので」

「何をしているのだシモン、さっさと向かうぞ!早くしろ!」

「やれやれ‥本当に人の話を聞かないな義兄上は。それでは馬の前に座って下さい。義兄上では私のスピードに着いて来れないので、仕方なく二人乗りで行きますよ」

「お前と二人乗りか。少々照れ臭いが仕方あるまい。まあ、アレだな。お前もそろそろご婦人と二人乗りする事を考えねばな。いい相手はいないのか?」

「いませんよ、今の所は。私の相手は手の掛かる義兄上を、受け入れてくれる人でなければなりませんから」

「何だ人のせいにして。さてはお前、モテないんだろう?」

「いいから早く乗って下さい。忙しいんです!」

慌ててミゲルは馬に乗ると、少し前に移動してシモンを待った。

シモンはヒラリと馬に跨り、手綱を握って馬の腹を蹴る。


「まあモテないのは仕方がない。だから高望みするんじゃないぞ」

「ご心配無く。これでも結構モテますよ。だけど私が相手に望むのはたった一つ、義兄上を私と同じ様に受け入れて嫌わない事です。これがなかなか難しい」

「ん?お前、今感動する言葉を言わなかった‥グッ!!」

「ほらほら、余計な事を話していると舌を噛みますよ。ああ、トイレに行きたくなったら教えて下さい。お漏らしされても困りますので」

ミゲルは噛んだ舌が余程痛かったのか、涙目になりながら頷いている。

シモンはそれを笑いながら、スピードを上げて王宮を目指した。

読んで頂いてありがとうございます。

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