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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
122/175

分かりにくい

ジョアンと3人は谷を抜けて、森からイスペルへ入るルートを取る事にした。

途中小さな村を2つ通って食料の調達をしたが、夜は野宿をして先を急いだ。

慣れない野宿に初日は寝付けなかったジョアンだったが、強行軍で進む旅は思った以上に疲労して、2日目は泥の様に眠る事が出来た。

そして3日目の今日は、森の奥の開けた場所に野営地を構え、そこで夕食を摂っている。


「ホセ、ホアン、ホド‥ペドロ、今夜は私が火の番をしよう」

「旦那、だからホドロでもいいですって」

「いや、すまん。人の名前を言い間違えるのは失礼な事だ。誤魔化したつもりだったが‥バレたか」

「‥‥ええと、笑ってもいい所ですか?」

「聞かないでくれ!実は‥ウケを狙って言った」

「「「分かりにくっ!旦那、分かりにくいですって!」」」

「やはりそうか‥。私は冗談を言うセンスが無いのだな。まあ、くだらないネーミングよりはましか」

「ネーミング?何ですかそれは?」

「オセアノで一部の人間がやっているイベントだ。ネーミングセンス大賞といって、私の幼馴染が出資者なのだがな、その本人には全くネーミングセンスが無いのだ」

「それって‥やる意味あるんです?」

「諦めの悪い男なのだ。だから私も諦めろと言うのを諦めた」

「旦那、今のは冗談ですか?」

「いや、真面目に答えたつもりだが、少しだけ韻を踏んだ」

「「「分かりにくっ!旦那、言い方が暗いんですって!」」」

「ここでも暗いと言われたか。これは開き直ってネクランと名乗った方がいいのかもしれんな」

「ネクラン?フゥム、案外いいかもしれません。万が一を考えたら、旦那の名前は伏せた方がいいでしょう」

「分かった。不名誉な名前だが、ホドロの言う通りにしよう」

「あ、ついにホドロと呼びましたね?これもウケ狙いなんですか?」

「いや、今のは普通に言い間違えた。分かりにくくてすまん」

「いえ、もうなんか旦那のペースに慣れて来ましたよ。それじゃあ今夜は火の番をお願いしますね。明日の夜にはイスペルへ潜入しますんで、旦那も眠くなったら寝て下さい。休める時に休んでおかなきゃいけませんや」

3人は食べ終えた器を片付けると、それぞれの場所で毛布にくるまり、あっという間に寝息を立てた。

ジョアンは1人焚き火を見つめて、この2日間で感じた事を思い出している。


私は考えが甘すぎるな‥

私さえいなくなれば良いと思っていた。

だからどこか田舎の村で、庶民として暮らしてみるのもいいかもしれんなどと、漠然と考えていたのだ。

だが実際庶民の生活に触れてみて、自分があまりにも何も知らない事に気が付いた。

そしてどうしても、身に染み付いた習慣という物は抜けない。

私は貴族という枠の中から、抜け出す覚悟が出来ていなかったのだ。

きっと今の私では、どこへ行ってもやっていけないだろうし、すぐに身元がバレるだろう。


「う、う〜ん‥旦那、分かりにくいですって‥」

ペドロが寝返りを打ちながら呟いた。

「すまん、考え事まで分かりにくいか?」

「‥ムニャムニャ‥‥」

「なんだ‥寝言か」

他の2人は起きる事もなく、規則正しい寝息を立てている。

この3人は傭兵訓練所の時から共同生活をしてきたと言う。

この程度の寝言には動じないのだろう。

それに比べてジョアンには、これが初めての共同生活だ。


何でも出来る様に努力してきたつもりだった。

しかしそれはとんだ自惚れで、一歩枠を踏み出しただけで、何も出来ない自分が浮き彫りになる。

エレナという元王族の女性は庶民として生き、傭兵訓練所にまで入ったのだったな。

元とはいえ、王族が庶民として生きるのは、どれほどの勇気がいったのだろう?

ましてや女性の身で屈強な男達に混じり、傭兵訓練所での生活をこなしてみせるとはな‥

全く頭が下がる。

そんな生き方を選択出来る女性とは、一体どういう人物なのだろうか?


ジョアンはエレナという女性に興味が湧いて来た。

そして少なからず今後の自分の生き方に、何かしらの影響を与えてくれるのではないかという希望も持ち始めていた。

夜も更けて焚き火が熾に変わる頃、ジョアンも毛布にくるまり、丸太に腰かけたまま浅い眠りに就いた。

読んで頂いてありがとうございます。

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