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終戦直後、経営苦難な母校の窮地を救うべく女学生が脱法的に資金繰りをする話――トレジャーハンター三世  作者: curuss


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世界中で行われたチキンレース

 お互いに不幸な遭遇戦が始まっていた。

 その距離、およそ五〇メートルほどだろうか。

 しかし、明け方で霧が立ち込めてるのを考慮しても、小銃(ライフル)兵には至近距離とすらいえた。

 なぜなら好条件であれば、裸眼でも三〇〇メートル先まで視認可能といわれている。

 そして殆どの小銃(ライフル)は有効射程が三〇〇メートルを超えるので……彼らの間合いは視界内全てといえた。

 もう五〇メートルの距離など、何発か撃てば必ず当たる。名人であれば鼻歌混じりの容易い仕事だ。

 なので、さすがに両者共に――GIとナチスの両者共に遮蔽物を確保している。

 それは僅かな地形の起伏で、へばりつく様に伏せ、やっと身体を隠せるぐらいだが……ないのと比べたら天と地の差があった!

 僅かでも相手に姿を晒せば、()()が撃たれる。近代戦は『見られたら終わり』だ。



 遭遇戦は軍曹率いる捜索チームとナチスで開始されたが、幸運にも射撃チームが合流しようとしていた。

 ……数で上回っていることだけが、GI達の優位だろうか。

 まだ致命的なダメージを受けてなくとも、そう評価せざるを得ないほど劣勢へ追い込まれていた。

「合流は諦めろ! 無理だ! その場で戦え!」

「でも、軍曹! ここからじゃ射線が通りません!」

「移動している間にハチの巣だ、馬鹿もんが! それに、この陣地へ全員を収容も不可能だろう! ――それより|ブローニングM1918《分隊支援火器》はどうした? 家に忘れてきたか!?」

「……フレッドは()られました」

 その訃報にGI達は歯を食いしばる。

 泣き喚いても彼は帰ってこない。そんな余裕もないと身体が知っている。悲しんでも良いのは、時間を贅沢に使える場合だけだ。

「誰が撃ち方休めといった! 休むな! だが、節約しろ!」

 お互いに頼りない遮蔽物な以上、撃ち続けて相手を釘付けにしなければならなかった。

 なぜなら相手へ自由裁量(フリーハンド)を渡した瞬間、自分達は寝転がっているだけの的と化す。相手にも隠れるのを強要するからこそ、戦況を膠着させれていた。

 そんな理由で休まず撃ち続けねばならなかったが……物理的制約もあった。残弾数だ。

 仮に千発の弾丸があって、一秒に一発のテンポで撃ち続けると一〇〇〇秒――約十六分ほどしか維持できない。二秒に一発と節約しても、三十分が良いところだ。

 これは旧日本軍が一発必中に拘った原因でもあり、アメリカ軍の回答――大量消費になろうと必要な分だけ用意すれば済むなのだが……いま軍曹たちの手元に満足な数はない。

 そして弾切れとなれば、もはや屠殺場の家畜も同然だ。

「くそっ! まただ! なんでか弾が当たらねぇ! 弾が避けていくみたいだ!」

「弾が避ける訳ないだろ、お前が下手糞なんだよ! ――軍曹! このままじゃジリ貧です! 迂回挟撃を仕掛けるか……撤退を!」

 しかし、それを却下するような爆音が鳴り響く。重機関銃だ。

 GI達は一様に地面へしがみつき、魂を磨り減らす恐怖に堪える。

 重機関銃は航空機の機銃にも使われるぐらいだから、その威力は携行兵器と比べものにもならない。

 多少の障害物――浅い塹壕程度なら、地面ごと抉ってくる。命中したら終わりだ。

「なんなんだよ、あの筋肉達磨! なに食ってたら重機関銃を手持ちできるようになるんだ!?」

 実際、勝負にもならないはずだった。

 無理に当てようなどと考えず、軍曹たちが隠れている起伏そのものを削り取ってしまえばいい。その方が簡単だし、重機関銃なら可能だった。

 しかし、なぜか時折に思い出したように撃ち込んでくるだけだ。

「くそっ! 奴ら……俺達を嬲り殺しにする気か!?」



 だが、ナチスもナチスで問題を抱えていた。

「レンデンシュルツ少尉、またです! また当たったはずの弾が、当たってません!」

「分かってる! 自分も確認した! ――この霧は……何らかの霊的防御兵器か? そのようなものは我ら『スメルトリウス』ですら……もしや米帝に先を!? ウンターホーズ軍曹! 奴ら、生け捕りにできると思うか?」

 問われた大男は、しばし考え込み――

「さすがに無理でしょうね。こっちより相手の方が多いんです。生け捕りなんて考えてたら、逆にやられちまいますよ。……それに俺のは手加減なんてできやしません」

 と愛し気に重機関銃を撫で、不敵に笑う。

 極限の修羅場において大男は、彼らの精神的支柱といっても過言ではなかった。

 信頼するウンターホーズ軍曹が大丈夫と言っているのなら安心だ。彼の指示に従っていれば、俺達は生きて帰れる。

 そんな信仰にも似た縋る何かが、血と泥に彩られる地獄には必要なのだろう。

 だが、その笑みは強いて作ったものであり、逆に劣勢の証明とすらいえた。

 もう残弾数が僅かとなっていたのだ。

 確かに歩兵戦闘で重機関銃は心強い。

 この時代の装甲車程度なら、わけなく貫通できる。軽戦車ですら危うい。強行突破するには戦車が必要だ。

 しかし、通常は専属チームとして四名ほど運用に割り当てる。当然に移動なんて想定外で、固定砲台としてだ。

 それを持ち歩くだけでなく、一人で運用まで可能とするウンターホーズの膂力は瞠目に値したが……腕力だけでは解決できない問題もあった。

 弾丸だ。

 小銃(ライフル)弾ですら一発二〇グラム前後なのに、重機関銃弾ともなれば数倍になる。

 つまり、一〇〇発持つだけで数キロ前後。一〇〇〇発持ったら数十キロ前後だ。

 そもそも重機関銃自体が十数キロもある。さらに数十キロの予備弾薬を持ち歩くなんて、剛力も裸足で逃げ出す勢いだが……それでも弾薬は潤沢といえなかった。

 かといって撃つのを止める訳にもいかない。

 なぜなら彼らの優位は、全て大男の重機関銃に懸かっていた。

 彼らにとって理想的展開で、米兵達が絶対に避けねばならないのが、重機関銃による掃射となる。

 だからこそ数的優位にある米兵達も、迂回挟撃などの思い切った手に出れない。……賭けに失敗すれば少なくとも半数は命を喪い、生き残った者も絶望だ。

 けれど撃ち続ければ、当然だが最後には無くなる!

 そして重機関銃の弾が尽きたと知られたら、数的優位を生かした攻撃機動を食らって終わりだ。



 奇しくも男達全員が同じことを祈っていた。「手持ちの弾丸が、相手より先に無くなりませんように!」と!

 ……これこそ世界各地で開催された地獄のチキンレースだった。

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