奥の手
ルイスが王宮に到着するや否や、待ち構えていた侍従に捕まって、エディのいる執務室へと案内された。
執務室にはエディとエンリケの他に、隊長の姿とカステーニョに変装したレイリアがいる。
入って早々に何があったのかを察したルイスは、まずは最初に謝るしかないと判断した。
「エドゥアルド殿下、申し訳ございません!!不可抗力とはいえ、レイリアを連れて来た上に隊長まで巻き込み、結果野放しにしてしまいました!多分うろちょろしていたんでしょう。ええ、きっとうろちょろしていたに違いありません!本当に申し訳ございませんでした!!」
ルイスはエディの前で深々と頭を下げた。
レイリアも珍しくシュンと俯いている。
ところがエディは怒るどころか、クスクスと笑い始めた。
「うろちょろという表現ほど、リアの行動に相応しい物はないね。ルイス殿は流石にリアの事をよく分かっている。さあ、顔を上げてくれないかい?私は君を責めるつもりはないのだからね」
ルイスは驚いた顔をして、下げた頭を上げてエディを見た。
「お怒りではないと?」
「心配でそれどころではなかったからね。ドミニク殿も、君には怒るどころか同情していたよ。元々は私が伝えるべき事を、伝えなかったのが原因だ。でもこの悪戯っ子には少々お仕置きが必要だけどね」
チラリと見られたレイリアは、益々小さくなっている。
流石にレイリアも反省している様で、さっきから黙って俯いていた。
「レイリア、やっぱり日頃の行いが物を言うんだよ。君も熱心に神殿に通うべきだ。見たかいこの僕を?神はやっぱり人を選ぶなー!」
「‥反省しているわ。ルイスも迷惑かけてごめんなさい」
「いい傾向だ。それが続けばいいんだけどねぇ。それより殿下、至急報告する事があります」
「うん。隊長から聞いて、待っていたんだよ。何か分かったかい?」
「はい!ワインを飲ませたらペラペラ喋りましたよ。秘密の意味を、理解していないんじゃないんですかね?」
ルイスはハメスの語った一部始終を、全て話して聞かせた。
「いかにもマンソンらしいやり方‥と、言いたい所ですが、マンソンにしてはあまり計画的ではありませんね。まず人選を誤っている。いくら罪を被ると申し出たとはいえ、余りにも浅はかな兄妹だ」
エンリケが腑に落ちないといった表情で、眉間に皺を寄せている。
「そうだね。でも私が思うに、多分マンソンは焦っているのだよ。それはジョアンの所在が不明なのと、亡き王妃の様な手駒が王宮にいない事が影響しているのだと思うよ。加えて自分は出入禁止で、なりふり構わずといった所だろう」
「フム。なりふり構わず‥という事は、冷静さを欠いているという事ですね。そうでなければ、あの様な方を送って来る筈がありませんから」
「うん。だからマンソンの計画通り、わざわざ狙われ易くしてやろう。ルイス殿、私の寝る場所と寝る時間が分かればと言ったのだね?」
「はい。きっと寝込みを襲うつもりなんでしょう」
「そうだろうね。それなら襲わせてあげよう」
「ダメよエディ!危険な事はダメ!」
「おや?その言葉は私が君に言いたい言葉だよ。ねえ、悪戯っ子のカステーニョ?」
「うっ!で、でも‥」
「大丈夫だよ。刺客はリカルドとルイなんだから。既にマンソンから依頼を受けている。私は寝室に入って、彼等を待つだけさ。そして襲われたと騒ぎ立てる。リカルド達は捕まって、フォンテ家の放った刺客だと証言するんだ。可哀想だけど、マルグリット嬢は捕らえるしかない。もちろんフォンテ男爵とハメスもだ」
「全員捕らえたら、それからどうするの?」
「マンソンを安心させてやるのさ。私が瀕死の重傷を負ったという事にする」
「‥?」
「あーその顔は分かってないね。エドゥアルド殿下、レイリアは悪だくみには頭が回るんですけど、策略には向いていないんです。なんせ無鉄砲ですから」
「無鉄砲って‥!その通りだけど‥‥」
訳が分からないといったレイリアの様子に、エンリケは見兼ねて口を挟んだ。
「つまりですね姫君、安心というのは、油断させるという意味なんですよ。エドゥアルド殿下はマンソンを油断させた上で、捕らえた連中を裁判にかけるつもりなんです。その際フォンテ男爵には、釈放との交換条件として、誰からの指示なのか証言させるのですよ。多分証拠が無いと言い張るとは思いますが、こちらも奥の手を使わせて貰います」
「奥の手?」
「ええ。"あー飲んじゃった!毒じゃないかよ!大作戦"です!」
「ええっ!!何そのネーミングセンス!?」
「なんですか姫君、驚いたのはネーミングセンスの方ですか?」
「いいえ、どっちも。ただ、余りにもアレなネーミングセンスで、その方がダメージを受けたわ。ルイスなら、なんて付ける?」
「‥ポイズンマジックかな?」
「流石!!お見事!!」
「くっ‥!またしても!!ブラガンサ殿の才能が欲しい‥!!」
崩れ落ちるエンリケを尻目に、エディもクスクスと笑っている。
隊長は頷きながら、ルイスを熱い眼差しで見つめていた。
読んで頂いてありがとうございます。