056
世界樹の種を植えて10日間がすぎていた。
そろそろ育ち具合を見にいくかな。世界樹の元に行ったが、 デカいよ、世界樹!
直径で30mはあるだろうか、高さは70m程度で上はモンキーポッドのように広がっている。上の直径は200mほどであろうか、圧巻だ。
上を見上げ唖然としていたが、周囲から魔物の気配がしない。さらに索敵の範囲を広げてみる。
驚いた事に周囲50kmの範囲には魔物が居ない。海まで届く距離だった。
裾野に行って総理に報告する事にした。
「総理に会いたいのですが」
裾野で隊員さんを見つけて総理を探してもらう。
「ご無沙汰しています。総理」
「勅使河原さん、今日はどうされました?」
「実は都内の魔物が居なくなりまして」
こうして世界樹と魔物の事を総理と隊長さんに報告した。
「魔物が居ないのは解りました。周囲の状況はどうですか?」
「周囲は森ですね。魔物が居ない範囲は木々で覆われています」
「・・・そうですか、建物とか残っているかと思っていたのですが・・・」
周辺はダンジョンから溢れ出た魔力で環境が変わっていた。
「周辺のダンジョンもLvの低い物は無くなってました」
ダンジョンも魔物と同様に無くなっていた。
俺は世界樹が周辺の魔力を吸い上げて大きくなったのではないか、と考えていた。そこ事も併せて総理たちに説明していく。
「食料ダンジョンは使えないのですか?」
「Lv6以上のダンジョンなら問題ないかと思います。今も残っているので」
「そこから魔物が溢れ出る可能性は?」
「俺が全てを制覇して消します」
まずはダンジョンを消す事から始まった。
世界樹を中心に消したいダンジョンは5個なので5日間で終わった。1日に1か所だ。
まずは世界樹を中心に関東平野を掘と壁で囲い込む。幅100m、深さ30mの大きな堀だが、周囲に川もあるので掘に流れ込むのは避けられない。そこで海と堀を繋げ囲う事にする。
海側から川を作っていく感じで掘って盛ってを繰り返す。
流石に広範囲なので1日では作れず、5日間かかったが完成した。橋も3か所に設けた。東西北、南が無いが海なので。橋は高さ20mで洪水がおこっても大丈夫かな?土壁の高さは40m、幅10mだ。
世界樹を中心に3kmは立ち入りできないよう壁いを作っておいた。その脇に転移門を設置して裾野と行き来できるよう設定。これで完璧だ。
総理や他の拠点からも主要人物を招き世界樹を見上げる。
「これが世界樹、大木ですね」
皆が見上げたままだ。俺も最初に見た時はこうだったよな。
そこから内壁に上がり外壁を見渡していく。
「この壁の中なら安全なのですね」
「そうです。ここなら全員が住む事が出来ると思うのですが、どうですかね」
俺は全員での移住を勧めてみた。
「問題は無いと思いますが、開墾して建物を作っていたら何十年かかるか・・・」
「開墾も建物も問題ないですよ。魔法を使える者も増えたし、開墾は数日でしょう」
そう、土魔法使いは多いので問題は無い。
「建物は今の物を収納して出すだけだから、こっちも問題ないはずです」
そこから各拠点の人達が話し合いを始めた。山里は俺が代表になっているが、移動希望者を募る予定だ。山里地と立河、厚林、入聞は囲いの中に入る事になる。
他の拠点は食料の関係もあり全員行動を原則にしたらしい。避難民なので土地に拘りのある人が少ないのが幸いしているな。俺は爺さんから貰った土地だから動きたくない。
1日で話が終る事もなく、持ち帰って拠点内での意思を確認する事になった。
俺も山里地区で皆を食堂に集めて話をする。
隊員さんと結婚した女子たちは移住、身内も一緒だ。裾野と同じ場所を希望していた。残ったのは最初のメンバーと未婚の女子、俺の嫁だ。人数は少なくなるが転移で行き来できるので寂しくないだろう、たぶん。
裾野の意見は分かれたようで総理が困っていた。他も意見が纏まらず、話合いが続いている。
その間に堀と川をつなげるトンネル工事をしていた。元の川も使わないと水の供給が出来ないのだ。
今回は川の周辺に集落を作っていこうと総理とは話をしていた。井戸水もいいのだが、枯渇も考えられる。その点、川の水を使うようにすれば工事も減るし、枯渇も無いだろうとの判断だった。
そんな事をしていたら生まれた!智恵理との子が生まれた~!
元気な女の子で、久しぶりの宴会が始まった。当人たちは参加できないが、娯楽に飢えた人には関係ないのだろう。
宴会には総理と隊長さんも来てくれたが、俺は家族三人でゆっくりと過ごしていた。
「ありがとう、ご苦労様」
俺は智恵理の頭を撫でる。
「うん、名前、考えてくれた?」
「光希、光る希望で光希、どうかな?」
「光希、いいわね、貴方の名前は光希ですよ~」
二人で光希を見つめていたいが
「名前も決まったし、宴会に行ってくる」
ジト目で睨まれたが、男の付き合いも大切だと最近は感じているので食堂に向かった。
皆、出来上がってますね。総理も顔を赤くして隊長さんに愚痴ってる?お疲れさん。
「名前を決めました。光る希望で光希です!」
ミクチャにされながら祝福される。ダンジョンが出来てから初めて生まれた子供だ。皆が楽しそうだった。
「あと3人、名前を考えて下さいね」
えりかさんに言われる。敦美さんと成江さんが一緒に頷いているな。理由付けと合わせて大変そうだ。
その後も宴は続き、夜遅くに開放される。家に戻ると智恵理はジッと見つめてくる。
「・・・一人にしてごめんなさい」
この後のご機嫌とりは大変だった。次からは同じ過ちはしないと心に誓った。
そして拠点の大移動が行われる事になったのだ。
まずは土地の整備から始める。拠点内で集落のように分かれていたので集団での移転となる。
寒くなる前に東北方面から始めることになった。
海に近い場所が希望との事だったので、南側の木々を伐採していく。この場所で塩作りも続けてもらう予定だった。
杉島は2000人弱、1500棟を移動させるので川を中心に1キロ四方を開墾した。
今回は広げすぎないように注意していた。あまり広げると世界樹に影響を与える可能性も考えての事だ。
更地が出来上がれば給排水の設置だ。井戸水からの給水を川からの汲み上げ式に変更したが、今回は大きな設備で川の左右に2か所設置した。
炊事場とトイレは相変わらずの共同で、飲み水は各家庭に供給を希望されたが、今回は見送りとなった。食堂も左右に4か所としていた。これで準備は整った。
裾野にあった杉島との転移門を移動させて、住民から移動してもい、無人となった家をそのまま収納して設置するのだが、4回に分けて行う事になった。
朝から移動が始まり、家を出た家族から即時収納していく。予め扉には番号を割り振ってもらった。この番号で設置場所も決まっており、住民は移動先で待っている状態だ。
午前中に収納が終り、午後から設置。4日間はこれを繰り返すだけだった。その間の食事は裾野から応援を出してもらった。
最後にダンジョンを設置して食料を確保する。
同じように四沢も移転させていった。こちらは杉島の倍ほどの時間が必要だった。人数も多いからな。
四沢の場所は杉島の上流側。1.5キロの長さで聖地されている。拠点間は3キロほど離しておいた。あまり近くにしないのは俺の気分だった。
更に上流には千里の拠点を持ってきた。
これで太平洋側の拠点が終った。江戸川沿いに三拠点だ。
残る大松、浜杉、大牧は多摩川沿いに移転を行っていた。
浜杉が海に近いので塩作りは浜杉になっていた。
最後の移転が裾野だが、中枢機能は国会議事堂のあった場所に移転した。周辺には関係者のみ移転し、他の住民は荒川沿いに移る事になった。
川沿いに3キロの長さで開墾したのだが、全てが終わるまでに1か月も時間が掛かってしまった。
全ての拠点の移転が終り、日本が集中した場所ができたのだ。
外壁の中に魔物もダンジョンも無く、好きなように動ける、久しぶりの解放感に小競り合いも無くなっていた。
全ての移転が終ってから、敦美とえりかが出産した。
2日間連続の出産だったが、宴会は行われなかった。前回、智恵理が怒った事で奥様方の協力が無かったためである。前回は奥様方も参加した事を反省しての対応だった。




