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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
106/175

妖精の国

途中で一旦休憩を挟む為、一行はフィーゴ農園に止まった。

農園では軽食を摂り、少し遅れてやって来るルイス達を待っている。

レイリアは休憩の間に妖精を呼んで、大公にメッセージを頼む事にした。

あまり長い文章は送れないので、金鉱脈が消失して危険が去った事と、自分達がもう暫くオセアノへ滞在する事だけを伝える。

妖精は元気良くレイリアの周りを飛ぶと、パッと消えて見えなくなった。


バルコスでは大公が相変わらず落ち着き無く、執務室を行ったり来たりしている。

連絡を待つしかないという事は分かっているが、心配で座っていられないのだ。


妻が命懸けで守った最愛の娘。

逃がした先で命を落としたとなったら、悔やんでも悔やみきれない。

頼むブランカ、レイリアを守ってくれ!


大公は心の中でそう祈っていた。

暫くそうしていると突然ドンドンと執務室の扉を激しく叩く音が聞こえ、返事をする前に侍従が飛び込んで来た。

「た、大変です大公様!!」

「今度は何だ?」

「戻って来たのです!」

「何がだ?分かる様に話してみろ」

「妖精が、妖精達が皆戻って来たのです!」

「何と!消えたと思ったらまた戻ったと?一体何が起こっているんだ?」

「分かりません!とにかく妖精達は戻って来たと、見える者達が言っています。バルコスは元通り妖精の国に戻りました!」

「妖精の国か。こんな状況でなかったら、そのタイトルは観光ツアーに付ける所だが」

「妖精の国観光ツアーですか。いいですね!国交のある近隣諸国へ宣伝しましょう!」

「いや、今はそんな事を言っている場合ではない。戻って来たとはどんな状況だ?」

「消えた時とは逆に、沢山光が降りて来たと言っていました。そして何事もなかったかの様に、それぞれの好む場所へ戻って行ったと。ともかくこれで一件落着ですね。金鉱脈は惜しかったですが元々無かった物ですし、過ぎた富は人の心を惑わせます」

「お前は中々上手い事を言う。いや、バルコスの民なら皆そう考えるか。まあいい、私は少し出掛けて来るぞ」

「へ?どちらへ行かれるのですか?」

「月の女神神殿だ。こういう時は神頼みしかない」

「はぁ、それでは共の者を呼びます」

「いや、1人で行く。ああそうだ、ミドラスとの国境に集まっている兵に伝えよ。金鉱脈は消失したとな。この国にはもう何もないと。観光ツアーなら歓迎しますとでも伝えておけ」

「分かりました、お気を付けて」

「うむ」


大公は執務室を後にして、神殿へ向かった。

日頃の運動不足のせいか、何度も馬に跨るとあちこちが痛んで来る。


そういえばすっかり腹も出て、年寄り臭くなったもんだ。

レイリアにはたまにオヤジ臭いと言われていたっけ。

ブランカがいたら叱られていた所だな。

まあ、叱られるのは仕方ないが、ブランカに祈るしか思い付かないのだから困ったものだ。

気休めでもウロウロしてるよりはいいだろう。


そんな事を考えながら神殿に着くと、大公は祭壇の前へ進み跪いた。

『エルネスト』

誰かが大公の名を呼ぶ声が聞こえる。

驚いた大公は辺りをキョロキョロと見回した。

神殿には当然自分以外の人影は無く、シーンと静まり返っている。


「空耳か。私の名を呼べるのは、この国で1人しかいないというのに。もうこの世にはいない君だけだブランカ。今日は君の事を考え過ぎて、空耳まで聞こえてくる始末だ。重症だな私は」

そう呟いた大公が再び祭壇に向くと、目の前に金色の文字が浮かび上がってきた。

「これは‥レイリアか!レイリアは生きているのか!?」

大公は慌ててレイリアからのメッセージを読むと、フーッと大きな溜息を吐いた。


「全く、驚かせてくれるなレイリアは。ともかく無事であるならそれでいい。この様な事が出来るというなら、祝福はまだレイリアの物なのだな。詳しい事は追って聞くしかなかろう」

人差し指で金色の文字をチョンと突くと、文字は光の粒に変わりキラキラと散って行く。

いつもなら日の差し込んだ窓に舞う、埃の様に消えて行くのだが、この時は違っていた。

光の粒は祭壇の前に集まり、何かを形成し始める。

不思議な光景に目を奪われ、大公は身じろぎせずにそれを見守った。

『エルネスト』

僅かに光輝きながら、出来上がったそれは言葉を発した。

「‥‥そんな‥まさか‥!こんな事が‥!!」

『エルネスト。やっと来てくれたのね』

目をパチパチと瞬きをしてもう一度見たが、大公の目に映ったのは半分透けて輝く亡き妻の姿だった。

読んで頂いてありがとうございます。

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