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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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一悶着

国王の前にはドミニクとジョアン、そしてエンリケが立っていた。

入った瞬間から感じる重苦しい空気に、流石のレイリアも怯んでしまう。

ジョアンは俯き、エンリケはジョアンを見つめ、国王は溜息を吐いている。

そしてドミニクは、黙って傍観者を決め込んでいた。


「父上、只今戻りました。‥ジョアン、ただいま!我儘を言ってすまなかった。心配をかけてしまったね」

俯き目を伏せていたジョアンは、エディの言葉に顔を上げ、ツカツカとエディの前へ進み出た。

「兄上‥よくぞ無事に‥‥体は?どこか怪我などしていないだろうな?兄上の事だから、無理をしているのではないか?」

ジョアンが心配そうな顔でエディの肩や背中をペタペタと触って確認し始めると、エディはそっとジョアンを抱きしめた。

「どこもなんともないよ。こうやってお前を抱きしめる事が出来る。こんな事をするのも久しぶりだね。やっとお前の前に堂々と立てるよ」

「ああ、兄上‥やっと、やっと兄上と呼ぶ事が出来る!どれだけそう呼びたかったか‥」

ジョアンの言葉にエンリケは、鼻の付け根を摘んで目元に光る物をやり過ごした。


「‥あのー‥‥私も戻りましたが?」

「ハッ!そうだ!レ‥姫君!よくぞ無事で!貴女も怪我はないか?この様な事になって、本当に申し訳ない。全て私の不手際だ。陛下、先程から言っている様に、この失態の責任は私にあります。ですから私は責任を取って、今の地位と役職から退く事を宣言します!」

ジョアンはエディから離れると、強い瞳でキッ!と、睨みつける様に国王を見つめ、きっぱりと言い切った。

国王は溜息を漏らし、左右に首を振っている。

またもや重い空気が漂い始め、酷く居心地が悪い思いをしつつも、レイリアは言わずにはいられなかった。


「ジョアン‥殿下、いいえジョアン、私は協力しないと言った筈よね?つまりそれは私を利用していいと、許可した訳では無いという事だわ。今貴方が発言した事は、私の許可なく私を利用したのと同じよ。流石にこれは、見過ごせないわね」

「い、いや、すまない!また私は‥‥焦った様だ‥」

「ジョアン、もう私‥いや、私達には分かっているんだ。お前がリアを利用して、何をやろうとしていたのかを。お前は私の為に全てを捨てようとしているのだろう?」

ジョアンは顔色を変え、レイリアの方を向いて言った。

「‥‥レイリア、君が話したのか?」

「ええ。私にはその事を黙っているべきでは無いと思えたから。貴方も陛下も、腹を割って話すべきよ。他国の人間である私だけが、知っているのはおかしいわ。私に対して悪いという気持ちがあるのならば、私の言う事を聞いてくれるわよね?」

レイリアの言葉に、ジョアンはまた俯いて黙り込んだ。


「リアにはいつも驚かされるよ。そして私もジョアンも君には敵わない。尤も、そんな君だから私達二人は惹かれたのだと思うけどね」

「あ、兄上、何を言い出すのだ!」

「ジョアン、今お前の責任を追及している場合では無いのだよ。お前にはやって貰いたい事がある。私の存在を知ったマンソンの、先手を打つ必要があるからね。今は直ちにドミニク殿とリアをポンバル邸へ送って、マンソンを迎え撃つ準備をしなければならないのだから」

驚いた顔をしたジョアンとエンリケが、二人同時に国王を見ると、国王は頷いて口を開いた。


「エドゥアルドには暫く王太子の役を演じて貰う。その間にジョアン、お前はミドラス領となっている旧イスペルへ潜入し、元王族の血を引くエレナという娘を連れて来るのだ」

「ミドラスですと!恐れながら陛下、それはかなり危険です」

慌てて口を挟むエンリケに、国王は尚も話を続ける。

「危険なのは承知の上だ。これはオセアノにとって重要な事なのだ。だからジョアン以外に任せられない。そしてジョアンならばやり遂げられると信じている」

「‥理由を教えて頂けますか?何故私でないといけないのです?」

「ミドラスは今、王位継承問題で内戦に発展しそうな状態である事はエンリケ、お前なら把握しておるであろう?」

「はい。発端は第四皇子で、イスペル刺繍の利益を独占し、その資金を元手に他の兄弟達を追い落とそうとしていると聞いております。もしやイスペル側は、陛下に直接交渉したのですか?エレナと言えばイスペル解放運動の象徴で、第四皇子が目を付けていると記憶しておりますが‥」

「その通りだ。やはりお前は察しがいい。だてに察しがいい人選手権で優勝していないのう」

「お褒めに預かり恐縮です」

「まあ、ミドラスが内戦に発展しようが、我が国にはどうでもいい事だ。むしろそうなってくれた方が、我が国にとっては都合がいい。しかし現状では第四皇子以外の皇子達が出遅れておる。こうなると次の皇帝は、第四皇子の線が濃厚だ。だが第四皇子が皇帝の座に収まるのは、我が国にとって非常にマズイ。あやつの野望はミドラスだけに留まらず、このオセアノにも向いておるからの」

「オセアノに戦を仕掛けて来る‥という事ですか。つまり陛下は、そうなる前に第四皇子以外の皇子達に手を貸す形を取りたいと、だから私にイスペルの独占を阻止せよと、そう仰るのですか?」

「‥そういう事だ。第四皇子が手出し出来ない様、イスペルにはオセアノが干渉している事を示す必要があるのだよ。それには王子であるジョアン、お前が行くのが最も相応しい。それに、エドゥアルドの存在が公になった以上、マンソンがお前を推して来る事は目に見えている。だからマンソンを排除するまで、お前には一時的に身を隠して貰わねばならぬのだ」

「‥私がいては都合が悪いのですね。分かりました、イスペルへ行きましょう。ですが戻ったら、私の望みを叶えて下さい。これが条件です」

「それは‥‥」

挑む様に国王を見つめるジョアンに、国王も目線を外さず、お互いに睨み合いをしている様に見える。

すると、ずっと黙って傍観していたドミニクが口を開いた。


「陛下もジョアン殿下も、レイリアが言う様に腹を割って話すべきでしょう。お互いにこじらせ過ぎですから。ただジョアン殿下、今は時間が無いと兄君も仰っています。その話は無事に戻ってからにしてはどうですか?ジョアン殿下が兄君の計画を狂わせては、全てが台無しになってしまう」

ジョアンはハッとして、エディの方を向いた。

エディはジョアンに近付き、その手を取ると右手の甲にキスをした。

「ドミニク殿の言う通り、今は時間との勝負なのだよ。すまないがジョアン、直ちに準備をして発ってくれないか?今マンソンをお前に接触させる訳にはいかないのだ。私が必ずお前の憂いを取り除くから、お前はオセアノの為に動いておくれ。誰よりも信頼しているよジョアン。お前ならやり遂げてくれると信じている」

「‥兄上にそう言われたら、私は従わざるを得ない‥‥。でも兄上、決して一人で無理をしてくれるな!また兄上に去られるのだけはゴメンだ」

「その事なのだが、エンリケを借りても良いかい?お前にはイスペル出身の者を三人、共に着けようと思っている。この者達は私に忠誠を誓った者で、ミドラスでは傭兵をしていた経験がある。お前がミドラスで動く為に、役立ってくれるだろう」

「やはり兄上には敵わないな。この短時間でそこまで用意出来るのだから。ではエンリケを置いて行くよ。準備をして来るから、その者達を北門の前に集結させておいてくれ。目立たない方がいいのだろう?」

「ありがとうジョアン。くれぐれも気を付けておくれ」

「兄上も無理をしないで、エンリケをこき使ってくれ。そうだ兄上!一つだけ兄上の嫌がる事をしていくが、許してくれるな?」

「嫌がる事?それは一体‥」

エディが聞き終わる前に、ジョアンはレイリアの前に立つと、レイリアをギュッと抱きしめた。

そして耳元で何かを囁くと、パッと離れて何事もなかったかの様な涼しい顔で執務室を出て行く。

残された一同は呆気に取られ、全員言葉を失くしていた。

その中でレイリアは一人、たった今ジョアンの囁いた言葉の意味を考えている。


「この先何があろうとも、貴女だけは兄上を信じて支えてやって欲しい。兄上を頼む」


この言葉にどんな意味があるのか、この時のレイリアにはまだ分からなかった

読んで頂いてありがとうございます。

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