第3話 ジェネレーション?ギャップ
転移は成功したんだが…そういえば、これがあるんだった。
「気持ち悪い…!」
「これは……マナ酔い?」
「ウ…ウエ!」
……転移をするときには魔力を大量に消費しないように、空気中のマナ…自然魔力を使って、空間に歪を発生させてそこから転移を行う。だが、慣れてない奴だと強力なマナが肉体と精神の両方を揺さぶるからマナ酔いを起こすんだった。でも、革鎧と剣を持っている所から、物理系戦闘職の可能性が高いジョン君はともかく、特殊職とはいえ魔力を多用するエルドールさんがなぜあんなに酔うんだ?
「エルドールさん。貴女は錬金術師ですよね? 何故、マナ酔いがここまでひどく?」
「え? …私レベルが低いうえに、錬金術もあまり成功したことないから魔力制御があまり上手くないんです。…気持ち悪い」
「よく話せるなリース。俺なんか……オエ!」
「…僕は少し慣れてきました。体内にある魔力を使って余分なマナを追い出したらだいぶ楽になりました」
……戦士系統職であるジョン君はともかく錬金術師であるエルドールさんがここまで酔ったままなんて…どんだけ練習不足だよ!? というより、一体どうやってレベルを上げたんだ? まあ、戦闘しなくても、生産の仕事をするだけで、ジョブ経験値は取得できるからそっちのおかげか?
「それにしても、町までそんなに遠くない距離に一気に飛べましたね。転移とはここまですごいものだったんですか?」
「転移魔法は、魔力制御が高ければ高いほど余分な魔力を呼び水にせずに空間に干渉できるので、練習すれば自分の知ってる場所なら飛べますよ。といっても、その土地のマナ等の状態が乱れていない場合が前提ですがね」
「それはおかしくありませんか?」
おかしい? ああ、俺が知らない土地に飛べた事か?
マルク君はいいところに目をつけるな。彼は研究者として、将来に期待できるな。
そういえば、ジョン君とマルク君のジョブの確認はしていないな。まあ、マルク君は魔力操作ができる点や、杖とローブから魔法使い系統の職だろう。だとすれば、魔法関係に興味を持つのは当然か。
「私が知らない土地に転移できたことなら、エルドールさんのイメージと方角、さらにここにいる人々の魔力を感知してその場所を目安に飛びました。付け加えると、精霊の補助のおかげなので私一人の力じゃありませんけどね」
「……先ほど、リースの頭の上に杖をかざしたのはイメージを読み取り精霊の補助を行うためだったという事ですか。勉強になりますアルトさん」
…マルク君は、本当にずいぶん賢いな? 貴族だとしても三男坊だから、自由に出来たにしても、魔法に対しての知識が深いな…誰か師でもいたのかな?
「リース、ジョン。もうそろそろ平気でしょ?」
「私は何とか…もう平気になってきた」
「俺…まだきついんだけど……」
ジョン君だけはきつそうだな……レベルもランクの低い戦士系統職じゃ、魔力制御も、ましてやマナ制御もできるわけないし…仕方ないか。まあ、レベルやランクが低くても、装備品で補えていないのは知識不足だな。
「ジョン、肩を貸しますから、歩きましょう」
「あっ…私も手伝うよ。今回、私あまり役に立たなかったから」
「…仲がいいですね。三人は貴族の知り合いで、冒険者仲間という関係だけではなさそうですね?」
「私たちの父や母が若い頃、災害級のモンスターと戦うときに一緒にパーティーを組んでいたので、それからずっと家族ぐるみで付き合いがあるんです」
この国では、貴族が冒険者として戦うことが一般的なのか? 2000年前でも、道楽で冒険者をなろうとして、クエストに失敗したやつらの救助したことはあるが。大抵は一度失敗するとすぐやめるけど。この国の人たちは根性あるな。
「ついでに言えば、リースの親父さんは由緒ある貴族で公爵なんだよ」
「私たちの家は、男爵だったんですが、災害クラスのモンスター討伐の功績を称えられて子爵になったんです。その時、後押ししてくれたのがリースのお父様で、ここヴァルク地方を統括しているエルク・フィン・エルドール様なんですよ」
……予想以上にエルドールさんのご家族がすごかった。公爵って…大公や王を除いたら、ほぼほぼトップじゃないか!? ということは…
「エルドールさんの家は王族の血を?」
「ええ。私の曾おじい様が当時の王族の方とご結婚しました。当時、超災害級のモンスターをその卓抜した知性を持った策略を用いて一部隊で討伐したという功績で」
「さっきから出てくる災害級とは? 通常モンスターや魔物のランクはSSSが最高では?」
「アルトさんの所では、S以上は災害級とは呼ばないんですか!? Sランク認定されているモンスターや魔物は単独討伐不可能と呼ばれていて、SSランクからは超災害級と言われるんですけど」
Sで単独討伐不可能? 冗談だろ? たしかに、竜巻や地震を連続して起こせるランクとなるとS以上になるから、恐らく災害を起こす能力+αの能力を持っているSSランクを超災害級とカテゴリーしたのは納得いくが……
「SSSオーバーの領域不能にカテゴライズされる奴らならともかく、Sぐらいなら、私単独で討伐できますよ。もちろん、準備をしてからですけどね」
「「「はぁ!!?」」」
「そんなにおかしいことですか? 無茶ではありますが、素材代がかさむぐらいですよ?」
「そんなわけないだろ!? 普通の人間種でSランクの化け物を討伐なんて英雄クラスの職業に就いている奴らでも無理だろ!?」
何でこんなに驚かれるんだ? Sなんて、無改造装備+アイテムをある程度準備している第5段階の戦闘職ならいけることだろ? それが出来ないってことは、創造神シャイーラ…時代はまだまだ2000年前に追いついてないぞ?
「アルトさんは…Sランクのモンスターと戦ったことあるんですか!?」
「一応ね…仲間たちと一緒ならSSも狩ったことあるよ」
「……本当ですか? 貴女が凄腕なのは理解してますが、そこまで出来るかどうかは僕達の能力じゃ判断できません」
「…といっても、私は後方支援を主にやっていたから、私の功績なんて一割もいかないと思いますよ? 私以外の仲間が異常な強さでしたから」
事実、俺の職業じゃそこまでの瞬間ダメージを出せないからな。俺のジョブは戦士職や魔法使い職と違って最大火力はかなり下回るからな。俺のジョブは色々出来る職業だからな。そうしないとバランスが取れない。まあ、俺のジョブは長期戦や戦術戦になれば必要になるものではあるけど。
「……そうですか。そういえばアルトさんは、研究者のような生産職とおっしゃっていましたね。ですが、Sランクを単独討伐って…」
「さっきも言った通り、準備が必要ですけどね。それに討伐しても、準備代の方がかさんで下手すると採算が合わなくなる。周囲にも被害が出ますしね」
「…討伐出来る事がすごいのですけど…でも、アルトさんの名前をこの国で聞いたことが無いってことは、アルトさんすごい遠い国から飛ばされたんですね」
「…そうなりますね。私の覚えてる限り、そこまでの軍略を持った方がSSランクのモンスターを討伐したという話を旅の間に聞いたことないので、どうやらかなり遠くに飛ばされたようですね」
…事実、俺がいた時の時代でもSランクはNPCでは不可能だよな。サポートNPCになる奴らなら、俺たちと同様に『神々の発展の加護』がついてかなりのステータスアップになるから討伐可能だろう。……生産サポート特化のNPCみたいな初期の馬鹿を除けば。
「じゃあ、この国の名前も知らないですよね?」
「そうですね…というより前いた国の名前自体には興味が無かったので、よく覚えていません。その土地の素材分布図は頭に入っていますが…地図を見れば何処かわかるかもしれませんね。まあ、転移トラップの際に食料と地図の入ったカバンを持ってこれなかったから、少し困っていますが」
「いや、大変じゃないですか!? 食糧無しって…じゃあ、武器はそれだけですか?」
「いえ、私は時空系の魔法も習得しています。ですから、それらを用いて荷物を引き出せます。実を言うと、研究のために色々な武器の製作もしているのでそれらを使います。」
というより……俺の職業はある意味、器用貧乏だからな。事実、試作品を作るだけなら俺でも出来る事だし……
「武器の製作? という事は、アルトさんの生産職は『鍛冶師』ですか?」
「いや…杖とかだったらどうだ? 『木工師』もあり得るぜ?」
「……ねえ、二人ともよそ見してると転ぶよ?」
…いくら俺がいるからって、警戒しなさ過ぎじゃないか? ジョン君は少し短絡的な気があるか? マルタ君は気になることがあると集中しすぎる。エルドールさんは突発的な時の度胸はすごいが短絡的? いや、何かに焦っている感じか? まあ、仲間のために自分を投げ出す勇気もあるから、俺は人間としては良いなと思える。
「ジョン君、マルク君。エルドールさんばかりに警戒を任せるのはどうかと思いますよ?」
「ん? 平気だろ?」
「ここまでくれば、門番の人や冒険者の皆さんが魔物やモンスターを狩っている区域になりますから安全地帯です」
「それでも、私たち安全だって言われたランクの仕事であんなことあったんだよ?」
「う! 確かに…その後の光景見て緩んだ? いや、言い訳だな」
「……確かに、いくら私たちよりランクが上でも、私たち自身が気を付けなくていい理由にはなりませんね。私たちは依頼者である以前に、冒険者なんですから」
案外、エルドールさんはこの二人よりも状況の適応能力が高いもかもな…だとしたら、錬金術師はこの子にとって向いている職業だな。ん? 索敵魔法と探知スキルに反応? 随分な速度で近づいてくるな。この速度だと、物理系職の剣士クラスか? おそらく、闘気をまとって身体能力向上をさせてるよな…この気配だと。
「近寄ってくる方がいますね。お知り合いの方ですか?」
「え? …知り合いです! それよりも、良く気づきましたね? まだあんなに遠いのに?」
「周囲の警戒は、パーティーなら専門職の方がいますが。あいにく私は、一人で行動する事が多いので、そのおかげで普通の冒険者よりも周りを注意する癖が付きましてね」
てか、不意打ち対策何てソロ必須スキルだからな。クエスト最中に最大限気を付けなくてはいけないのは、不意打ちをくらうことだ。いくら、事前に調べて予定を立てても、それを崩されたら、結局準備したものが無駄になる可能性が高い。そうならないように、自分たちが先に探知して、不意打ちをかけることだ。
「専門職かー…俺たちのパーティーにも加えるってわけには…いかないか」
「当たり前です…僕たちは自由に行動できるとはいえ、貴族の人間ですよ? 信頼の置けない人間を傍に置いといたら、家にも迷惑がかかります」
「やっぱりそうか、だから彼女は私に敵意を向けているのか」
「え?」「は?」「うん? ……あ!」
「そこのお前ぇぇぇえええ!! お嬢様たちに何をする気だぁぁぁあああああ!!!?」
俺ってそんなに怪しい風貌してるか? あ!? 隠蔽の術式掛けてあるローブだから、それのせいか!? そんな術式を編み込んであるローブの持ち主何てどう考えても、普通の冒険者には見えないよな…あえて言うなら、暗殺者とかその系統に勘ぐれるな。
「ライラさん違います!」
「ライラの姐さん! この人は…」
「何言っても意味がないでしょ? あの人の性格…というより、第一にリースさんありきなんですから」
「…切られるのは困るから足止めするか」
とりあえず、怪我させないようにして捕縛した後は、エルドールさん達にお願いすればいいだろ。イメージするのはゴブリン…いや、オーガ対策用の捕縛式でいいか。闘士系統職のランク3の剣士ぽいから、オーガぐらいの腕力はありそうだし。てか、この世界に来て初めて金属鎧を見たな。兜を被っていないから、顔が見えるけど、20代の美女だな。まあ、鬼の形相だから恐ろしいけど。
「術式『捕縛』タイプ『鉄鎖』」
「ぬお!? 地面から鎖が? 体に絡みつく!」
「とりあえず簀巻きにしたので、説得はお願いします」
「…何度見ても、魔力操作の始動が全く感知できない。一体どれだけ訓練すれば、ここまでの領域に?」
ははは。まだランク1の魔術師かと思われるマルク君にそんなことが感知出来たら、武具かアクセサリーの不備の可能性がある。まあ、ここに来るまでの間に体内の魔力を操作してみても、魔力を何度か纏っても気づかない当たりローブの状態は問題ないみたいだな。今回はそのせいで勘違いされたっぽいけど……。てか、随分離れた位置で縛ったのに、芋虫みたいに這ってきてるぞあの人!? そのうえ、口に剣を咥えてるし!
「このレベルなら、この武具じゃなくても感知を悟らせないようにできますよ。ただし、これ以上の魔法となると、少しは多く魔力を使うのでこのローブの遮断機能でも限界が来ますけどね。ところで……あれ良いの?」
「マルク! 気になるのは分かるけど、こっちに来てライラを説得してよ! ジョンだけじゃ抑えきれない!」
「ライラの姐さん。暴れないで! あの人は敵じゃなくて」
「うおおおぉおおぉおぉおぉ! お嬢様の顔にわずかながらでも傷をつけたな!? そこの外道!! 待っていろ、貴様の首、このライラが落としてくれるぅうぅぅううぅぅ!! しまった! 剣を落とした!」
「……説得に行ってきます」
「マルク君、エルドールさんにもすまなかったと伝えてね。」
頷いたマルク君は走っていき、ジョン君と一緒に落とした剣を咥えようとのたうち回るライラさんを抑えつけた。その剣はエルドールさんが取り上げて、俺のことを説明し始めた。
……俺、今回の事悪く無いと思うけど…何かあの三人に苦労かけてしまったな。
町に入る前にこれとは、異世界の生活は先が思いやられるな。