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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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望みの形は人それぞれ

レイリアから話を聞いた三人は、暫く黙り込んでいた。

エドゥアルドは頭を抱え込み、国王は長い溜息を吐いている。

そしてドミニクはそんな二人を見て、少し考え込んでから口を開いた。

「ジョアン殿下の言う想い人とは、エドゥアルド殿、貴方の事だったのですね。しかし‥‥失脚とはね。予想外だったな」

「失脚‥‥か。以前ドミニク殿が言っていた事と照らし合わせると、やはりそういう事をしようとしていたのだろうね。それも全て私の為にだ‥」

「エディ‥‥」

「リア、話してくれてありがとう。兄として不甲斐ないよ。弟にそこまでの覚悟を‥させてしまったのだからね」

「いや、全ては父である私が招いた事だ。私はジョアンに責任ばかり押し付けて、父として接して来なかった。私がジョアンを追い詰めたのだ。そして本当なら一番初めに言わねばならなかった。レイリア、ドミニク殿、バルコスの事情を知っていながら、その弱味に付け込む様な事態を引き起こしてしまって本当にすまない!心から謝罪する。お詫びと言ってはなんだが、何か望む物を与えたいと思うのだが?」

「いえ、私はもうジョアン‥殿下には謝ってもらいましたし、理由を聞いて協力は出来ない事を伝えました。ですから、もういいのです」

「それでは私の気が済まない。何か望みはないだろうか?」

「望み‥?う〜ん‥‥」

「陛下、僕には一つ望みがあります」

「ああドミニク殿、言ってくれ。どんな望みだ?」

「イザベラ嬢をバルコスに連れて行く許可を下さい」

「「ええっ!!」」

「なんと!それは‥妻に欲しいという事か?」

「いいえ、本人の意思を無視してそれは出来ません。金鉱脈が失くなった以上、僕はレイリアとバルコスへ戻るべきだと思います。ですがせっかくレイリアが途中まで受けたレディ教育を、無駄にしたくはないのです。その点でイザベラ嬢ならお手本として打って付けです。講師として彼女にはバルコスへ来て欲しいのです」

「私に頼まずともドミニク殿が頼めば、イザベラも二つ返事で頷くだろうに?」

「いえ、僕はあまり彼女に好かれてはいませんから‥‥。それにバルコスは田舎でのんびりした所です。オセアノの様な大きな街もありませんし。王都で育った彼女には、きっと行きたいと思える場所ではないと思うので」


レイリアがエディに目配せをすると、エディは頷きドミニクに言った。

「本人の意思を無視してと言う事は、ドミニク殿はイザベラを妻に望んでいるという事だろうか?」

「今は‥まだ何とも言えないな。こんな感情は初めてで、自分でもよく分からない。ただ、このままの状態で、オセアノを離れるには偲びないと思ってね。まあ、イザベラ嬢にはいい迷惑だろうが」

「ドミニク殿、私はそんな事はないと思うよ。イザベラが君を嫌う筈はないし、きちんと本人と話してみたらどうだろう?」

レイリアもうんうんと頷き、目をキラキラさせている。


「いや、それはダメだ。僕が何かをしようとすると"お気遣いなく"と言われてしまう。だから僕やバルコスの事を知って貰って、少しでも打ち解けて貰えたらと思うんだ」

「フム。中々に焦れったい事よ。昔を思い出すわい。これは少々お節介を焼いてやる方がいいかもしれんな。よし、ドミニク殿の望みを叶えよう!しかしそれだけで良いのか?」

「十分です。ありがとうございます」

「あ〜あ、お兄様の望みがそれなら、私はオセアノに残りたいと言えなくなってしまったわ」

「リア、まだそんな事を!分かってくれたのではないのかい?」

「分かってるわ。でも叶うのならもう少しエディの側にいたいと思ったの。ダメだと言うのは分かっていたけど」

「ダメだ。君を危険な目に遭わせたくない!」

「どうしても?」

そう言いながらレイリアが瞳をウルウルさせると、エディは困った顔で狼狽えた。


「うっ!私がその顔に弱いと知っててやっているね?それでも私は曲げないよ。私はリアが大事だからね。危険な所に置きたくはない」

「これはまた‥なにやら車内が暑いのう。こういうのは犬も食わないと言う奴だ。エドゥアルド、そう頭ごなしに決め付けず、もっと良い方法を考えたらどうだ?」

「でも父上、他に方法は‥‥‥あったな!二人の望みが叶うかもしれない方法が」

「気付いたか。そうすれば良い。二人共、バルコスには戻らずポンバル家に滞在しなさい。レイリアのレディ教育という名目でな。我々もドミニク殿の知恵は欲しい。まあ、持ちつ持たれつだ。こうなると望みを叶えるという事にはならぬから、後日改めてお詫びの品を用意しよう。どうかな?」

「それならば僕には異論ありません」

「陛下、ありがとうございます!エディ、怒ってる?」

「そんな風に無邪気に喜ばれたら、私は何も言えないね。私は君に敵わないのだから」


「それでは皆それぞれに、目の前の問題を早く片付けるとしよう。二人の縁談を進めねばならないからな」

「え、縁談!!」

「そう。君とエドゥアルドの縁談だ。私は以前から娘が欲しくてな。大公の娘なら尚更だ。あの二人の娘なら、ジョアンも笑う様になってくれるのではないかと思ったのだよ。だが、私の独りよがりな考えは、ジョアンの闇を深めただけだった。人に頼るのではなく、自分から歩み寄らねばならないと気付かされたな。これからは父として認めて貰える様、努力せねばなるまいよ」

「違います父上、ジョアンが認めるのではなく、父上が認めるのです。ジョアンはずっと父上に認めて欲しかったのです。褒められる事も頭を撫でて貰う事も無く、いつしかジョアンは人前で笑顔を見せなくなりました。それでもジョアンは努力して来ました。私はそんなジョアンを誇りに思います。だから父上の後を継ぐべきなのは、ジョアンなのです」

「お前が言う通りだな。ではあの件はやはりジョアンに任せよう。暫くジョアンを旅に出すぞ。片付けて貰う問題が出来たからな。それを見事に解決したら、ジョアンの評判も回復するだろう。実はその問題の為に、私は国境付近のルートを通ってここに来たのだよ」

「問題ですか?」

「そうだ。かつてイスペルと呼ばれ、今ではミドラスの自治州となった所の問題だ。どうもミドラスでは最近、皇位継承問題が起きている様だぞ。現皇帝には多くの側室がいて、十人もの子供がいる。その中の一人第四皇子は、非道で残虐な性格だという。この第四皇子がイスペルの重要な産業である、イスペル刺繍の利益に目を付けたのだ。これは他の皇子達を排除する為に、傭兵を集める資金として流用するつもりらしいな。つまり第四皇子は内乱を起こそうという訳だ」


「イスペル刺繍といえば、ドレス1着で城が建つと言われる程高価な代物です。それを内乱ですか!?」

「うむ。だが他の皇子達もそれは見逃す筈がない。イスペル刺繍の利益独占を皇帝に訴えた。ところが第四皇子はイスペルの元王族、エレナを妻に迎えると言い出したのだ。そうする事でイスペルを手中に収める大義名分は立つのだとな。そこで困ったイスペルの民達は、私にエレナの保護を頼みに来たのだ。エレナは密かにレジスタンスとして活動しており、イスペル解放運動の指導者でもあるからの。非常に民に人気があるのだ」

「父上はその元王女を保護する役目を、ジョアンにさせるつもりなのですか?」

「そうだ。少々危険ではあるが、成功すればジョアンにとってもオセアノにとってもいい方向へ転ぶ。第四皇子が大義名分を手に入れる事が出来なければ、危険分子として他の皇子達から真っ先に淘汰されるであろう。既に第一皇子が兵を集めているそうだ。自らも兄弟を殺して皇位に就いた皇帝は、それを止める事はしない。ミドラスとは、そういう国だ」


『ミドラスは自らが犯した罪を、同族同士で贖う運命となるのだから』

国王の話を聞きながら、レイリアはこの妖精王の言葉を頭に浮かべていた。

読んで頂いてありがとうございます。

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