変装のプロ
レイリアと隊長との取り引きが纏まった所で、ルイスは腰を上げて入口に向かった。
「それじゃあ隊長、面倒をかけますが、よろしくお願いします。レイリア、本当に3日だけだよ!その間は絶対バレるなよ!」
「分かっているわ。ありがとね、ルイス!」
「姫君の事はお任せ下さい。私が命に代えても、お守り致しますよ!時にブラガンサ殿、貴方はどちらへ行かれるのですか?」
「王宮にいたら、確実に見付かって問い詰められるでしょう?だから王都で、適当に隠れる所を探しますよ」
「いや、それでしたら、私の実家に滞在されてはいかがでしょう?姫君も連れて行く予定ですからな。うちの宿舎じゃ、さすがに姫君を泊められませんし」
「えっ!?隊長の家ですか‥?それは‥やめておきます。アテはあるんで」
「そうですか?残念ですな。ブラガンサ殿とは、朝まで語り合いたかったのですが‥」
「いえ、これ以上迷惑をかける訳にはいきません!それでは隊長、すみませんがレイリアをよろしくお願いします!」
ルイスは慌てて扉を開けると、逃げる様に部屋から出て行った。
ふー!危なかった!
何とか普通の扉を開けて戻って来れたぞ。
レイリアに付き合っていたら、本当に別の扉を開けられてしまう。
悪いがレイリア、僕はこれ以上協力しないよ。
君もたまには自分で自分の後始末をするんだね。
とはいえ、僕も兄さんに怒られるのは確実だ。
せいぜい3日の間に、僕なりに足掻かせて貰うとするか。
ルイスは予め用意してあった"君は誰?実は僕"セットで変装すると、森側の出口からこっそり王都へ消えて行った。
「では姫君、まずは隊服に着替えて、カツラを変えて頂きましょう。その変装では、素人丸出しですからな」
「素人丸出しですか?私の男装は評判が悪いんですが、どこが悪いんでしょうか?」
「姫君、ただカツラや服装を変えるだけでは、いかにもな感じで逆に目立つのですよ。なに、私に任せて下さい。我々の隊は変装も訓練を受けておりますからな」
レイリアは言われた通り、隊長の用意してくれた隊服に着替えて、ダークブラウンの髪色のカツラを被った。
「着替えましたが、随分と肩パッドが入った隊服ですね。それにカツラも前髪が長い様な‥」
「姫君は女性ですから、体型をがっしりと見せるには、その位で丁度いいでしょう。前髪は姫君の目を隠す為ですぞ。姫君の目は、目立ちますからな。それにそのカツラの髪色は、一番目立たない色なのです。人混みに紛れると、一瞬で埋もれる髪色を選びました。さて、それではここへ座って下さい。少々化粧を施しますから」
「化粧!?隊長がですか?」
「他に誰がいるんです?安心して下さい、私はこう見えてもプロ並みの腕前ですからな。黒子やソバカスを描くだけで、大分変わりますぞ。まあ、仕上がりを楽しみにしていて下さい」
目の前の椅子に座ると、隊長は手慣れた手つきで筆を取り、数種類の色をレイリアの顔の上に乗せ筆を滑らせていく。
そして、そこらの侍女や女官より手際よく化粧道具を扱い、すっかり別人の顔に仕上げてくれた。
「ふわっ!まるで"おい小僧!なによ私?"って感じだわ!凄いわ隊長!」
鼻の上から頰へ薄っすらと広がるソバカスに、剃りたての青い髭跡まで再現した化粧の腕前に、レイリアは思わず感嘆の声を漏らした。
「フフフ‥まあこんな物でしょう。では仕上がった所で、敵状視察といきましょうか?」
「えっ?願ってもない申し出ですが、いきなりで大丈夫ですか?」
「なぁに、マルグリット嬢がどんな方か、見るだけなら十分ですよ。何しろあの方は、姫君の顔を知りませんからな」
「あ、納得!やはり隊長は頼りになりますね!」
「そこの所、ドミニク殿下には良く宣伝して下さいよ。私の良い所はまだまだありますからな」
「は、はい‥」
「それではこの本を持って、私の後ろに付いて来て下さい。書庫へ用事があるという事にしましょう。今から姫君の事は‥そうですな、カステーニョと呼びましょうか?」
「カステーニョですね。分かりました。間違えない様にします」
「では行くぞカステーニョ!」
「はい隊長!お伴します!」
隊長は満足そうにニカッと笑って、一際濃い笑顔を見せた。
胸元にはそれに負けない濃さの、胸毛が覗いている。
レイリアは努めて平静を装ったが、出来るだけ見ない様にしようと心に決めた。
年が明けたと思ったら、いつの間にか1月も半分過ぎていました。
まだ録画した年末年始の番組、半分も観てないよ!?
まあ、いっか。いつでも観られるし‥などと思っていると、気付けば年末!なんて事をまるでルーティーンの様に、毎年繰り返しています。
読んで頂いてありがとうございます。