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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
140/175

責任という言葉

ジョアン一行は人目を避けて、森や山を抜けるルートを通っていた。

イスペルへ入った時のルートは最短距離ではあったが、途中どうしても村や町を通らなければならない。

エレナが同行している今回は、そこを通る訳にはいかなかった。

ミドラスの第4皇子が躍起になって探しているこの状況で、絶対にエレナを人目に触れさせる訳にはいかないのだ。


村や町で食料を調達出来ない分、ホセ達3人は山の中で狩りをして、その日の食事を用意してくれている。

エレナも慣れた物で鳥の羽根をむしったり、ウサギの皮を剥いだりと、手早く下ごしらえをしていた。


「エレナ嬢、私にも教えてくれないか?私だけ役立たずでは申し訳ない」

「その様に"嬢"を付けて呼ばれると、何だか自分ではないような気がします。私の事はどうかエレナと呼び捨てにして下さい」

手際良くむしった鳥を解体しながら、エレナは照れくさそうにそう言った。

「そうか、それなら私もジョアンと呼んでくれ。それに、敬語は使わなくていい。ここで一番足手まといなのは、何を隠そう私だからな」

「旦那、何も隠していなくても、間違いなく旦那ですぜ」

「ホドロ、やっぱりそう思っていたのだな。エレナ、役立たずは間違いなく私だ」

「あ!今サラッとホドロ呼びしましたね!実は突っ込まれて、イラっとしたんじゃないんですか旦那?」

「そんな事は無い。ホドロ呼びは単純に‥気に入っているのだ。実はお前達と過ごしてみて、初めて仲間意識というか、心許せる相手との団結の様な気持ちを感じていてな。お前達が思うよりも、私はお前達を好ましく思っているのだぞ」

「旦那‥‥!やめて下さいよ、照れちまいます」

3人は少し赤くなりながら、ジョアンから顔を背けている。

それを見てエレナはクスクスと笑った。


「殿‥ジョアン、貴方は真っ直ぐな人なんだな。そんな風に人は、思った事を素直に伝えられない物だ。彼等が恥ずかしがっているのは、貴方の様に正直な自分の気持ちを、伝えられる事に慣れていないせいだよ」

「そういう物なのか?でも私は真っ直ぐというよりも、頑固だと言われる事が多いぞ。側近のエンリケには、よく説教をされている。私に言わせれば、貴女の方が真っ直ぐだ。イスペルの為にこれほど懸命に働いているのだから」

「私は‥真っ直ぐではないよ。人一倍負けん気が強かっただけなんだ」

「負けん気だと?それはどういう意味なのだ?貴女に会ったら聞いてみたかったのだ。貴女は何故、女性で‥しかも王族でありながら、傭兵になってイスペル解放運動をしようと思ったのだ?」

「その女性で王族でありながらという偏見を、どうにも出来ないままでいる自分が、私には受け入れられなかったし、許せなかった。私の家族は元国王であった伯父がミドラスに捕えられても、仕方がないと諦めたんだ。もちろん貴族や大臣達も同じさ。皆が諦めたイスペルは、アッサリとミドラスの支配下に置かれたよ。彼等はいいさ。貯め込んだ財産を使って、ミドラスから優遇される権利を得たのだからな。ところが国民はどうだ?搾り取られるだけで、自国を名乗る権利すら奪われた。一体誰の責任だ?国王を始め王族や貴族達の責任だろう?それを私が訴えたとて、鼻で笑われるだけだった。だから私は奴らの鼻を明かせてやろうと、ここまで来たのだ。出来っこないと言われるのが悔しかっただけなんだよ」

「悔しいと思う気持ちは、真っ直ぐではないのか?その強い気持ちがあったから、貴女を慕う人々は増えていったのだろう。貴女は十分自分を誇っていい。誰も真似出来ない事を、やっているのだから」

「またジョアン、貴方はそうやって恥ずかしい事をサラッと言う。貴方はきっと、国民に対して責任を持って接しているんだろうな」

「責任‥か。確かに今迄は‥‥」

「王家に生まれたからには、国民に対しての責任を果たすべきだ。それをしなかったイスペルは、無駄に国民を苦しめただけ。オセアノは第1王子も帰還したのだ、2人で責任を負えるだろう?貴方は兄君を慕っているのだから」

「‥‥責任‥を2人で‥か。考えてもみなかったな‥。もう少しで私は‥間違える所だった」

「間違える?何を?」

「いや、独り言だ。やはり貴女は素晴らしい人だ!色々私に教えてくれ」

「また恥ずかしい事を‥。それじゃあまずはウサギの解体を教えよう!」

「うっ!かなりグロテスクだな」

ジョアンは躊躇いながらも、エレナの指示通りナイフでウサギを解体していった。


エレナの言葉を聞かなければ、私はまた間違える所だった。

兄上に全てを譲るという事は、全ての責任を押し付けるという事だ。

エレナには教わる事が多い。

私は国民に対しての責任を、放り出す所だった‥


読んで頂いてありがとうございます。

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