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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
111/175

策士

エディが第1小隊隊長に何やら指示を出すと、隊長は数人の部下と共にリカルド達を連れて来た。

彼達は抵抗する様子も無く、無言でそれに従っている。

彼等の腕を持ってすれば逃げ出すのは可能な筈だが、計画が失敗に終わり、尚且つミドラスへ戻れば死という運命しか待っていない彼等に、今そんな気は起こらない様だ。


「君達のリーダーは誰かな?」

エディが尋ねるとリカルドが顔を上げて口を開いた。

「俺がこいつらに話を持ちかけた。あんたはこの中で一番偉い人か?だったらあんたに交渉を申し込みたい。聞いて貰えるか?」

「交渉?そんな事が言える立場ではない事は、君達が一番良く分かっているのではないかな?でもまあ、聞くだけは聞いてみよう」

「感謝する。俺はミドラスで密偵としての功績を評価され、傭兵100人隊の隊長をしていた。だからこいつらよりは、ミドラスの内部情報に詳しいし、首の価値も高い筈だ。そこでだ、俺の持っている情報と俺の命を引き換えに、こいつらの今後の生活を保証して欲しい」

リカルドの言葉にルイは焦って叫び出す。

「リカルド!オメェ、何くだらねぇ事言ってやがんだ!!」

リカルドはルイ達の方を向くと、ギロリと睨んで黙らせた。

「詳しい‥ね。それは内容にもよる。それに君の命と言ったね。果たして彼等には、君が命を捧げる程の価値はあるのか?」

「価値があるかどうかは俺が決める。どうだ?俺の持っている情報は、それなりに価値のある物だと思うぞ?まあ、生活の保証までとは虫のいい話かもしれないが。あんたらだってミドラスの内部情報は知りたいだろう?」

エディは考え込む様な仕草をしてから、ルイスに意見を求めた。


「ルイス殿、君はどう思う?」

「そうですね‥僕はこいつらを全員生かしておくべきではないと思います!持っている情報がどれ程の価値があったとしても、こいつらのやった事は許される事ではありませんので」

珍しく残酷な言葉を口にするルイスに、レイリアは驚き、まじまじと顔を見つめた。


ん?

悪だくみの顔のままだわ!

て、事はこれって‥

わざと!?


エディはレイリアの肩に手を乗せると、軽くウインクをした。


あ、やっぱりわざとなのね。

ルイスは本当、こういう事に鼻が利くわ。

察しがいいというか。

察しがいい人選手権でもあれば、優勝出来るレベルだわね。


「リアはどう思う?私は君という大切な人を攫った彼等を、許す事は出来ないが」

「わ、私!?え?えーっと、私は‥‥そうだ!まだ謝って貰ってなかったわ!私は謝って貰えば、何も命まで奪う必要は無いんじゃないかと‥」

レイリアがそう言うと、エディはレイリアの頭を撫でて微笑んだ。

「君は本当に優しいね。私はルイス殿の意見に賛成だが、当の本人の君がそう言うんじゃね。さて、どうしようか?」

エディは思わせぶりな口調で、チラリとリカルド達を見る。

すると黙っていたルイが口を開いた。


「リカルド一人じゃネェ、俺の命もあんたらにやる!だから残りの奴等は助けてやってくれ!こいつらには家族がいるんだ!」

「ルイ、お前は黙ってろ!犠牲になるのは俺だけでいい。確かに俺達は命乞いが出来る立場ではない。だが俺の申し出を聞いてくれたら、こいつらはあんたに忠誠を誓うだろう。あんたの手足となって、どんな汚い仕事だってする!だから頼む、こいつらは助けてやってくれ!」

リカルドは真剣な眼差しでエディを見つめる。

それを見たエディは、にっこりと笑ってリカルドの前へ進んだ。

「私に忠誠を誓うという言葉は、嘘偽りないんだね?どんな仕事でも私に従うと言う言葉も」

「ああ、俺はこいつらさえ助かれば良い。こいつらも俺の最後の命令なら逆らわない筈だ」

「君達は思っていた以上に、仲間意識が高い様だね。前に聞いた事がある。ミドラスの傭兵は仲間割れを防ぐ為、出身地が同じ者や親族で成り立っているとね。彼等は君の親族なのかい?」

「親族みたいな物だ。俺達は元イスペルの同じ村出身だったからな。ミドラスに攻められた時、俺達の村は一番初めに焼かれて、皆戦争孤児になったんだ。だから俺達は生きていく為に傭兵の道を選んだ。それが一番金になったし、他に方法がなかったからだ」

「ルイといったな。君の方言はどこかで聞いた事があると思ったが、イスペルの物ではないね。おそらく‥ヘラングの東北地方ではないかい?」

「‥よく分かったな。俺の家族は食う為にイスペルの、こいつらと同じ村へ移住した。お袋は刺繍が得意だったから、工房に働き口を見付けたんでェ。んでも皆無駄になっちまったけどな。俺みてェな奴ぁ腐るほどミドラスにはいるぜ」

「成る程ね。うん、君達には十分使い道がある様だ。よし、君達全員私に忠誠を誓い、私の命令に従って貰おうか」

「ぜ、全員だって!?俺は‥?」

「リカルド、君にはリーダーとして働いて貰わなければならない。ただ、まだ完全に君達を信用した訳ではないので、最初は君とルイの二人に仕事を依頼しよう。残りの三人は人質だ」

「仕事だって‥いや、ですか?」

「そう。君達はマンソンの依頼を受けて、ミゲルを殺害しようとしたのだろう?だから、その依頼を遂行して貰う。ああ、もちろんそれに見合う対価は払うつもりだ。君達はオセアノに雇われる事になるのだからね」

「雇われる!?どういう事‥ですか?」

「言葉の通りだよ。君達が私に忠誠を誓うと言うなら、それは私の部下になるという事だ。私は部下をタダ働きさせるつもりは無いからね。そのかわり、今後はオセアノの為に働いて貰う事になるのだが、君達に異論は無いだろう?」

「‥ありません!でも、何故そんな破格の待遇で俺達を迎えて下さるのですか?」

「一言で言えば、君達に利用価値があるからかな。そして今は時間との勝負だ。君達二人はこのままマンソンの元へ戻り、ミゲルを殺害したと報告してくれ。証拠の品を持ってね」

「証拠の品ですか?」

「うん。これから用意するからそれを渡してくれ。残りの三人は誘拐犯として護送する。鼻の利くマンソンに、君達二人が関わっていた事がバレない様にだ。もちろん三人の身の安全は保証しよう」

「分かりました。おい、お前達跪け!」

リカルドの合図にルイ他三名は、両腕を交差させた姿勢でエディの前に両膝を着いた。

見た事の無いポーズに、レイリアはキョトンとしながらルイスに尋ねる。


「ねぇルイス、あれは何のポーズなの?」

「ミドラス式の忠誠の礼だよ。両腕は武器を身に付けていない事を表すし、両膝は貴方より下ですという意味さ。でもさ、レイリア知らなかったの?だとしたらそれはマズイなぁ。ねえイネス嬢、常識だよね?」

「いえ、そんな事は無いと思いますが、知っておくべきではないかと思います。やはり、レイリア様はエドゥアルド殿下のお相手なのですから」

「うっ!お行儀とか礼とかは苦手分野だわ。はい、努力します‥」

「私もお力になれる様頑張りますので、落ち込まないで下さいね」

「ううっ‥イネス!貴女は本当にいい子だわ!意地悪な従兄妹と違って」

「何だよレイリア、わざわざ助けに来た従兄妹に何か文句があるのか?」

「‥ございません。ハイ、ありがとうございます」

「でもイネス嬢の言う事は正しいよ。君はエドゥアルド殿下のお相手なんだからさ、知らなかったじゃ済まされない事だってあるんだからね!それにしても、エドゥアルド殿下には驚いたよ。人心掌握術に長けているというか、とんでもない策士というか。僕はすっかり尊敬したね!」

ルイスは瞳を輝かせながら、エディを見つめている。

エディは第1小隊隊長にリカルド達の準備を指示すると、レイリア達の元へ戻って来た。


「さてと、ミゲルやシモンの元へ戻ろう。ルイス殿、手筈通り頼むよ」

「任せて下さい!一太刀で息の根を止めた様に見せかけますよ!」

「ハハハ‥頼もしいね。さすがリアの従兄妹だ。では急ごう。時間との勝負だからね」

「「「はい!」」」

そうして四人は小走りで食堂のある棟へ向かった。

読んで頂いてありがとうございます。

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