第1話 ファーストコンタクト
12月17日をもって修正いたしました。
評価・感想・ブクマ待っています。
真っ暗な闇の中、一瞬の閃光が弾けた時、その場に一人の少年が現れた。
謎の閃光は直ぐに止み、また周囲を闇が包み始めるが、少年は動き始めて手を前にかざして言葉を紡いだ。
「『光源』」
少年がそう言った途端に、手のひらから光る球体が現れて周囲を照らし始める。
少年が周囲を確認すると、洞窟のように見えるが人が加工した後が所々にあり、ここが遺跡であることに気づいた。
足元を確認すると、所々欠けているが紋様なものが見えていた。
少年はかがんだ瞬間、自身の髪が見えて少し驚いたような顔をした。
「髪の色が…そうか、肉体はちゃんと変わっていたのか…魔法が使えるから当然か」
青年の正体はアルト・ヴァルハラの体と融合した春原有人だった。
有人の時は日本人らしい、黒髪黒目という一般的なものに対し、有人が作成したアルトは金髪紅目の男性である。
彼は、自身の変わった肉体を見て少し動きを止めたが、下の紋様を確認するために再度かがみ始めた。
彼が確認した紋様は、彼が知っているものでは、転移に関係した魔法陣…転移可能区画である可能性が高いと思った。
ポータルは、プレイヤーがすでに接触したことがある別のポータルへの転移が可能であるため、試しに起動できるか触ってみるが、破損が酷いためか利用できなかった。
アルトは錬金術師であるため多様な知識を持ち合わせてはいるが、設置型の陣の破損が酷い現在の状況下ではすぐに直せるわけではない。
彼は諦めて、空気の流れる方に歩き始めた。
歩いている道中、出口と思われる方向から獣が争うような声が聞こえてきたので、戦闘になるかと思い、彼は両掌に力を込めて警戒しながら進む。
聞き覚えのある声だが、アルトが油断することなく揺れが酷くなる方向に進んでいくと、ライトが必要なくなる程度の明るさが周囲の闇を照らし始める。
彼はライトを消すと、先ほどまで聞こえていた争う音が消えているのに気づき、戦闘が終わったのだと思い、力を込めていた両掌を緩める。
外に出るとそこは森林に囲まれているが山中の遺跡であった。
「ふぁ…」
アルトはどこか自身が知っていたLECとの違いに声を漏らしたが、恥ずかしかったのか周囲を見渡した。
彼は遠くから何かの気配を感じるが、自身に襲い掛かってくる様子はない。それが人の気配でもないため、現在自分が人里近くにいるわけではないことに悩み始めた。
(あ…マップあるはずだよな?どれどれ…何だこりゃ!?)
アルトはLEC時代のマップ機能を思い出した。それを呼び出すが、マップがほとんど空白の状態であることに絶望した。
彼が以前まで見ていたマップであれば、一度通過した地形が自動的にマップとして記載される。例え、トラップの転移によってどこか屋内に移動したとしても、屋外に出ればマップ機能によってどれだけ離れたかも容易にわかるようになっていた。
アルトはマップの“情報変化のため初期化されました”という表記から、2000年という膨大な時間が経過したため、地形の変化などから以前の情報が初期化されたことを察し、ため息をついた。
彼は諦めて、人里を発見するために山の頂上を目指し始めた。
(それにしても…装備はログアウト時のなんだよな)
アルトが現在来ているローブはドラゴン対策用に来ていたローブであり、熱耐性が高い魔獣の皮が使われている。そして、毒に対しても耐性がある植物の液体に浸すことで、熱と毒の耐性を両立させており、赤が基調の少し派手なローブである。
杖がアイテムボックスに保管されているのを確認したアルトは、それを取り出した。
そして、今のアイテムボックスの容量がゲーム初期の状態ではなく、拡張されている状態であることに安心した。
道中、アルトは自身の知っている薬草などがあるため、アイテムボックスやスキルの練習もかねて、採取しながら進んだ。
2000年の間に植生が変わっていないか不安であったが、スキル鑑定を用いて自身の知識と大幅な相違がないことを確認して採取している。
アルトはスキルを最初に発動したとき、鑑定であれば目に力を入れようと力んでいたが、もう慣れなのか瞬きするだけで、鑑定が発動するようになっていた。
彼は採取したものを自身のアイテムボックスに放り込んでいく。いまだに獣が襲ってこない現在の状況に疑問を持っているが、被害がないためそのまま上り続ける。
この時のアルトは気づかなかったが、彼が発動した魔術のライトから漏れ出ていた膨大な魔力に気づいて、魔物は遠巻きから監視しているのだ。
歩き続けていると頂上が見えてきたため、彼は少し移動の速度を速め始めた。
登り切った頂上からは、周囲は森に囲まれているが、登ってきた方向とは反対側の森の先には平原が広がっているのが見えた。
しかし、山を登り切った先はほぼ断崖絶壁ともいえるような急斜面であった。
「やっと頂上か…しかし…ここを下るのは少し怖いな。休もう」
下る前に、登ってくる途中で見つけた果実を齧ろうと、アイテムボックスを開こうとしたアルトだが、平原の一部から土煙が上がっているのが見えたため動作を止めた。
彼は、スキル『遠視』によってそこを拡大して確認すると、無数の身長が子供ぐらいの醜悪な顔をした緑の人型のモンスター…ゴブリンの群れが見えた。
亜人種のゴブリンとモンスターのゴブリンの違いだが、亜人種のゴブリンは人間に近い顔立ちをしているのに対し、モンスターのゴブリンは現在視界に収まっている醜悪で下品な顔立ちで、額に紋様が刻まれている。
アルトはモンスターが何かを追いかけていると思い、群れの先を見ると……。
「子供!?」
アルトよりも幼い、中学生ぐらいの3人組の子供たちが追われていた。
彼が鑑定も発動すると、体格の好い、茶髪の逆立った髪の活発そうな顔立ちの少年は、革鎧を着ていることから戦士職だが、レベルは12と表示されている。
次の、小柄だが知性があふれている顔立ちの灰色の髪の少年は、ローブ姿から術士職だが、同様にレベルは11。
最後の顔が見えないが、被っているローブの間から漏れ出た金髪の髪の長い者は、レベル6とそのメンバーの中でも一番低かった。
アルトは、この現実がゲームと同様なシステムでレベルが設定されているのであれば、レベル50までは初心者に該当することを知っていた。このレベルに至っていなければあの数のゴブリンを相手にすることは無謀であることも。
アルトは、少年たちの命が危険に晒されそうになる事実に、ゲーム時代の感覚を思い出してスキルと魔法を発動させた。
「『限定身体強化・脚部』!『ウインド・レジスト』!」
アルトは急斜面を駆け下りながら、スキルの『身体強化』を脚部に限定させて移動速度のみを爆発的に引き上げ、風系統の魔術『ウインド・レジスト』で風の抵抗を弱める。
移動しながら、自身の武装を、移動と隠密に向いたローブとブーツに、スキル『アーマーチェンジ』を用いて変更する。
スキル『アーマーチェンジ』とは、武器以外の装備をあらかじめ決めていた装備に瞬時に変更するスキルであり、敵の属性によって装備を変えるのはLECでは基本とされている。
なぜならばLECでは、プレイヤーが選択する戦闘職と生産職のジョブレベルによって、基本のステータスの伸び幅と補正値が変化する。そのため、ゲーマー達は生産をすることが比較的普通であり、目的をもって生産するとなると、敵対生物の対策に追われるのであった。特に、LECでは属性抵抗値や補正値が重要なファクターになりやすいゲームであることも要因の一つであった。
アルトは頭の中で自身の姿を正確にイメージして、今の装備から切り替える。
瞬時に赤色のローブから黒が基本のローブに変わり、ブーツも先ほどまで履いていたものとは違うものに変更されていた。
姿が変わったアルトの移動速度は先ほどまでとは全く違うものになっているが、アルトの体感では、木々から落ちる木の葉がとてもゆっくりとなったように見えていた。
俊敏性に関係したAGIの強化によって、移動速度だけでなく、体感速度まで強化されたアルトは、木々にぶつかることなく全力で移動する。
アルトは内心、転移魔術の『短距離転移』が使えればと歯噛みしたが、ポータル破損の影響か、それとも他の理由があるのか利用できない現在の状況に苛立ちながら、思考も高速化されている状態で走り続ける。
麓の森を抜けたアルトの目に映ったのは、一番レベルの低い子がゴブリンに追いつかれそうになっており、走りながら仲間と言い合っている状況だった。
「リース! お前とマルクは逃げろ! 俺が囮になる!!」
「何を言ってるんだジョン! お前死ぬ気か!?」
「死ぬつもりはないが、この状況でお前らを死なせたら、俺はご先祖に顔向けできん! お前らは逃げろ!」
「逃げるのは、ジョンとマルク。あなた達よ! 私を置いて逃げて! 私はどうせ…」
「ふざけんな! 女のお前を置いて逃げれるわけないだろ!?」
「幼馴染である僕ら三人はどんな状況でも一緒でした。生き残るなら三人です!第一、あの数です!囮なんて意味がない!」
アルトは走りながら無駄口を言っている少年たちに歯噛みしたが、ジョンと呼ばれた戦士職の少年の、無謀な発言に同意しなかったマルクという術士職の少年の発言を評価した。
LECでの普通の中学生頃の少年たちなら、英雄願望のようなもので死なないと高を括るところだが、冷静に状況を見ている。
アルトが走っていると、リースと呼ばれた、少女かと思われる者が荷物から何かを取り出したのが見えた。球状のアイテムを見たジョン達は、それを敵に向かって投げるように催促していた。リースがそれを敵に向かって投げるのを見たアルトは、形状からボム系統のアイテムであると判断し、少しだけ安心した。ボム系統のアイテムは特徴として、相手をひるませるノックバック率が高いアイテムであることをアルトは知っているからだ。球状のアイテムが、ゴブリンの群れの先頭より少し後方に落ちた途端に爆音が響いた。
だが、アルトはその炎の色を見た途端に、先ほどの少しの安心が吹き飛んだ。
炎の色が赤色ではなく、赤と黒が混じった色だったのだ。
そのうえ、予想以上の爆発だったためか、少年たちは全員転んでいた。
先頭の一体のゴブリンは、爆発によって体を焼かれながら転がったが、まるで痛みを感じないかのようにそのまま立ち上がり、一番近くにいた少女に棍棒を振り下ろそうと襲い掛かっていた。
「リース!よけろ!!」
『リースさん横に転がってください!』
リースはマルクの念話に従い横に転がって棍棒を避けていた。ゴブリンは勢いをつけすぎたためかその場で態勢を崩していた。他のゴブリン達は爆発の威力が弱かったのか次々と立ち上がってきていた。
彼女は、懐にしまったナイフをそのまま手にもって一番近くにいたゴブリンに襲い掛かった。
「あああああああああ!!!!」
「リーーース!!!」
「ダメです!!」
アルトから見たリースの顔には諦めの感情が見えていた。
リースがこの時考えていたのは保身ではなく、友二人を生き残らせる道としてゴブリンの敵視を自分に向ける方法だった。
体勢を崩していたゴブリンは、リースが襲ってくるのが見えたため、急いで棍棒を振るう。しかし、棍棒が腕を打つと同時に、彼女はナイフを持ったもう片方の腕でゴブリンの顔面を突き刺していた。
ゴブリンは生命維持に必要な核を損傷したためかそのまま動かなくなる。
他のゴブリン達は、その状況を確認したと同時に、各々が持っていた武器を手にリースに向かっていく。
元々、リースが爆破したこともあって、ジョン達よりもリースに敵意が向いていたのも理由の一つであろう。
リースは自分に向かってくるゴブリン達を見ながら、様々な感情がよぎり、思わず言葉が漏れ出ていた。
「死にたくないなぁ……」
リースのそのつぶやきを聞いたアルトは、現状の自身で出来る最適解を導き出すより前に飛び出していた。
スキル『縮地』を発動して、自身の位置とリースの目の前との距離を縮めて移動した。
『縮地』によって縮められる距離は転移術ほど広くないが、転移が妨害されるような空間でも使える歩法スキルである。
彼はスキルによる移動の間に、体内の魔力を手のひらに収束させる。
移動の時間はほんの1秒にも満たないが、高速移動用の装備に変更されたアルトの思考は、そのわずかの間に解を導き出した。
アルトの魔術や魔法では、無詠唱でも発動までのタイムラグがあるため、アルトは自身の選択肢の中でも最も得意とする錬金術を選択した。
「串刺しだ! 『偽・大地の槍』!」
アルトの手のひらに収束されていた魔力は、手のひらから持っていた杖を伝わり、大地に伝播する。アルトの魔力が地中内の自然の魔力…魔素を支配していき、彼の命令通り硬度を変えながら形も変えていく。
変質した大地は、通常ではありえない硬度を持った土の槍となってゴブリン共の胸や頭を貫いていく。
アルトは錬金術を発動中も、探知系のスキル『気配探知』と『魔力探知』、『観の目』を利用して周囲を支配していく。
気配探知によって生命反応がある存在は位置を把握されていき、魔力探知により生命力を隠している存在も暴かれていく。
観の眼はアルトを中心として彼の周囲を俯瞰して見られるスキルであるため、周囲の形が手に取るようにわかる。
ギリギリの範囲で致命傷を避けたゴブリン達の頭に、硬度を変えた槍が更に襲い掛かり、ゴブリン達を全滅させていく。
アルトが探知スキルによって敵対勢力が確認できなくなったのでスキルを解除すると、そこは針山地獄の様なありさまだった。
(…やりすぎた?…緊張しているのか、俺は)
アルトは、自身が想定以上にゴブリン達に攻撃を加えていた事実に多少なりとも驚いていた。
彼自身も最初は気づかなかったことだが、異世界にきての初めての戦闘が、他人の命を懸けていたものであることが、彼も気づかない緊張となり、魔力にもその緊張が伝播して過剰な攻撃へと変換されていた。
アルトはそのことに気づいて、素材を無駄にしたことに少し嫌悪した。
だが、彼は、改めて考えるとモンスターのゴブリンの素材は核となる魔石ぐらいしか有用な部位がなく、魔石自体のランクも高いものではないため、授業料や人命が関わっていたこととして諦めることにした。
「リース! 無事か!?」
「リースさん、怪我はありませんか!? ポーションは…くそ!」
「二人とも平気だから…幸い大きな怪我は…無いし」
戦闘が終了したことに安心したジョン達は、リースに駆け寄り体に異常がないか心配そうに声をかけたが、対してリースの方は二人よりも冷静に受け答えしていた。
アルトはその二人の行動に感心すると同時に少し呆れていた。
自身の体の心配よりも、仲間を優先して心配する行動は感心出来るところではあるが、アルトは彼らから見れば、いきなり目の前に現れてゴブリンを虐殺した不審者だ。
ゴブリンを殲滅させたとはいえ、それよりも脅威になりえるアルトを放っておいている時点で、あまり褒められた行動ではない。
アルトは改めて彼女達を見て気になったことがあった。髪だった。
LECの世界は、魔物やモンスターなどの人種の脅威になりえる存在が数多いため、日常生活において必要ないものは一般にはあまり出回らないことをアルトは知っていた。
だが、彼女達…特にリースの髪の艶が、アルトが過去に接触したことがある一般的な冒険者などよりも良いことに気づいた。
アルトが推察した理由は、整髪料に関係した技術の向上により安価で入手できる環境が整ったというものと、彼女らが貴族等の特権階級の者達であることだが、片方はないことに気づいた。
技術の衰退によって、アルトがこの世界のこの時代に召喚されたという過程がある以上、技術の中でも、重要度の低い整髪技術の向上は低いと彼は考えた。
特権階級者で冒険者というちぐはぐな状況ではあるが、アルトは出来る限り礼儀を失さないようにした方が良いと思った。
リースという少女は、痛めた腕をかばいながら立ち上がってアルトに向かって歩き、声をかけてきた。
「あの…」
「ん? 無事かね…ああちょっと待ってくれ、今戻すから」
「え? 戻すって」
アルトは声をかけられたが、あまりにも凄惨な光景のままというのはよくないと思い、周囲の錬金術をもちいて作成した魔術『大地の槍』の模倣を解除するために、また杖を大地に突き刺した。
アルトの魔力によって硬度を保っていた土の槍群は、彼が魔力を操作して元の大地に形に戻していく。
アルト達の目の前で、針山地獄さながらの土の槍群が瞬時に消えて残ったのは、大地に大量に散乱する鈍い輝きを持った魔石だった。
世界にとっての異常である、モンスターのゴブリンは、通常の生命体である魔獣や魔物と異なり、生命活動が停止すると体が灰化していく。
結果的に残るのは核となる魔石。特定以上の存在であれば体の一部が残るが、今回は通常のゴブリンであったため残ったのは半分に割れたものか、バラバラに砕けた魔石ばかりになっていた。
「馬鹿な!? あれだけあったアースランスを一瞬で解除したのか! なんて魔法の腕だ!」
「マルク、どういう事?」
「意味が分からんぞ?」
「良いですか? 通常のアースランスという魔法ですが、地面から数本の土の槍が一体の魔物に向けて刺さるというものなんです。そしてその槍は、破壊されない限り、もしくは術者が解かない限り、地面に帰ることはないんですが、そんな面倒なことはしません」
「何で? 解かなかったら、倒した魔物を回収できないでしょ?」
「時間経過で解けるからですよ。それ以外の方法だと、槍内の魔力をコントロールして抜くという面倒な作業をやらなくてはなりません。そして、その作業は遠距離であればあるだけ、数が多ければ多いだけ大変なものになります。この人のように、一瞬でやれることなんて普通のランク3…もしくはランク4以上の魔法系統種の職業じゃありえないんです」
「ランク4以上の魔法系職種!? そんなの、国で英雄と呼ばれるクラスでしかありえないよね!?」
「馬鹿な! そんなランクの魔法使いがいるなら、俺たち誰かの耳に入ってもおかしくねえぞ!?」
アルトはマルクという少年が話したことに感心したが、錬金術師である自分が今回行ったことには気づかないことを少し残念に思った。
アルトは本職の術士ではない。魔術の効率は通常の術士に比べれば圧倒的に落ちてしまうため、今回は雑魚のゴブリンなので錬金術を用いた。
前提として、錬金術師が用いる錬金術は、あくまで物理的な攻撃力しか持たない。
魔術で発生させるものと違い、属性といったモノが付加されたものではないため、霊体の存在には効果的ではないという欠点がある。
しかし、錬金術は魔力によって世界に事象を再現・発生させる魔術と違い、世界に対して魔力を用いて変質を起こす技術である。
魔術で作る土の槍は魔術で構成された物のため、魔力によって再干渉するのが難しいが、錬金術の場合は、あくまで魔力で操作した物であるため、魔術と違い再干渉が容易である。
アルトはそのため、雑魚相手なら後出しで色々弄っても容易に討伐できるという利点から錬金術を利用した。
アルトが行った方法を術士…魔法系職種が行うのであればランクが最低でもランク4以降である必要ではある。
しかし、アルトは疑問に思った。
通常の高位と呼ばれる術士のランクは7以降であり、最高位のランク8と特殊なランク9があることをアルトは知っている。
アルトは嫌な予感はしていたが、意を決して彼女たちに話しかけることにした。
「……あのー…伺いたいことがあるのだけどよろしいかな?」
「え…なんですか? すいませんが報酬の件なら町に戻ってからでも…」
「町が近くにあるんですか!?」
「え!? は…はい」
アルトは周囲を見渡した時に町が見えなかったため、驚いて詰め寄ってしまったが、相手を驚かさせてしまった事に反省しながら、今後のことを考え始めた。
アルトの現在の状況は、何もわからないことだらけだ。地名・国名どころか、地形すらわかっていない。国ごとに常識も異なる以上、出来る限りの情報を知りたいアルトにとって、町は貴重な情報源だ。
アルトは、拠点にするかはともかく、彼女らに町に連れて行ってもらい、ギルドがあれば登録を行って路銀も稼ぎたいと思った。
しかし、アルトの現在の状況を馬鹿正直に話したとしても、頭がおかしい人物かと思われかねないため、アルトは嘘交えて話すことにした。
「助かりました。実は、遺跡で探索中にトラップが発動して、見た事のない土地の他の遺跡に飛ばされて困っていたんです」
「え? 遺跡ですか?」
「あの…遺跡って、あの山の方ですか?」
「え? ええ、その通りですけど」
リース達が示した山は合っていたため、答えたが、3人が息を呑んだためアルトは疑問に思った。
アルトは知らないことだが、彼が転移した遺跡周辺の山や森は、高位ランク冒険者でも立ち入らない魔の領域であり、入れば死ぬと言われている場所であった。
アルトは、先ほどの高位魔術師のランクが4であることと関係があるかと思ったため、話を逸らすことにした。
「そういえば、まだ名を名乗っていませんでしたね」
「え…助けて頂いたのに、名前を名乗っていませんでしたね。失礼をして申し訳ありません」
「そうですね…俺は聴覚強化で名前が聞こえてたけど(ボソ)」
「どうしました?」
「いえ、色々大変だったでしょう。忘れるのも無理はないですから、気にしなくていいですよ」
アルトは常時発動型のパッシブスキルによって名前も念話も聞こえていたが、そこは触れないようにして話を勧めた。
アルトは命の危機があったのに、礼を出来る限り失さないようにする彼女らの態度に感心し、自分も出来る限り丁寧に接することを再度誓うことにした。
しかし、アルトはここが異世界であるため用心として、再鑑定を行った。
彼女らの中に犯罪を起こしたといった情報もない上、能力的にも強化無しでも制圧可能だが、アルトがプレイしていた時代より未来であるため、肉体の強化は解かないままにした。
「助けてもらってありがとうございます。えーと…魔導師さん?」
「魔導師? あ~そう思いますか…」
「え? 違うんですか?」
「まあ、違うんですけど…大きな差はないですよ? たぶん」
「はぁ…あ! 私の名前は『リース・フィン・エルドール』って言います」
「私は…『アルト』だ。よろしく、エルドールさん」
アルトは勘違いしたままの彼女たちの誤解を解かず挨拶することにした。
錬金術師は、魔術も魔法も利用できる存在であるし、何より、彼女たちにとって非常に危険な状況を脱した後であるため、町に案内されてから誤解を解けば問題ないアルトは考えた。
かくして、アルトの異世界におけるファーストコンタクトは、比較的に友好的な形で為されたが、経緯については…アルト自身は気にしないようしたようだった。