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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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依頼

マンソン本家の庭園をぐるりと囲む長い塀を進むと、豪勢な作りの正門とは対照的な黒い金属製の小さな門がある。

この門を普段利用するのは荷物の搬入業者や使用人達なのだが、マンソンが影として雇った者達もこの門を使う事になっていた。

マンソンは大臣達や王宮、有力貴族の家に影を潜ませ、あらゆる情報を集めている。

そしてたまにリカルド達の様な刺客を雇っては、密かに始末して来たのだ。

リカルドとルイは当然この門から中へ入った。

目立たない場所に用意された専用の厩舎に馬を繋ぐと、もう一頭先客の物らしき馬が目に入る。

「成る程、我々の新しい主人はこの事を言っていたのか。ルイ、侯爵は既に主人の情報を手に入れたぞ。俺達は悟られない様用心しなければならない」

「ああ、オメェに話を合わせる。俺は黙っていた方がいいだろう?」

リカルドは頷いて、考えを巡らせながら中へ入った。


「な、何だと!?もう一度言ってみろ!そんなバカな話信じられるものか!!」

王宮に潜ませていた影からの報告に、マンソン侯爵は思わず声を荒げた。

「ですが侯爵様、確かに陛下が仰ったのです。埋葬された第一王子の遺体は別人の物で、本物は記憶を無くして行方不明になっていたと。しかも第一王子を助けたのはバルコスの姫君で、姫君の知人に預けられていた第一王子を、ドミニク殿下がお連れしたとも。陛下は今回の視察の帰りに第一王子と再会し、その存在をお認めになられました。これは王位継承に関わる重大な問題です!」

「それは本当に第一王子なのか?ポンバル辺りのでっち上げではないのか?」

「いいえ、ポンバル家はこの事に関わってはおりません。先程陛下が戻られるまで、この事は誰も知らなかった模様です。ただ、ジョアン殿下は先触れから連絡を受けていたらしく、非常に冷静に行動されておりましたが」

「くそっ!!忌々しい!ポンバルなどに大きなチャンスが転がり込むとは!もういい!お前は引き続き王宮を探れ!」

「分かりました。ですがもう一つ、これは極秘情報ですが、昨日の夕暮れ時に王宮からバルコスの姫君が誘拐されました」

「なんだと!それを早く言え!そっちはどんな状況だ?」

「ジョアン殿下が指示した第1小隊と、ドミニク殿下が救出に向かい、犯人の捕縛と姫君救出に成功したとの事です。途中でたまたま近くを走っていた陛下と合流した様ですが、その時にドミニク殿下が連れていたのが第一王子で、つまり姫君の誘拐がきっかけで、第一王子の存在が明るみに出たのです」

「どちらもバルコスの姫君が絡んでおると?それで、姫君の誘拐犯は、どこの誰からの指示で動いたのだ?」

「おそらく‥ミドラス皇帝ではないかと」

「‥やはりな。他国に刺客を送り込む程に、バルコスの金は魅力的だという事か。これは是が非でも手に入れたくなったわい。まてよ、おい!第一王子はよもや姫君と通じておらんだろうな?」

「通じてとはどの様にですか?」

「男と女だ、年回りもちょうどいい。つまり、そういう事だ」

「それは‥分かりません。まだ第一王子は戻られておりませんので。ですが確か、姫君やブラガンサ殿と一緒に戻られると聞きましたが」

「ならばさっさと戻って確認して来い!いいか?第一王子にバルコスの金が渡るなど、絶対にあってはならない事だ!そんな事になったら私の計画は台無しだ。なんとしても阻止せねばならない」

「分かりました。それでは新しい情報が入り次第、ご報告に上がります」

「ああ、早く行け!」

影は無言で頭を下げると、マンソンの執務室から出て行った。


廊下で影とすれ違ったリカルド達は、軽く会釈だけを返して顔をしっかり記憶に刻んだ。

そして何食わぬ顔で執務室の扉を叩くと、マンソンの返事を聞いて中へ入った。

「お久しぶりです侯爵様。やっと依頼をこなす事が出来ましたよ」

「お前達か‥。中々報告に来んから、まだ見つからないのかと思って、別の手を考える所だったぞ!で、依頼をこなすとは成功したという事だろうな?」

「もちろんです。一応証拠として奴が身に付けていた、シャツとペンダントを持って来ましたので、どうぞご確認下さい」

リカルドはそう言って腰に下げた袋から、例のシャツとペンダントを取り出して、マンソンの机の上に並べた。

マンソンはシャツの襟の辺りを見つめると満足そうに頷き、ペンダントを手に取って裏側をじっくりと眺めた。


「うむ。このペンダントは間違いなくミゲルの物だな。分家の紋章にあやつのイニシャル入りのこれを、奴はよく自慢しておったわ。で、遺体はどうした?しっかり始末したのだろうな?」

「はい。用意して貰った馬車で運んで、斬り殺した後遺体を埋めました。昨夜は王宮で騒ぎがあった様で、比較的警備も手薄でやり易かったんですよ。あんな奴眠らせるのは簡単ですから」

「騒ぎ‥な。まあ良い。約束通り報酬を支払おう。これを持ってどこへなりと消えるが良い」

マンソンは金貨の入った袋を二つ机の上に乗せると、リカルド達に背を向けた。

ルイはそれを素早く回収し、さっさと執務室から出て行こうとした。

リカルドもそれに続こうと歩き出したが、マンソンが急に向き直ったので仕方なく足を止めた。


「待てお前達!その倍の報酬を払うから、もう一つ依頼を受けないか?」

「‥もう一つ?内容にもよりますが。今度は一体誰を?」

「突然現れた第一王子だ」

マンソンの口から出た言葉に、リカルドは片眉だけを上げて動揺を隠し、フッと軽く溜息を吐いた。

「侯爵様、それは無理だ。王子などに俺達が近付ける筈がない。もし万が一成功したとしても、逃げ切れる訳がない。俺達だって命は惜しい」

「フッフッフ‥警備が手薄な深夜なら分からんぞ。その辺りの手配は任せておけ。それに、地下通路を使えばいいだろう?まあ、お前達が断るなら、他を当たるが」

リカルドはルイと目配せをして、ゆっくり口を開いた。

「少し考えさせて下さい。明後日までには返事をしますので、他に依頼するのはそれからにして貰えますか?」

「まあ、いいだろう。良い返事を期待しているぞ」

マンソンはまた背中を向けると、ヒラヒラと手を振り退席を促した。

リカルド達も今度は執務室から出て、真っ直ぐ厩舎へ向かい、黒い金属製の門からマンソン邸を後にした。


「リカルド、どう返事をするつもりだ?」

「多分主人は依頼を受けろと言うだろうよ。俺達が急かされたのは、他に依頼が行くのを防ぐ為だったんだ。時間との勝負とはそういう意味だ。主人は先を見越して俺達を送った。あの人は恐ろしく頭が切れるな‥」

「違いネェ。俺はあの人の言う事に従うだけだからよ、細かい事は分からネェけど、今迄やってきたどんな依頼より、やり甲斐ってのを感じるゼェ!」

「フフ‥そうだな。実は俺もそう思っていた。それじゃあ急いで主人の元へ戻るとするか!行くぞ!」

「おう!」

リカルドとルイは馬の腹を蹴って、裏路地へ消えて行った。

読んで頂いてありがとうございます。

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