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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
136/175

印持ちは捕獲上手

中庭に着いたレイリアは、辺りをキョロキョロと見回して人影が無いのを確認すると、真っ直ぐ四阿に進んだ。

相変わらずここは利用されていない様で、どことなく侘しさが漂っている。

でも今のレイリアには都合がいい。

カステーニョの姿で、妖精を呼ぶ所を見られずに済むのだから。

「ねえ、出て来て!美味しい物を持って来たのよ」

レイリアは妖精を呼びながら近くに生えていた紫陽花の葉を折り取ると、そこにハチミツ水を注ぎテーブルの上に置いた。

すると淡い光の玉が現れて、レイリアの周りをクルクルと飛んでから、テーブルの上にストンと落ちた。

『祝福のレイリア、ありがと!』

嬉しそうに姿を見せた妖精は、夢中になって紫陽花の葉からハチミツ水を飲んでいる。

最初に注いだ分はすぐ飲み干したので、また水筒から注いでやる。

それを暫く繰り返すと、水筒はあっという間に空になった。

妖精は満足そうにお腹を摩り、淡かった光を濃い色に変えている。

以前見た時より元気そうだ。


「良かった、喜んでくれて。少し元気になったみたいね」

『ハチミツ好き!レイリアありがと!』

妖精は嬉しそうにレイリアの周りを飛び回る。

レイリアも嬉しくなってクスクスと笑うと、妖精は頰にチュッとキスをした。

「くすぐったいわ、ちょっと元気過ぎな位ね。でも良かった!前は元気が無かったんですもの」

『印治る僕元気。‥来て。望んでる』

「え?何?」

そう尋ねると同時に、妖精はレイリアの袖をグイグイ引っ張って、以前と同じ方向へ連れて行く。

行き先はまたエルナン翼で、エディがいたあの部屋へ連れて行こうとしていた。

「待って、何があるの?もうエディはいないのよ?」

『来て。レイリア望み』

妖精の言葉は謎が多い。

いくら祝福を持つレイリアでも、全てを理解出来る訳ではない。

しかし祝福を持つ者であるが故に、妖精の導きには逆らえない事も十分承知している。

レイリアは仕方なくエルナン翼の隠し扉を潜ると、エディの暮らしていたあの部屋へ入った。


部屋の中はしんと静まり返り、ベッドの天蓋から下りるカーテンは閉まっている。

妖精はベッドの近くまでレイリアを引っ張ると、輝きを増してパッと消えた。

「えっ!?一体なんだったの?訳が分からないわ‥」

レイリアはベッドの側に立ち尽くしたまま、う〜んと首を捻って考えた。

シャッ!

突然カーテンを開ける音が聞こえたその瞬間、ベッドから人影が現れ、素早くレイリアの口を塞いだ。

しまった!と思った時にはもう遅く、ガッチリと片手で抱え込まれていた。

慌てて抵抗しようともがき始めると、耳元で聞き慣れた声が静かに囁く。


「シー!静かにして。全く君って人は、今度はそんな格好をしているのかい?」

聞き慣れた声は聞きたかった声で、大好きな声でもあった。

そしてその大好きな声の持ち主は、エディ以外の何者でもない。

口を塞いでいた手をそっと外して、エディはレイリアを後ろから抱きしめた。

「え、えーと、何というか、アレなのよ。そうだ!どうしてここに?何でこの格好の私が分かったの?」

「私が君を見間違える訳が無い。10年間君だけを想い続けて来たのだからね。それよりも、君はポンバル家にいる筈ではなかったのかい?」

「うっ!ご、ごめんなさい!!」

エディはハァ〜と長い溜息を吐いて、レイリアの首元に顔を埋める。

「‥‥君が居なくなったと聞いた時には、心臓が止まるかと思ったよ‥。本当に‥無事で良かった」

「エディ‥‥本当にごめんなさい。えっ‥と、どうしてもマルグリットという方の事を調べたかったの」

「分かっているよ、私が悪い。イザベラにも叱られた。でもリア、頼むからせめて私に連絡をしておくれ。この二日間生きた心地がしなかった」

「あ、あのね、ちゃんと明日には戻るつもりだったの。だから余計な心配をかけたくなくて‥」

「余計な心配か‥。つまりは私が君を心配させたという事だね。本当は怒りたい所だが、まあ仕方がない。叱るのはドミニク殿に任せよう」

「ヒェッ!!やっぱりお兄様‥‥怒ってるわよね‥?」

「それはもう、これ以上ない位にはね。こればっかりは庇えないよ。覚悟しておくんだね」

「‥‥はい」

シュンとして俯くレイリアを、エディは正面に向き直らせると、少し屈んで顔を近付けた。


「さて、怒るのはドミニク殿に任せるが、お仕置きは必要だね。リア、君からキスをして貰おうか」

「キ、キス‥!う、その前に‥エディに聞いてからじゃないと‥その、マルグリットという方が妃候補って聞いたんだけど‥」

「私が君以外の人を妻にする事は無いよ。君に再び会わなければ、生涯独身でいるつもりだったのだからね。彼女は目的を知る為に自由にさせていたのだが、それが返って下らない噂になってしまってね、私もウンザリしていた所だよ」

「そう‥だとは思ったんだけど、だとしたらあの方の目的を調べるべきだと思ったの。あのね、あの方はやっぱりマンソンと繋がりがあったのよ。それで、さっき王都へ出かけて行ったと聞いて、隊長が後を追ってくれたの」

「うん、それは後でゆっくり聞こう。今はリアのお仕置きが先だからね」

「や、やっぱりお仕置き?う〜‥じゃあ目を瞑ってくれる?」

エディは顔を更に近付けてから、ゆっくりと目を閉じてレイリアを待つ。

レイリアは真っ赤になりながら、そっと唇を重ねた。


実感は無かったがドミニク殿の言う通り、私は本当に印持ちらしいな。

リカルドに見張らせておいたお陰で、先回りしてリアを捕まえる事が出来た。

お礼にリアにはドミニク殿の女装の事は、暫くの間黙っておこう。

読んで頂いてありがとうございます。

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