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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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早起きはベリーがお得

ちょっとズレた野生味溢れる姫君を楽しんで頂けたら幸いです。

朝日が昇り日が差すと、谷間に流れる清流から濃い霧が立ち込める。

バルコス公国の初夏の風景だ。

この霧によって周囲の森は豊かな緑を保ち、この季節には数多くのベリーが収穫出来る。

早起きの羊飼いが群れを連れて谷を登って来ると、そこにはもう大きな籠をベリーでいっぱいにした先客がいた。


「おはよう姫さん!早起きだね。ベリー摘みかい?」

「おはようゴンサロさん!待ちきれなくて早起きしてしまったの。後でジャムにしてお裾分けするわね」

「姫さんのジャムは格別だからな。楽しみにしているよ」

そう言うと羊飼いはカランカランとベルを鳴らし、群れを連れて登っていった。

大国の貴族の領地程度の大きさしかない、小さな谷あいのバルコス公国では、のんびりゆっくりと時間が流れていく。


大公一家は庶民と気さくに触れ合い、姫君は畑仕事まで手伝っている。

特別目立った産業も無ければ、特に魅力的な土地でもないので、バルコス公国は他国に狙われる事もなく、慎ましくも穏やかに存続してきた。

でもこれは昨年までの話。

今年に入ってすぐ、昨年の大雪による雪崩の影響で、谷の一部が大きな崩落を起こした。

崩落した岩場を調べてみると、かなり大きな金の鉱脈が発見された。

元々砂金は良く採れていたが、鉱脈となると話は別だ。


バルコス公国の周囲はぐるりと大国オセアノに囲まれているが、一部は軍事国家ミドラス帝国と隣り合わせている。

鉱脈の存在を知ったミドラス帝国は、バルコスを取り込もうと圧力をかけてきた。

大公は長年友好関係を築いてきたオセアノを頼る他なかった。自身もオセアノに留学経験があり、オセアノ国王と友人関係である大公は、より良い解決策をオセアノ国王と思案中だ。

ミドラス帝国としてはバルコスの豊富な金を元手に、更に軍事力を強化してオセアノに攻め込むつもりなのだろう。


「姫様!何処にいらっしゃいますか?姫様!レイリア様!」

さっき「姫さん」と呼ばれていた、ベリーの籠を持った少女を、息を切らせながら呼ぶ中年の女性がやって来た。

「おはようアマリア!見て!こんなにたくさん採れたわ!」

「姫さん」ことレイリアは、嬉しそうに籠の中身を見せる。

「そんな事言ってる場合じゃないんですよ!大公様が大急ぎで探してこいと、かなり慌てておられました」

「私を?何の用事かしら?」

「さっきオセアノから早馬が来てましたから、何かそれに関係する事じゃないですかね?」

「お兄様になら分かるけど、私じゃ何の役にも立たないと思うんだけど?」

「さあ?私には分かりません。とにかく急いでお戻り下さい」

「分かったわ。アマリアはこの籠を持って後からゆっくり来て。坂道は急だから気をつけてね。私は一足先に走って行くわ」

「姫様のお転婆もたまには役に立ちますね。あんまり褒められた物じゃありませんが」

「お説教なら後で聞くわ」

そう言うとレイリアは、坂道を野生の鹿のように

しなやかに走って行った。


アマリアは溜息を吐く。

淡いプラチナブロンドが日に透けるとピンク色に輝き、光の加減で色を変える瞳を持つレイリア。

パッチリとした大きな目は長く濃い睫毛に縁取られ、スッと通った鼻筋に薄く形の良い唇は、亡き大公妃の面差しによく似ている。

まるで宝石の様に美しい姫だとアマリアは思う。

だが当の本人は、着飾るより野山を駆け回る方が好きときている。

レイリアはもう18歳。

嫁いで当たり前の年齢だ。

「もう少し大人しくなって貰わなきゃねぇ‥‥」

アマリアはもう一度溜息を吐き、戻ったらどんなお説教をしようかと考えながら坂道を下った。


読んで頂いてありがとうございます。

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