悪だくみは旅の途中で
レイリア達はミゲルの後に着いて長い回廊を歩いている。
しかしこのミゲルという男、歩きにくいドレスを着ているというのに、ちっともレイリアを気遣う事なく、サッサと自分の速度で歩いて行ってしまう。
ルイスも気に入らなかったらしく
「ミゲルとやら、レディを案内するには気遣いが足りないな。姫君を走らせたいのか?」
と、注意していた。
「これは失礼しました」
と、悪びれる事なくシレッとミゲルは言った。
殴りたい。
どうもバカにされている様で、レイリアは思わず拳を握りしめる。
でも離宮まで案内して貰わない事には、文句の一つも言えない。
後で覚えていなさい!
レイリアはそう心に誓った。
回廊を抜け、幾つかある宮殿の出入口の一つに出ると、ここでルイスと別れる事になる。
ミゲルがアマリアが乗ったままの馬車を手配して来るという事になり、ルイスと二人で待つ事にした。
「レイリア、さっきは良くやったな」
「ルイスだって十項目を読み上げる所なんか、上手だったわ」
「それにしてもさっきの殿下の顔ったら!当分思い出し笑い出来るよ」
「私も見たかったわ。このベールのせいで、殿下が金髪だったって所しか見れなかったもの。残念だわ」
「まあ、取り敢えず僕等の目的は達成された訳だ」
「そうね。殿下に一矢報いてやったわ!」
ルイスとレイリアはハイタッチをした。
この二人は普段言い争いばかりしているが、悪だくみになると妙に気が合う。
ここまでの道中、どうやったら王太子をギャフンと言わせる事が出来るか、真剣に考えて実行に移したのだ。
「レイリア、僕は暫く王宮に滞在しようと思う。何かあったら僕を頼ってくれ。僕だって一応ブラガンサ辺境伯の息子だ。多少は力になれると思う」
「ありがとう。ルイスにはここまで随分世話になったわ。離宮に閉じ込められるだけだから、特に問題無いと思うけど。もし、どうしようもない事態が起きたら、連絡するわ」
「そうしてくれ。あ、あと、それからレイリア‥」
「お待たせしました!直ちに出発しましょう!!」
ルイスが何かを言おうとしたら、ミゲルがそこに割って入った。
ミゲルは御者席に座り、アマリアごと馬車を運んで来た。
「さあ姫君、早く乗って下さい」
どうやら移動手段はこの馬車以外無いようだ。
「離宮にはどの位かかるのかしら?」
「片道およそ10キロですから、まあ20分程度で着きますよ」
レイリアはホッとした。
その程度なら大丈夫だ。
馬車に乗り込もうとした所で、ルイスを振り返る。
「ルイス、さっき何かを言おうとしたけど何?」
「‥‥いや、いいんだ。急ぎの話じゃない。いいかい、何かあったら僕を頼れ!」
「はいはい、ルイスも心配性ね。それじゃ元気で!」
レイリアは馬車の中からルイスに手を振った。
一人取り残されたルイスは、レイリア達の乗った馬車が見えなくなるまで見送って、どことなく寂しげな顔をして王宮の中へ戻って行った。
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