049
今日は隊員さん達が大松に向けて移動を開始する日だ。
俺は山里地区で待機となった。
同行しても暇なので緊急時に備えるだけである。前回のような事件は無いだろうな。
ダンジョンに入る事もできず、機織りをしている。
カシャカシャと機織りの音だけが聞こえる。
旦那方も黙って作業をしている。
布も溜まってきているな。3名が交渉を開始したぞ。
アンダーウェアの作成か、頑張って交渉しろよ。
こちらに向かってくるぞ。
「機織り機、3台を使います。変わって下さい。」
俺は3台の新しい機織り機を組み立てて渡す。
「専用って名前でも書いときなよ。」
本当にマジックで書くとは思わなかったよ。
3名は身体能力を駆使して機織りを始める。早いよ。
この勢いなら明日にはウェアが完成しそうだ。
カシャカシャカシャ 止まる事なく音がしている。
4人組はテーブルを持ってきたり棚を持ってきたりと忙しそうだ。
「この椅子、ちょっとお尻が痛いわ。」
友梨佳さんの一言に全員が頷く。丸イスだからな。
4人がイスの形で話を始める。俺は藁敷を置いて座ってみる。いい感じだ。
イスを作るのは難しいぞ。変に形を付けると余計に疲れるからな、注意が必要だよ。
俺は作業を中断し製材所に向かう。
収納からイスを出して見せるが全てがクッション付きだった。
「木で座り心地がよくするのは難しそうだね。」
「いろいろと試してみますよ。」
トシ君が言うと話合いが始まるが、
「棚とか終わったの?」
顔を見合わせて作業が始まる、そこがダメなんだよ。
また機織り作業に戻る。
蜘蛛の糸で織った布は絹以上に肌触りがいいな。
他の拠点はどうしているのか、在庫が少し心配だ。
染料の話はどうなったっけ?ここでは話できないので食後だな。
昼食はうどんだ。寒い日のうどんはいいな。ラーメンが恋しい・・・
「そういえば、最近は餃子が出ないですね?不足してる物がありますか。」
「お見合いがあったから匂いがある食事は控えていたのよ。今晩作るわ。」
真希絵さんが答えてくれた、餃子、嬉しいな。
「油の在庫はどうですか?」
「3人が絞ってくれるから大丈夫よ。」
真希絵さんが3人を見ながら教えてくれる。
「小麦粉は少なくなったからお願いね。」
節美さんに言われて畑ダンジョンに刈にいく。ここは誰でも入れる場所だからね。
ついでに大豆も刈り入れして収納する。旦那方刈ってないからな。
小麦粉を食堂に置いて、隊長さん以下5名が今日から来る事を伝える。
俺が居なくなるので戦力を送ってくれた。毎回これでは裾野が手薄にならないかな。
4人への期待は外れた。ダンジョン娘たちもダメだろう。
ここに新たな男手が欲しいが3人組が泣くだろうな・・・
今は裾野の好意に甘えておこう。
裾野では
「総理、そこまで戦力を山里地区に持っていく理由を説明して下さい。」
最近、集落の代表者っぽい事をしている6人が叫んでいる。
「理由ですか、勅使瓦氏との関係を継続する為です。他に理由などありません。」
「そんな事では誤魔化されませんよ!」
誤魔化すも何も本当の事なんだよな。
彼らは自分達の住む場所を誰が作ったか知らないのだ。
知らないのではなく、知らせていないが正解だ。
先日の後継者の事も含め、公表したら動揺するのは目に見えている。
総理や閣僚たちの思いも届かず、まるでクーデターだな。
マスコさんは小さくため息をついていた。
「しかし、本当の事ですから。」
「他に隠している事は無いのですか?」
「隠し事ですか、ありますよ。沢山あります。」
「住民には知る権利があります。公表してください。」
「公表ですか、その前にお聞きしたいのですが、現状の司令部より良い生活が約束できますか?」
「その自信はあります。」
「では、我々司令部が退陣して他所に移り住んでも大丈夫ですね?」
「何の問題も無いと思いますが、いったい何の話ですか。」
「近いうちに全てをお話して、私は退陣したいと思います。
準備に要する時間も必要ですので、いつまで、とは約束できませんが。」
「総理、それは・・・」
マスコさんが反論するが
「このまま裾野で揉め事が起きるのは避けたいですからね。」
総理は笑って答える。
「少々疲れました。」
ため息まじりに呟き
「同盟の大国からも話がきてます。それについても話ができると思いますよ。
はっきり申し上げて私では大国と交渉できません。
皆さんが対応できるならお任せしたいのが本音です。」
「内容は?大国からの要求ですか?」
焦った感じで問いかけるが
「大丈夫ですよ。今以上の生活を約束された皆さんなら何の問題もありませんよ。」
総理は笑うだけだったが、6人は顔を見合わせていた。
そんなに大きな問題が山積みなのだろうかと。
「総理、今後の予定はどうしますか?」
「大松の拠点作りまでは私が担当しましょう。
その後については、ここにいる皆さんに引き継いでいきます。」
総理は振り返り
「お聞きの通り、私は退陣予定です。
可能であれば山里地区、もしくは入聞に移りたいと思います。
皆さんの中で一緒に移りたい方がいれば後程、申し出て下さい。
勅使瓦さんにお願いしてみます。」
マスコさんは小さく頷いていた。
「では、皆さん、もう少し集落でお待ち下さい。」
「待って下さい。大松の拠点とは何ですか?」
「ここと同じ設備を設置する計画が昨日から進んでいます。
その後に大松や他の拠点を作る予定です。
方法や日程については勅使瓦氏を含め、調整が必要です。」
「そんな話は聞いていないぞ!」
「公表していませんからね。」
「東京に戻る予定はどうなっているのですか?」
「戻りませんよ、というか戻れません。都内は壊滅的な被害で人が住める環境にありません。
これ以上は引き継ぎの時にお話ししますので、今日は引き上げてもらえませんか。」
「・・・すまない、私は降ろさせてもらうよ。私が考えている以上に厳しい状況のようだった。」
そういって4人が退出していく。
「お二人もお願いします。業務を始めますので。」
「いや、今日の話は無かった事にしてくれ。悪かった。」
「いいですが、ここでの話は内密にお願いしますね、6人とも。」
2人も出て行った。
「総理、本当に退陣するつもりだったのですか?」
「さあ、でも山里地区で生活してみたいのは本音ですいよ。」
マスコさんと総理が笑って仕事が再開された。
隊長さん達は到着した。もちろん裾野での事は知らない。
「お世話になります。」
隊員さん達は挨拶を済ませダンジョンに向かおうとする。
「隊長さん、もうじき食事の時間ですよ。」
「その前に少し訓練しようかと思いまして。」
「今日は休んだらどうですか?」
「・・・そうしますか・・・」
今日の訓練は終了となった。
4人に隊員さんはカップル成立した4人だ。そのあたりはどうなっている?
俺が居ない間に進展もありかもしれないし、黙っていよう。
3名の隊員は機織りから戻らず、作業に没頭しているな。
旦那方も楽しそうに機織りをしている。
ん? 何を作りたいかって話をしているな。醤油を濾す布を作っているのか。
目的があるなら大丈夫だろう。
隊員さんも機織りを見学している。
「前回より建物が増えていますね。」
「工房を4ヶ所追加しました。見ますか?」
俺は4人を連れて工房を廻る。最後は酒工房だ。
「ここは?空ですが?」
「酒を造る予定ですが、麹の調達に苦労していて中断しています。」
俺は隊員の問いかくに苦笑して答えていた。
1人の隊員の顔が嬉しそうに見えたが気にせず食堂にもどった。
夕食はカレーだ!嬉しい。
今回の隊員達は1ヶ所のテーブルで食べている。3名も同席だ。
「そうか、攻撃を受けたのか。今後は気を抜いた訓練は慎めよ。」
隊長さんの激励が飛んだ。
「ミノタウルスのレベルはいくつですか?」
「レベルは90よ。今までとは比較できないくらい手強いわ。」
山守さんの言葉に
「隊長、今回で我々も26階層に行けますか?」
「無理はするな、焦りは禁物だぞ。」
Lv35の隊員さんでは26階層は無理だろう、今回は45を目指すくらいだと思うが。
3名との話は訓練の事ばかり、強くなりたいのだろうな。
最近、ダンジョン飯たちが大人しいな。お見合い以降、元気がない。
ダンジョンにも行かないし、少しチーちゃんに聞いてみるかな。
おっと娘さん達がリバーシに誘っている。積極的でいいぞ。
「リバーシは裾野でも人気ですよ。子供たちが喜んでます。」
隊長さんの報告に4人も満足気に頷いている。
だが、誰も双六はやってないな。ブームは一瞬だった。
6面キューブは完成していない。形にはなったが動きが悪く、改良中だ。
イスにキューブ、作業が増えていくな。人がほしい?叶井さんが居るだろうに。
元大工さんだから覚える事が多いのは理解しているから、ゆっくり作業してくれていいよ。
「明日からの大松での拠点作り、よろしくお願いします。」
「今日は予定通り野営地に到着してますか?」
「到着しております。途中の魔物は倒せる相手は倒し、強い魔物は去るまで待って移動しました。」
「それは良かった。明日の午前中には到着します。
今回は訓練を進める予定ですか?」
「可能な限り進めていきます。」
「3名の隊員も?」
「はい、その予定です。
我々4名が26階層、他4名は5階層を予定しています。」
そっか、3名は特訓なんだな。頑張れとしか言えない。
「ところで機織りは裾野でも可能でしょうか?」
「可能ですが1万人分を織るとなれば・・・台数と場所が。」
「そうですね、台数と場所については検討ですね。」
布は気になっていたか、当然だよな。借りてきた在庫も限りがあるし。
そんな話をして2人でリバーシをする。俺の負け・・・2連敗だった。
翌日は朝食後に出発した。
いつもの事だが、少しだけ緊張するな。
上空から見る大松周辺に人の気配はないな。
周囲を1.5km四方で掘を作り、土壁を立ち上げ固めていく。慣れてきたので作業も早いよ。
堀は海と繋げて海水で満たしていく。後は中の魔物だけだな。
雷魔法で一気に倒していく。
「バリバリッドッカーーン」
久しぶりの音だな。連射していくので五月蠅いし眩しい。
周囲のダンジョンも索敵で探るとLv10があるのが分かった。
飛行系だと龍だな。制覇しておきたいが、こちらも準備不足だ。ここのところ戦っていない。
まずは司令官と挨拶をして配置図をもらう。
「まずは畑ダンジョンと脱穀セットですね。」
3ヶ所に畑ダンジョンをだし、脱穀セット、厨房セットは50出した。
15ヶ所に井戸を掘っていくが、海が近いので深く掘る事にする。
500mあれば大丈夫かな?しばらく待って水を舐めてみる。うん、しょっぱくない、大丈夫だ。
井戸を指定の場所に掘って給水設備を設置し、パイプで繋げていく。パイプも準備済だ。
暗くなったが一日で給水は完了だ。まだ使わないでね、排水が無いから水が・・・
家のレイアウトを見ながら排水のトンネルを掘っていく。
汚物層も作り、給水が使えるようになった。
1500人が生活するので間違えると溢れるから、レイアウトを再度確認しておく。よし、本日終了。
俺はダンジョンの下層で寝る事にして入口から転移する。
ふむ、8日間の予定だったが早く終わりそうだな。
後は面倒なのはトイレの設置だけだ。
俺はLv10ダンジョンの様子を探りに行った。
ここは他とは違い、1階層3部屋で構成されていた。
レッドドラゴン、レッドドラゴンキング、エンシェントレッドドラゴンが1体づつ居る。
エンシェントレッドドラゴンはLv860だ。このままでは勝てない、それが第一印象だ。
畑ダンジョンに戻って考える。レッドドラゴンはLv400だから、そこで訓練かな?
トイレと洗濯機を設置して翌日の作業は終わった。
早めに終わったのでレッドドラゴンと戦いに行く。
【レッドドラゴン】
魔物
Lv400
体力 5148
魔力 9224
筋力 2869
敏捷 1212
スキル 魔術
火魔法Lv10、雷魔法Lv10、風魔法Lv10、威圧Lv9
●動きは速い。ブレスで火弾、炎を飛ばす。攻撃耐性特大。魔法耐性特大。衝撃耐性特大
部屋に入ると上空に飛び上がり火弾や風刃を放ってくる。
盾で防ぎながら、こちらも魔法で応戦する。
魔力では負けないので威力を上げて押し返していく。
だが、飛んでいるので躱されてばかりだ。こっちが飛ぶと部が悪いので下から攻撃を繰り返す。
お互いに魔法の打ち合いで膠着状態が続いていく。
アースドラゴンもそうだが、龍は魔力のヘリが遅いな。解析と索敵で魔力の流れを部屋全体で探っていく。
ダンジョンの魔力を補給しながら魔法を打ってくるので、減るのが遅いのだ。
剣で火弾を打ち消し、そのまま剣撃で風刃を放っていく。
躱した方向に盾をだして、動きを止めるがブレスを撃たれ攻撃は出来なかった。
やはり上空からの攻撃に俺は弱いな。そう思いながら盾で両サイドを塞いでから凍弾を撃つ。
左に行くが盾に阻まれ、下に躱しながら雷を落としてくるが、盾で防いで剣撃で空刃を飛ばす。
右前足の付根にあたり、バランスを崩した!空刃を連射しながら距離を詰めていく。
後方と上は盾で塞いであるので下か左右だ。4発を正面と空いてる方向に放って追い込む。
ブレスを吐こうと開けた口に風弾を叩き込み、喉元で膨張させる。
よし、動きが止まった!空歩で飛び、首筋に一撃を入れる。
首から二つに分かれ、地面に落ちる前に消えていた。
ドロップ品を収納し、レッドドラゴンキングの部屋に向かう。
【レッドドラゴンキング】
魔物
Lv530
体力 5836
魔力 11398
筋力 3061
敏捷 1326
スキル 魔術
火魔法Lv10、雷魔法Lv10、風魔法Lv10、威圧Lv10
●動きは速い。ブレスで火弾、炎を飛ばす。攻撃耐性特大。魔法耐性特大。衝撃耐性特大
攻撃は同じようだが威力は上だ。こちらも威力を上げている。
ドラゴンのブレスを放つ瞬間に風弾を叩き込めれば勝機につながるな。
攻防を繰り返しながらタイミングを待つ。
ブレスが撃たれても、こちらの態勢が悪くては当たらないからタイミングを待つ。
俺の剣撃を躱すのに盾にぶつかり下に移動しながらブレスだ!
俺は最速で風弾を撃ち、膨張させる。まだ口を開いていたので2発目も叩き込む。
ドラゴンは俺の剣で眉間を貫かれ消えていった。
ふう~ダンジョンのリセット前に倒せたよ。リセットされたら帰りに一戦しなければ出れないからな。
エンシェントレッドドラゴンを見て、入口に戻る。
とりあえず、飛行系のドラゴンも倒せたけど次は別物だからな・・・
朝までゆっくり寝て突かれをとる事にした。
家を1500棟、それで作業は終了だった。
まだ明るい時間だったので龍退治に向かった。
最初の2部屋は昨日と同じなので、少し早い時間で倒おす事ができた。
さて、最後のボス部屋だ。
【エンシェントレッドドラゴン】
魔物
Lv860
体力 7253
魔力 16294
筋力 4139
敏捷 1591
スキル 魔術
火魔法Lv10、雷魔法Lv10、風魔法Lv10、威圧Lv10
●動きは速い。ブレスで火弾、炎を飛ばす。攻撃耐性特大。魔法耐性特大。衝撃耐性特大
部屋に入るとブレスが放たれる。威力も温度も数段上だ。特に温度は岩も溶かすか!ってくらい高い。盾に込める魔力も必要になる。
だが、防げない事はない。横から風弾を首に撃つが躱される。当然だよな、幼稚な攻撃だ。
羽ばたくだけで強風だ、なかなか攻め切れない。
同じような事を何度も繰り返す。あたり一体を凍らすように凍弾を広範囲に放つ。
魔力は高めていたので、少し動きが止まりブレスを撃つ為に口を開けた。チャンス!
風弾を3発、一気に打込んで膨張させる。そのまま首を刎ねて消し去った。
氷魔法が使える事、忘れていたよ。これは動きを止めるには最適だったな。
ドロップ品を集めて大松に戻る。
翌日、隊員達は裾野に戻ったが俺は大松でダンジョン制覇する事にした。
山里地区に戻るのは遅くなるが、龍の角は貴重だからな。
結局、18回の戦いでダンジョンカードを入手して山里地区に戻った。
最後のドロップ品に種?みたいなものがあったが、収納に放り込んでおく。肉が沢山集まって嬉しい。
もう3月になっていたんだな、食堂のカレンダーが3月に変っていた。
ちなみにカレンダーは子供たちの手作りだ。個性的な絵もあるので見ていても飽きないな。
「ただいま戻りました~。」
俺は挨拶しながら食堂に入っていく。全員が驚いているな、戻る日は連絡していないし。
「遅かったね、怪我とか大丈夫だった?」
チーちゃんが真っ先に駆け寄ってくる。
「大丈夫だよ、無傷だから。」
「今日戻るって分かればカレーにしたのに。」
真希絵さんが残念そうに言うが、ここの食事は美味しいから不満はないよ。
隊員達はダンジョンから戻っていないようだ。
旦那方は機織り、4人組は製材所か。機織りのイスは完成していないのか、丸イスのままだ。
ダンジョン娘たちも班ごとの作業をこなしている。奥様方は厨房で忙しそうだ。
俺はダンジョンの様子を見に行く。
Lv5の訓練ダンジョンで4人はブラックパンサーLv40を相手に訓練をしている。
フォローは多門さんがしているな。
離れた場所で様子を伺うが、5対3でも危なげなく戦えている。
Lv40は超えている。上出来だ。多門さんは95になっているな。
隊長さんと一緒だから厳しい訓練だっただろう。
俺は訓練を見守っていた。




