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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
135/175

動き出した

隊長の実家で一晩過ごしたレイリアは、再び王宮へ戻って隊長の仕事を手伝っていた。

手伝うといっても隊長に言われた資料の整理や、乱雑に散らばった書類を纏めたりと簡単な物だが、何もしないでいるよりは何かをしている方がいい。

実は2人はある人物の訪れを待っていた。

その為今は隊舎を離れる訳にはいかないのだ。


お昼休みが終わって午後の仕事に取り掛かった頃、コンコンと扉を叩く音が聞こえる。

「どうやら動き出した様だな」

隊長はニヤリと笑ってレイリアを見てから、扉の向こうの人物に返事を返した。

入って来たのは若い女官。

この女官こそ2人が待っていた人物で、前日に隊長がマルグリットから助けた女官だ。

書庫でマルグリットの事を調べた後、隊長は女官にある事を頼んでいた。

それはマルグリットの行動の監視で、少しでもおかしな行動を見かけたら、直ちに報せて欲しいという物だ。

頼んだ通りやって来たという事は、つまりはそういう事なのだろう。


「失礼致します。隊長、昨日はありがとうございました」

「いや、君も災難だったな。理不尽な言い掛かりを付けられて。それでは聞かせて貰おうか。どんな事をしていたんだね?」

「はい。エドゥアルド殿下に朝食の同席を申し込まれましたが、殿下は執務室で召し上がるとの事で、渋々諦めた様でした。やはり昨日、隊長に言われた言葉が効いたみたいで、今日は一度も執務室へは近付いていません」

「そうかそうか。脅しが効いて何よりだ。それで、その後は?」

「珍しくお部屋に篭っていらっしゃったのですが、お昼になる少し前に、馬車を呼ぶ様言われました。行き先を聞くと王都だと仰って、先程出かけて行かれましたが、侍女も連れずにたったお一人で、馬車に乗って出て行かれました」

「王都‥しかもたった一人か。これは何やら臭うな‥。王都の何処かとは言っていなかったのかね?」

「そこまで詳しくは聞けませんでした。あの通りご気性の激しい方ですので」

「ふむ。それもそうか。いや、ご苦労だったね。こんな事を頼んですまなかった」

「いいえ、隊長には助けて頂いた恩がありますので、お役に立てれば何よりです。それに、ここだけの話ですが、私達はあの方の事を良く思っておりません。私以外にも被害に遭った女官は何人もおりますし、振る舞いも品位に欠けておりますもの!それなのにエドゥアルド殿下の妃候補と言われているなんて、皆が納得しておりません!」

よっぽど腹に据え兼ねたのか、女官はマルグリットの不満を口にする。

レイリアは"妃候補"という言葉を聞いて、思わず持っていた資料を手元から落とした。


「まあまあ、落ち着きなさい。エドゥアルド殿下は聡いお方だ。何が正しいのかは分かっている筈だよ。さて、私も出かける準備をしよう。君も自分の仕事に戻った方がいい」

「あ!申し訳ございません、つい興奮して不満を漏らしました。それでは失礼致します」

女官は不満を漏らした事を恥じて、そそくさと戻って行った。

レイリアはまだ少しだけ動揺していたが、平静を装って隊長に問いかけた。


「隊長、出かけるって、あの方の後を追うのですか?行き先は不明ですよ?」

「ふふん!カステーニョ、心配しなくてもいい。私は隊の連中が身に付けた特殊能力を、一通りこなす事が出来るのだよ。そうでなければ隊長は務まらないからね」

「えっ!?一通りこなすって‥隊長、怪物並みじゃないですか!」

「怪物というより、野獣だな。この異名は伊達ではないのだよ」

「ほ〜!そこから付けられたのですね。見た目じゃなくて‥」

「何だね?」

「いえ、流石です!では僕も準備を‥」

「いや、カステーニョは王宮に残ってくれ。相手に悟られずに行動するには、1人の方が都合がいい」

「‥確かに。でも、何だか色々すみません。全て頼りっぱなしで申し訳なくて‥」

「カステーニョ、いや姫君、私はマルグリット嬢を王家に仇なす者と考えておりますぞ。だからこれは最早私の仕事です。気にする事はありません」

「隊長‥!隊長っていい人ですね!私は隊長を頼った自分の判断を間違っていなかったと、改めてそう思います」

「姫君、その言葉をドミニク殿下やブラガンサ殿に、よく宣伝して下さいよ。これも私のいい所ですからな」

「は、はい‥」

「ではカステーニョ、私は後を追うが、君は王宮で待機していてくれよ。その格好をしているとはいえ、あまりうろちょろせん様にな。まあ、書庫位なら行っても良しとしよう。待っている間、退屈だろうからね」

「はい、分かりました。では本でも読んで待っています。隊長もお気を付けて」

「任せてくれ!何と言っても私は野獣と呼ばれているのだ。あの方程度に見付かるようなヘマはしないさ!」

隊長はニカッと笑って胸をドン!と叩いた。

相変わらず胸元からは濃い胸毛が覗いている。


能力もそうだろうけど、やっぱり見た目も野獣の異名に関係しているんじゃないかしら?

ワイルドだものねぇ‥

とりあえず書庫で本でも探して来よう。

あ!ついでに中庭のあの子に、ハチミツ水を持って行ってあげよう!

妖精達は皆アレが好きだもの。


隊長が出かけた後、レイリアはハチミツ水を作ってそれを水筒に入れると、中庭の方向へ歩いて行った。

読んで頂いてありがとうございます。

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