第6話 スキルアップレッスン
……どうする?……どうやってごまかす? いくら何でも、目立つのが早すぎた。これじゃ、他国からのスパイどころか、下手したら化け物扱いされる!? てか、周りのギルドの奴らも遠巻きに得体のしれないものを見るような目で見て近づいてこない! いや、それよりこの状況をまずどうすれば……
「……もしかして、鑑定できないのはそれらの装備品の効果ですか?」
「…一応、魔力のブーストは付加としてかかってるから、それもありますね。よい目の付け所ですね。エルドールさん」
「も? ということは、何か他にからくりが?」
エルドールさんがいいタイミングで質問してくれたおかげで、ギルマスもブラフにかかった! とりあえずごまかすか。嘘と真実を織り交ぜれば…だが、人生経験豊かなギルマスを誤魔化しきれるか? いや、異世界の人間が来ていたのは2000年前だ誤魔化す!
「これらの装備品は、実を言うと友人達に一から作ってもらったのではなく、私が持ってきたものを友人達に頼んだんですよ」
「…なるほど、それは発掘品だったのか! つまり、アーティファクト級の古代の装備品を修復したものか!」
そのとおり、この時代から言えば2000年前に作られた古代の装備品。嘘は言ってないな!
俺が言った言葉を深読みしてくれて助かる。まあ、あいつらも一からこの装備品を作ったわけじゃないしな。何とか誤魔化せそうだ。
「そこは秘密ですよ、ギルマス。あまり手の内を明かすのは冒険者としてご法度でしょう」
「確かに、その通りだが気になるな。だとしたら、それには製作物の等級を上げる効果が?」
「…鑑定は万能ではないので何とも」
「む…確かにそうだな、すまない。だが、装備品も冒険者の実力の内だ。ギルドの入会を認めよう」
よし、乗り切ったぞ!これで、ある程度の情報を集められるし生活資金を集めることもできるな! それにしても、鑑定スキルが低いせいか俺の装備品を鑑定できないんだな。おれの今の装備品って、隠蔽スキルを強化できる装備品であって、錬金術の強化が出来る装備ではないんだが…この時代の製作関係のスキルってどれだけ退化してるんだよ。
「ところでギルマス。錬金術師のアルトさんがおっしゃっていたのですけど。錬金術師のクラスは、劣化とはいえ全職業の技が使えるそうですけど…本当ですか?」
「何? ミンク、そんな話は俺でも聞いたことが無いぞ? 本当なのかアルト君?」
「ええ。といっても、スキルの熟練度を上げないとまともに使えません。しかし、全職業の力が使えるという事は、それらのスキルを理解することで、錬金術と言うスキルをより有効に利用できるようになる。それによって、錬金術師の高みに登れているのだと私は考えています」
「…リース君は今何が使えるんだ?」
ギルマスだけあって理解が速いな。まあ、公爵の娘がさっきのようにギルドの奴に馬鹿にされる状況が続けば、このギルドの存続も危うくなる可能性が高い。それを回避するには、ギルドにとって錬金術師が有用であることを示せれば、状況が良い方向に変わるだろう。
「今のジョブレベルだと、魔術師系のファイヤーボールと戦士系のスラッシュだけですね」
「…すまんが、それが本当かどうか俺には判断できん。練習場で見せてくれるか?」
「ギルマスの許可が出たという事は、問題ないんですね。ミンクさん」
「ギルドに所属もしくはギルマスの許可が無いとダメでしたが、許可が出たので大丈夫です」
「じゃあ、練習場に行きますか。エルドールさん、知らないことがあったら友人のジョン君とマルク君に聞きなさい。彼らは君が教わるスキルを習得しているからね」
錬金術師は特殊職で、最上位職のスキル以外は取得可能だからな。スキルの訓練に覚えたいスキルを持っている奴らから押してもらうと、理解が速くなる。結果スキルの熟練度が上がりやすくなる。ジョン君は戦士系、マルク君は魔法系のジョブだから、あと一人、盗賊系のジョブがいれば、気配探知のスキル習得も早くなるんだが…仕方ない。そこは、自分たちで頑張ってもらおう。幸い、ギルドの中になら、そっちのジョブの奴もいるだろうし。
「…分かりました。ジョン、マルク色々ごめんね、迷惑かけて」
「気にすんな! それより、本当に使えるのか気になるぜ!」
「僕もですよ。これで、僕ら三人でも戦術の幅が広がります」
…二人とも、気になるのは分かるが、走って訓練場ダッシュかよ。エルドールさんを置いてくなよ。ライラ殿がさっきから、「訓練を倍に」とか「いっそ気絶するまで」とか物騒なことをつぶやいているぞ。美人なだけに無表情でぶつぶつ言ってる姿が狂気じみてる。
でも…まあ…
「良い友人ですね。彼らは、エルドールさんのためにあそこまで喜んでくれるなんて」
「…はい。私には、勿体ないくらいの友人です」
…エルドールさん、今まで役に立ててなかったみたいだな。この顔は。俺にも経験があるな。周りの奴らの方が何かに秀でている。だからこそ、やれることがあることを俺が教えてあげなきゃな。
さて、色々プランはあるがどれから…って近!? 隣かよ、演習場!!
分厚いとはいえ扉一枚だけなのに、音が全然しなかったぞ? 訓練している人も何人かいるが、おそらく遮音の術式を組み込んでこの部屋作られたみたいだな。
扉の先は結構広いな。手前には台状の…まるで大型の相撲の土俵だな。それに、その奥には丸太をいくつか立ててあるが…スキルの試し打ちのためか。
「まずは…リース君! 試しに撃ってみたまえ!」
「わ…わかりました。マルクがやっているみたいに魔力を杖の先に集めて……」
……それにしても、この時代の装備品って、品質は悪くないが性能はすごく低いな? いくら何でもこれは異常だぞ? クラフトジョブのレベルも異様に低いし…もしかして、自分で狩ってきて製作したりしないのか? だとしたら、その考えから変えないとマズイな…
「行って!『ファイヤーボール』!」
……うん。予想通り、本来なら二つの火の玉が出るところで錬金術師だから、一個だけ。音はクラッカーみたいに派手だが威力は低い…まあ、火傷や火の魔力によるダメージは期待できるだろ…多分。いや、丸太にほどんど焦げ跡がない。これじゃ本当に見掛け倒しだ。もう少し強化しないと役に立たないかもしれないな。しかし、魔力制御はうまくいっているから、ちゃんと中心には命中したな……
「う…撃てた!? マジかよ!!」
「相当威力は低いですが…なるほど…という事は、ジョン! 貴方の剣をリースさんに貸してみてください」
「え?何でだよマルク?」
「…スラッシュは剣を使うスキルでしょう……」
「ああ!? わりい…リース。ほら、とりあえず俺が何時も振っているみたいにやってみな!持ち方は、ぐっともってグワっと振るんだ!」
「えーと…『スラッシュ』!」
ジョン君の分かりにくい説明を無視して、エルドールさんが渡されたロングソードを振った。…ひどいな。本来のスラッシュならあれぐらいの丸太なら、一刀両断できるんだけどな…半分…もいってない。これは、鍛えなかったのもあるけど。武器がひどいのもあるだろう。
「…ゴブリンの首狙えば行けるか?」
「恐らくは…しかし、これを鍛えるとどれぐらいになるのでしょうか?」
「そうだな…アルトさん見せてくれよ!」
ジョン君とマルク君の食いつきが良いな。…まあ、先を見せてやる気が出れば御の字だしやってみるか。魔法に該当する錬金術は使ったけど。それに、闘技に当たるものは、武器系だけ使ってないしな。まずは、小手調べでファイヤーボールやってみるか…色々怖いから少し手加減しとこ…
「じゃあ、『ファイヤーボール』。さて、ミンクさんこれは、何処に撃てばいいでしょうか?」
「えーと…あの的にお願いいたします」
とりあえず、十個ほど待機させておいて…何処に撃ちこもう?魔法の発動後の待機って一応発展形の技だし、待機させておく分だけ乗数分魔力を消費するから、早く打ちたいんだが…またやってしまったか? ミンクさんの目が呆れを通り越して、悟ったようになってしまった。まあ、武器の力って言ってまた誤魔化すか。どちらかと言うと、近接系が得意と思わせれば、変なちょっかい出す奴も出にくいだろうし。
「とりあえず…行け」
…さっきのエルドールさんのと見比べると凄まじい威力だな。数も10倍だし…威力も高いし。というより、さっきの本職より劣るといった説明だけじゃ勘違いする奴いるかもな…ジョン君とか。
「嘘だろ!? 何だよこの威力、マルタより高いじゃねえか!」
「これが、ファイヤーボール? 詐欺ですね」
「さっき言ってたことと違うような…本職の人より下がるんじゃ?」
「正確に言うと、同じ熟練度と仮定した場合、本職の人より下がるんです。つまり、レベルやスキル熟練度、武器等のあらゆる条件を一致させた場合ということです。レベルは私の方が高いですし、装備品も特殊なものを使っていますから、違うのは当然です」
事実、本職が撃つファイヤーボールが40個だとするとこっちは32個で威力は2割減。魔力の消費は1.2倍。最初よりましになるとはいえ、ステータスとして、貯蔵魔力のMPや魔力濃度に関わるINT、魔力抵抗に関わるMENが大幅に上昇する本職に比べると、MP以外は錬金術師の方が下だからな…威力の2割減や弾が8個も少ないのは直接的な戦闘において、致命的な弱点なんだよな。
「つまり、その杖を使えば私も?」
「…装備品と言ったはずです。総計すればの話ですよ。ただし、レベルによる制限がありますから、エルドールさんでは使えませんよ。最低でも、ギルマス越えは必須です」
「…相当無理じゃないですか」
無理じゃないんだけどな…ここのギルマスクラスでもゲーム時代は初心者をやっと超えたあたりのレベルなんだよな、実際。LECはレベルの上がり方は速くても、ステータスを上げるには要努力なんだよな。
「無理ではありません。錬金術師は本来上位のジョブでしかできないような、複合的なスキルを習得できるんです。その意味を考えれば、おのずと答えは見えてきますよ」
「……がんばります!」
「よろしい。次はスラッシュですね。ジョン君。君の剣を貸してください」
「え? 俺のを、何で? アルトさんは持って無いの?」
「私の剣は友人にお願いしたもので、下手な魔剣を凌駕します。それじゃ比較にならないでしょう?」
俺の持っている魔剣は威力強化と攻撃範囲強化の2種類がメインで、他にも様々な特性を持っているから、いくら広いと訓練場とはいえ強化された状態ではまずいことになりかねん。魔剣自体が、元々とんでもない武器だからな。
「…今、とんでもねえ言葉が聞こえたような?」
「どうでもいいことですから、早く貸してください」
「…まあ、いいけどよ。スラッシュって切れ味上げる以外って何かあんのか?」
「一応、攻撃範囲拡大がありますよ。といっても、刀身からオーラ上に多少伸びる程度なので、そこを期待するわけにはいきませんけどね」
「え? そんな効果あったのかよ!? もう少し鍛えるか?」
…この時代に足りないのは、知識かもな。なるほど、様々な知識を必要とされる錬金術師をシャイーラが選ぶわけだ。まあ、他にも錬金術師ならではの活躍の仕方もあるけど……
「アルトさん、この丸太でお願いします」
「ずいぶん大きいですね? ミンクさん、これはいったい?」
「これは、ギルマスが訓練されている時の丸太です。これは、建築資材として使えるものなのです。しかし、あまりにも大きいので、ギルマスが、訓練のついでに加工しやすいように切っています」
「分かりました。では、フウゥゥゥ…スラッシュっ!!」
先ほど、エルドールさんが切ろうとした丸太が、直径40センチぐらい。対して、俺の目の前にあるのは、直径がおよそ3倍の大木……ゲーム時代だと、これが森に生えてるサイズなんだよな。
とりあえず、俺は剣に闘気を込めて袈裟懸けに振るった。その瞬間丸太は重力によって少しずれていく。
…この鉄の剣でも、まあ俺の熟練度なら切れるか。それにしても、作りはしっかりしてるけど、魔法やその他の付加技術一切なしか…これはひどいな。
「マジ!? 何だよこれ? スラッシュかよ、これが?」
「ジョンと違い、刀身のオーラがはっきりと見えましたね。それに、リーチも違います」
「うん。これなら、相手の意表をついて攻撃できるんじゃない?」
「…ジョン君、君の剣ですが。作りはしっかりしてるのに、何故付加を感じないんですか? この剣の精度ならバトルジョブのレベルだってそれなりにあるでしょう?」
「え? 何で、バトルジョブが関係するんだよ? 物作りはクラフトジョブのレベルだろ?」
…予想通りとはいえ、バトルジョブと並列してクラフトジョブを上げないのか! クラフトジョブだって、ステータスの補正があるんだぞ!?
「私の知る限り、クラフトジョブにも自身のステータスにかかる恩恵は存在したはずです。何より、オンリーワンの武装を自分で作りたいとは思わないんですか?」
「そんなこと言ってもよ、リースの錬金術やマルクの魔具職人と違って、俺は鍛冶師だぜ?自分の部屋に鍛冶場を作れってことかよ、無茶だろ?」
空間拡張をお願いすればいいだろうが! 建築職人と魔具職人の二つの職業が協力すれば不可能じゃないだろ!? といっても、分からんか。この時代だと、その手法も忘れられてるみたいだし。
「でしたら、貸してくれたお礼にその剣、少し付加をかけましょうか?」
「え? 出来るの?」
まあ、驚かれるよな。普通付与系は、バトルジョブレベルが高い本職の鍛冶師、薬職人、魔具職人、細工職人等の職人が剣に何らかの加工を施す時に出すスキルだからな。だけど、錬金術は素材自体に干渉する系統だから、比較的に楽なんだよな。この作業。
「ええ、筋力アップ小でいいですか?」
「筋力アップ小!? 俺の剣が付与付きの剣に!」
「もちろん、アイテムは自分で取ってくることです。ゴブリンの魔石が10個近くあれば、後は、私のアイテムで特別に賄いますから」
「…今度狩ってくるんでいいですか!?」
「構いませんよ。当分の間は、この町にいさせてもらいます。まだまだ、未熟な錬金術師を放っておけそうにないですからね」
同じ職業の奴を助けるのはゲーム時代からやっていたことだしな。皆からはお人好しなん)て言われてたけど…。これは俺の拘りと…偽善だ。
「お…教えてくれるんですか? どうして?」
「頑張る少年少女を応援するのにとくに理由はありませんよ。まあ、錬金術師がなかなか使える職業だと認識させるなら、一人より二人だと思ったのもありますけどね」
「ありがとうございます!」
「…二人がうらやましいです。僕にも何か教えてくれませんか?」
お? 意外だな、大人っぽいと思ってたマルク君にも子供っぽいところがあったんだな。
ちょっとすねてる。さて、彼は魔法使いだし…杖よりもスキルかな?
「……でしたら、魔力操作の訓練と同時に、私が作成できるスペルスクロールから魔法を覚えるというのはどうでしょう。補助系統か捕縛系統のどちらかを訓練のノルマを達成できたら教えますよ?」
「本当ですか? 錬金術師が、スペルスクロールを作れるとは驚きですが…」
「正確に言えば、友人が教えてくれたスペルスクロールなら私でも作れるんですよ。あと、教えることについては安心してください。私が教えてもいいと思った人になら教えて構わないと言っていましたから」
錬金術師は、クラフトジョブの作ったものでも、一応劣化品なら作れるからな。そのうえ、戦闘中では、他のジョブより早く製作できる。ただ、戦闘中のような緊急的な状況でもない限り、物を作る環境が整った場所で製作することが一般的だから、作ったものは急拵えなるから、効果が大幅に下がる。
「…それでしたら、捕縛系をお願いします。今回のように全員で逃げるときや、足止めに有効そうですから」
「なるほど…でしたら、ファイヤーボールを、そうですね…8個出現できるレベルになったら教えましょう。もちろん、ファイヤーボールの次の炎の魔法、フレイムランスを覚えても教えますよ」
「つまり、フレイムランスを覚えるより先にファイヤーボールを8個出現させる方が楽という事ですね?」
「さあ? 想像にお任せします」
さて、この町で彼らをどれだけ発展させられるかは、俺の手腕次第か…まあ、ぼちぼち頑張りますか。