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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
133/175

初対面

予定通りイスペルに入ったジョアンは、商人に扮して村や町を周りながら、エレナの足跡を追っていた。

ミドラスの網をかいくぐり行動するエレナを、捕まえるのは容易ではなかったが、オセアノ国王にエレナの保護を依頼した、協力者達の尽力により、今夜遂にエレナと対面する。

自治権を与えられているとはいえ、敵国であるミドラスを、慣れない生活をしながら移動してきたジョアンにとって、やっと希望が見えて来たという思いだった。


日の暮れた村の外れに建つ、ありきたりな農家の地下室へ、協力者の案内で歩を進めると、そこには若者を中心に、ギッシリと人々がひしめき合っていた。

真ん中には木箱が置いてあり、その上には細身の青年が立ち、熱心な演説で人々を湧かせている。

ジョアンと3人は人の波を掻き分けて、奥の壁側に自分達の居場所を確保した。

青年は長い銀色の髪を後ろできっちり一つにまとめて、長めの紺色の上着を羽織り、膝までのブーツを履いて、腰には剣を下げている。

顔立ちはどこか中性的で、生き生きとした灰色の瞳と薔薇色の唇、少し高めの声には、何故か惹きつけられる魅力があった。


女性であれば、相当な美女だろうな。

解放運動の指導者の一人らしいが、あれは一体誰なのだろう?


隣に立つペドロは、そうしたジョアンの様子を見て、声を抑えて話しかけて来た。

「旦那、見とれていますね。気持ちは分かりますよ。なんせあの通り、かなりの美女でしょう?」

自分の思考を読まれた気がして、恥ずかしくなったジョアンは、言い訳がましく反論する。

「ペドロ、美女というのは女性に対する賞賛だ。彼は中性的だが、その様な賞賛をするべきではないぞ。凛々しいと言った方が相応しい」

「旦那‥‥お気付きではないんで?まあ、それも無理ないです。あの様な格好では、誤解されても仕方ない」

隣で聞いていたホセとホアンも、訳知り顔で頷いている。

ジョアンには何の事か分からず考え込んだが、3人は面白がっている様でそれ以上は教えてくれない。

そうしている間に青年の演説は終わり、人の波はパラパラと散り始めた。

どうやら会合が終わったらしく、人々は次々に地下室を出て行く。

ジョアンと3人が立ち尽くしていると、案内してくれた協力者が、先程の青年を連れてやって来た。


「お待たせ致しました。やっとお引き合わせが叶いましたよ。改めてご紹介致します。こちらは我々のリーダーであり、元王族のエレナ殿です」

協力者の男の口から出た言葉を聞いて、ジョアンは驚き目を見開いた。

それを見て3人は『ほらね』という顔をしたが、ジョアンにジロリと睨まれると、明後日の方向を向いてとぼけている。

一言文句を言ってやりたかったが、まずは挨拶をするべきだろう。

ジョアンは平静を装いエレナの前に進むと、静かに口を開いた。


「私はオセアノ国王より、貴女を保護する使命を与えられた者だ。やっと会う事が叶い、嬉しく思う」

そう言って握手をしようと手を差し出したら、エレナは怪訝な顔で腕を組んだ。

「名は?」

「名?私の名前か?」

「当たり前だ。名も名乗れない相手に、挨拶をするつもりは無い!」

強い口調でニコリともせず、エレナは真っ直ぐジョアンを見つめている。

ジョアンは一瞬呆気に取られたが、それも当然だろうと思い、自分の名前を告げる事にした。


「失礼した、名を名乗るべきであったな。私の名前はジョアン・オセアノスという。貴女の身柄を引き受ける為にやって来たのだ」

「ジョアン・オセアノス‥‥ほう?第二王子の名を名乗るとはな。本物なのか?」

「そう思われても仕方がない。すっかり商人の暮らしが身に付いたからな。どこをどう見ても、商人にしか見えないだろう?」

少し得意げに言うジョアンに、エレナは冷めた目を向けた。

後ろに控える3人は、ブンブンと首を振っている。

見兼ねたペドロは

「旦那、どこをどう見ても、偉そうな坊ちゃんにしか見えませんぜ」

と小声で囁いた。


「はっきり言って、その所作と口調は庶民の物ではない。第二王子ならば証拠を見せて貰おうか?」

「証拠か‥。今は指輪位しかないが、これで納得して貰えるか?」

ジョアンは失くさない様に銀のチェーンに通した紋章入りの指輪を、首から外してエレナに見せた。

エレナはそれを確認すると、またもや怪訝な顔をする。

不審に思ったジョアンは、ひとまず聞いてみる事にした。

「まだ納得しては貰えないのか?しかし、今はこの指輪位しかないのだが?他に何が必要なのだ?」

「‥そうではない。貴方が第二王子である事は確認した。だが私はこの様な生活を送っている故、どの様な身分の者であろうと、私が信用するに値する相手以外には、身柄を預けるつもりは無いのだ。一つ聞こう。貴方は第二王子でありながら、何故この様な任務を遂行しているのだ?その答えによって、貴方の手を取るか決めさせて貰おうと思う」

「私の答え‥だと?」

想定外の言葉に、ジョアンは頭から水をかけられた気分になった。


漸くここまで辿り着いたというのに、一筋縄ではいかない相手だ‥


ジョアンの頭の中を、グルグルとこの思いが駆け巡っていた。

読んで頂いてありがとうございます。

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