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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
131/175

繋がった

パラパラと卒業者名簿を捲る隊長に、レイリアはさっきから気になっていた事を、思い切って聞いてみた。

「あの、隊長、さっき言っていた事で、質問があるのですが‥」

「さっき言っていた事?どれを言っているのかね?」

「えっと、執務室の事です。法で裁かれるという話なんですが‥」

「ああ、その話か。あれは半分が本当で、半分が出まかせだよ」

「えっ!?出まかせって‥嘘をついたんですか?」

「そう。法で裁かれるの部分だけは出まかせだ。出入は禁じられているが、法で定められている訳では無い。あの方はご存知ないと確信したから、少々オーバーに話を盛ったのだよ。お陰であっさり話が済んだが、驚く程無知な方であったな。どうもあの方は、きちんとした教育を受けていない様に思える」

「あ、隊長もそう思ったんですね。実はわた‥僕も感じました。でも法の部分が出まかせで、ホッとしています。以前従兄弟が執務室で暴れたので、さっきの言葉を聞いてから、心配していました」

「暴れた!?ああ!ちょっと前のあの騒ぎの事かね?あれはジョアン殿下が、上手く取り計らって下さった。多少修理は必要だったがね」

隊長はイタズラっぽく言いながら、少し口元を綻ばせた。

つられてレイリアも笑顔になる。

傍目から見たら楽しそうに見えたのだろう。

たった今書庫にやって来たエンリケは、その様子に目を止めた。


「おや隊長、やけに楽しそうですが、珍しく事務仕事ですか?」

エンリケは走り回ったのか、息を切らせて隊長に話しかけて来た。

ヤバイ!と思ったレイリアは、反射的に頭を下げたが、エンリケがジロジロ見てくるので、仕方なく顔を上げた。

「事務仕事も珍しいですが、こういう少年を連れているのも珍しい。隊長、趣味が変わったのですか?」

「いや、この者は遠縁の者で、我が隊の入隊希望者なのですよ。今の所身の回りの世話をさせて、適性を見ておりますが」

「ほう!隊長の親戚ならば、身元は保証されているのでしょうが、入隊希望者というからには、特殊な能力を持っているのでしょうね?どんな能力なのです?名は何というのですか?」

グイグイ聞いてくるエンリケに、レイリアはたじろいだが、隊長は至って普通だ。

「カステーニョと呼んでおります。見習いなので、ニックネームですが」

「カステーニョ!何ですか隊長、そのセンスの無いニックネームは!付けるならソバカスに因んで、サルダスの方が相応しいでしょうが!」

「いえ、本人納得していますので、カステーニョで呼ぶつもりですよ」

「何を言っているのですか!ニックネームとは、その人の人生を左右する、重要な物なのですよ!ニックネームによって、人生が変わる事だってあるのですからね!やはり、サルダスに変えた方がいい!君だってそう思うでしょう?」

いきなり振られて焦ったが、エンリケは全く気付いていない。

隊長をチラリと見れば、自信たっぷりの顔をしている。

それならばダークブラウンの髪の少年として、振る舞うのが自然だろうと、レイリアは判断した。


「あの、カステーニョがいいです。サルダスは何だか猿っぽいので」

「なんと!サルダスと猿!上手い掛け合わせだ。ふむ、猿出す‥猿です‥おお!名作が出来上がりそうだ!」

「えっと‥何の話でしょう?」

「いや、こちらの事。君は中々キラリと光るセンスの持ち主の様だ。おっと、こんな話をしている場合ではなかった!隊長、ブラガンサ殿を見かけませんでしたか?」

「ブラガンサ殿ですか?見かけたらとっくに口説いている所ですよ。事務仕事などより、そちらの方がよっぽど重要ですからな」

「確かに!隊長ならそうするでしょう。しかし、もし見かけたら、口説かず執務室へ連れて来て下さい。エドゥアルド殿下が、火急の用事で呼んでいるのです」

「火急の用事ですか。ブラガンサ殿はモテますなぁ。それこそ口説き甲斐があるという物。腕が鳴りますよ」

「言っておきますが、ブラガンサ殿はノーマルですよ。とにかく、見かけたら頼みます!」

エンリケはそう言い残して、忙しそうに書庫を後にした。


ふ〜!緊張したわ。

全くバレずに済んで良かった。

これも隊長の化粧のお陰ね。

それにしても隊長の落ち着きっぷりは、尊敬に値するわ。


「隊長、話の逸らし方といい、振る舞いといい、感服致しました!」

「エンリケ殿とは長い付き合いだから、何を話せば食い付くか全てお見通しなのだよ。それよりもカステーニョ、これを見てくれ。私より二つ下の学年の卒業者名簿だ」

「隊長より二つ下‥この年代だと今‥26歳になりますね。えっ!?では隊長って、28歳!?」

「何を驚いているのだね?さては私が年齢より若く見えたか?良く言われるから慣れているよ」

「ハ、ハァ‥」

「見て貰いたいのはこの名前だ。ハメス・フォンテとあるだろう?確か、フォンテ男爵家の跡取りだと、威張っていたのを思い出したよ」

「そうなんですか?フォンテ男爵家とは初めて聞きましたが、そんなに有名な家なんですか?」

「その逆だよカステーニョ。その様な家があったのかと馬鹿にされる程、落ちぶれた借金だらけの家なのだ。それなのに何故威張っていたのか、それを思い出したら繋がったのだよ」

「何を思い出したのですか?」

「以前酒場でこのハメス・フォンテを捕まえた事がある。酔って暴れて手に負えなくてな、たまたま別の用事で通りかかった所を、顔見知りの店主から頼まれたのだよ。その時に威張り散らしておったのだ、自分はマンソン侯爵家の遠縁の、フォンテ男爵家の跡取りだとな。それで、数日後に同級生にその話をしたら、我々の二つ下の学年にいたと教えてくれた」

「ええと、そのハメス・フォンテと、マルグリットという方には、一体どんな繋がりが?」

「私の同級生は貴族の家に詳しくてな、ハメスの家族構成も教えてくれたのだよ。まあ、あの方は中々の美人だから、覚えていたのかもしれんがな。同級生は言っていた。ハメスには妹が2人いるのだと。私はそんな事をすっかり忘れていたのだが、さっきの威張り方がハメスにそっくりだったから、思い出したのだよ。まあ、名前までは思い出せなかったから、こうして調べる羽目になったのだがね」

「妹‥?それがマルグリットという方だと?」

「それを今から貴族名鑑で調べるのだよ。まだ当主は父親の筈だ。絵姿を確認してみよう」

レイリアは頷いて、隊長の捲るページをジッと見つめた。

「流石王宮の貴族名鑑だな。準貴族から家族構成まで載っている。お!あったぞカステーニョ!これだ!ファビオ・フォンテ男爵、このページだ!」

隊長の開いたページには、紫色の瞳に黒髪の男性が描かれていた。

ファビオ・フォンテ男爵

妻 ミリア

長男 ハメス

長女 ミゲーラ


「隊長、ハメスの妹は1人ですよ?もしかして、聞き間違いだったんじゃ‥?」

「う〜む、そんな筈は無いのだが‥。いや、待てよ!探し方を間違えたのだ!これは最新版なのだからな!」

「えっ!?どういう事です?」

隊長は又パラパラとページを捲って、別のページを探し始めた。

「繋がったぞカステーニョ!やはり聞き間違いでは無かったな!」

隊長が開いたページには、ファブレガス伯爵が載っていた。


ラウール・ファブレガス伯爵

妻 エミリア

長男 セスク

長女 マルグリット(養女。元フォンテ男爵家次女)


繋がってしまった‥!

やっぱりあの方は‥マンソン侯爵と関係があったのね‥。

では、一体何の目的が‥?

ううん、それより、この事をエディは知っているのかしら?

報せた方がいいわよね‥やっぱり‥

読んで頂いてありがとうございます。

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