047
訓練も進み、6日目の午後、旦那方と製材所でお茶を飲んでいた。
春になったら新芽の出たお茶の木を吸収させないとダメだな。在庫はあるが他にも持って行きたいし。
茶柱も立たない薄いお茶を飲みながら思っていた。
コーヒーは九州か沖縄にあるだろうか、何としても手に入れたいが。
コーヒーが手に入れば奥様方は紅茶を望むだろうから、紅茶の茶葉も調べないとな。
酒も重要だが普段の飲み物も重要だ。
そういえば大麦があったよな、ダンジョンで刈ってきた。
「麦茶を作りましょう。」
俺は旦那方に声を掛けて鉄板を出す。
脱穀して大麦を炒っていく。できた!丸粒麦茶の完成だ。
鍋に水を入れて、麦を加えて沸騰させていく。少し色が薄いが麦茶の味だ。
炒る時間や麦の量を変えながら試して、最初より香も色も各段に美味しい麦茶ができた。
これで水だけの食事に麦茶が加わったな。旦那方と満足気に食堂に持って行く。
「ありがとう。」
素っ気ない返事が返ってきただけで夕飯の支度に追われている。時間が悪かったな・・・
旦那方の双六も完成して自分達で盛り上がっている。
リバーシもかなりの数が出来上がっていた。1000セットくらいかな。
これは隊長さんに裾野へ持ち帰ってもらおう。各集落に10セットだな。
夕食時に隊員さん達のレベルを確認してみると、35になっていた。
これならイノシシやサソリなら1対1で倒せるだろう。
人数がいればファイヤーイーグルもいけるか?そんなレベルまで上がっていた。
魔法は風を全員が習得しているが、Lv2が最高だ。
ダンジョン娘たちも魔法のLvが上がらない。俺が教えてもダメみたいだ。
やはり自分から習得できた魔法は上達も早い。隊長さん全てがLv5だ。
聖魔法を使える2人もLv4まで上がっている。適正があるのだろうな。
「隊長、明日はやすみにしませんか?」
山守さんが休みを提案してくる。
「そうよ。休みも必要よ!」
響子さんが相槌を入れる。
昨晩、奥様方と3名の隊員で共闘が成立していたらしい。手ごわい共闘だぞ。
皆で隊長さんに詰め寄っていく。
いくらレベルが上がっても、この戦いは隊長の負けだった。
明日は1日は休みが決定した。帰還は夕食後も決定だ。
女子たちは喜び、隊員たちは複雑な表情だ。訓練が好きなのか?
双六のお披露目とリバーシで、その晩も盛り上がっていた。
だが、双六は旦那方が盛り上がってるだけだった。
奥様方と女子からは内容変更の不満が相次いでいたな。オヤジ好みだったよ。
翌日の改定を約束させられ、旦那方は少し不満なようだが、仕事が増えて吉と思ってくれ。
リバーシは相変わらずの人気で、誰とでも対戦できるので子供たちに人気だ。
お父さんに勝った! とか、隊長さんに勝った!とか聞こえてくる。
その晩、男どもは全員が食堂から締め出された。女子会だ!
まずは全員の好みを確認していく。
全員が違う隊員を狙っていると都合がいい、3人が好意を持った隊員もいる。
午前と午後に分けて案内をする事になった。余ってしまった隊員には3名の隊員がフォローに入る。
露骨な作戦だが、年齢が上な隊員だったので問題無しとなった、勝手な判断だ。
そこで山守さんが隊員の家に行き、好みを確認に廻る。
この時点でカップル成立なら、全員が手を引く事は打合せ済、皆が帰りを待っている。
結果発表!4組が成立している。
そこからが大変だった。成立狙いで妥協する者、次を選ぶが倍率を考えている者。
「次回もありますから。」
山守さんの言葉で落ち着きを取り戻して行った。やれやれである。
結局は3名の出番は無くなり、妥協含め6組が一日一緒。他はローテーションで話がついた。
選択権は全て女子会にあるんだな。強敵だ、俺でも倒せないな。
そんなお祭りを俺たち男どもは車庫で麦茶を飲みながら静観していた。
「双六に化粧を落とすは無いよな?」叶井さん
「そうですね、無ですね。」鈴木さん
「ですが、腕立て30回、今考えれば変ですね。」田垣さん
自分達への反省も忘れない大人もいた。良い事だ。
双六を裾野に持っていく事はできないな、残念だ・・・
「女子も連れてきて下さいよ!」
コウ君の切実な願いだ、しっかり伝わったぞ。
「いいのか?ここの女子会に要らぬことまで言われるぞ!」
叶井さんが最もなことを平然と告げる。
3人は顔を見合わせるが、答えは出ない。
「ダンジョン娘たちはどうかな?」
典和さんが言ってるが、
「いいんですけど、年上が多くて・・・・」一成君
「そうなんですよ、10代は3人だけで選べないですよ。」昌君
「おいおい、選ぶのか、選ばれたいの間違いだろ?」叶井さん
「「「くっ!」」」
その通り、10代は8名いるが選んでくれないからお見合いだったな。
彼女たちは肉親がいないので、強くたくましく生きているからね。
甘ちゃんな3人では相手にしてくれないだろうね。
皆で風呂に移動して、3人を慰めて?解散した。女子会は続いている。
翌日、朝食後は自由時間だ。
それぞれが散っていく。
だが、隊長と3名の隊員、俺の5人はダンジョンに向かった。
25階層でアイアンゴーレムとの訓練だ。5体の群れを50セット出してある。
俺もカードを持たずに来たので、すぐに戦いが始まった。
俺は1体を倒し、あとは見守りだ。
そういえば雷で倒したから剣をアイアンゴーレムに使うのは始めてだったな。
4人は1対1で戦っているが、問題が全くないな、すぐに終わった。
次は5対4、俺は最初から見守る。
真畑さんに2体が向かうが土球で1体を弾き飛ばし、残りを斬っていく。
いいな、魔法との使い分けも上手になったな。
隊長さんは豪快に一刀両断!その言葉以外に表現できない斬り方だった。
15回ほどで3対5に変えて戦うが、全然余裕だな。
2対5になると余裕も減ってくるな。3体と同時に戦えるのは隊長さんだけだ、少し危ないけど。
見守りが魔法で手助けをしないと勝てない。もう一度3対5に戻る。
魔法の使用を極力控えて、剣での攻撃と躱す事に重点を置いて訓練が再開される。
やはり最初の一撃で魔法を使われると苦戦だな、3対2を剣だけで戦うには問題有だった。
全員が苦戦するので、2対4になるうよう手伝う事にした。
それでも苦戦はするが、危うさは減ったな。このまま続けていく事で剣術も上がるだろう。
全員がLv70を超え、フロアのゴーレムが居なくなった。
ボス部屋はシルバーゴーレムLv85が4体だ。
4人に戦ってもらうが、俺も一緒に入って見守りだ。
魔法の威力も数段強くなっている。土弾の速さが倍以上だ。
盾に流す魔力が少なく飛ばされているが、何とか持ちこたえた。よかった。
1人、また1人と倒して全員で部屋の外にでる。少しの間、反省会だ。
すぐに入っていった。やる気は十分だ。
攻撃耐性があるので剣に込める魔力も必要だから、消耗が激しいな。
だが昼食の予定はないようだ、頑張れ3人娘!
俺は上の階層で果物を採って4人に渡す。糖分も必要だよ、思考が鈍らないように食べてね。
15分程の休憩で訓練を再開した。
徐々に余裕が生まれ、3対4の訓練となった。やはり休憩は大切だ。
2対4での訓練は行わず、ミノタウルスがいる26階層に向かう事にする。
時間はないが4対4なら訓練にはなるだろう。
4体に向かって進むと火魔法で攻撃してくる。剣で打ち消していく。いいぞ。
ミノタウルスも攻撃耐性があるので剣で簡単には倒せない。
だが、負ける事もなく倒して行く。
力負けは女子だから、なんて事を隊長さんが言うわけもなく次に向かう。
盾の流し方を再確認してもらい、訓練再開である。
そうそう、力が無いなら受けずに流す、大切だから。隊長さんも同じだよ。
その頃、外ではお見合いも佳境を迎えていた。
特にカップル女子6人には思うところがあるようだ。
一番気になっているのが住む場所だろう。
隊員さんは裾野から来ているが、ここに移っても仕事は無い。今も足りてるからね。
ここに残るか、裾野に行くかの2択になるのだが、決められない。
話に聞く裾野は大所帯、集団には嫌な思い出のある彼女達にすれば当然だ。
ここは平和だ。奥様方も厳しくも優しく、男達も優しい。ここに来る前に比べれば当然である。
結局、全員が結論をだせないまま夕食の時間となった。
隊員達も同じような気持ちだった。
裾野に行けば忙しい日々だ。ここに来れば開放される。
だが、誰かが動かねば裾野は廻らない。
「ここの事は気にせず、山里地区に移って下さい。」
総理には言われてきた。
確かに将来の為には結婚をして子供を授かり育てていかなければならない。
分かってはいるが、他の隊員や住民の事を考えると簡単には答えがでない。
彼女達が真剣であるなら、こちらも真剣に考えなければ失礼だ、昨晩の話合った時の結論だ。
そんな思いで各々が過ごしていた。
そんな複雑な思いなどなく、ミノタウルスとの戦いだ。
「3対4に移る。ここからが本当の訓練だぞ。」
隊長さんの掛け声に無言で頷く3人。
誰が2体を相手に戦うか、ミノタウルスの動き次第だから厳しいようだな。
魔力の位置は探っているので魔法への対処は問題ないだろうな。
だが、シルバーゴーレムよりは苦戦しているな。
「ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ」
アラームが鳴る。俺がポケットに入れてきた目覚まし時計だ。
「食事の時間ですよ!」
俺が言っても隊長は残りたい雰囲気だ。
ここに来てから自分の訓練はできていなかったからな、裾野でもそうだろう。
「あと1時間だけお願いします。」
隊長さんの一言で延長が決まった。
訓練後の着替えや風呂の時間も考えて1時間の余裕は持っていたから大丈夫だけど。
最後とあって全力で戦っていく。気合だな。
あっという間に時間が来て、全員で食堂に向かう。
レベルは90を超えた!上出来だ。
3名は疲れきった顔で歩いている。明日はゆっくりしてくれ。
食堂では皆が待っていた。ごめんなさい。
「訓練も無事に終わり、お見合いはどうでしたか?
可能であれば山里地区で一緒に暮らしていければ、と思います。
お疲れ様でした。」
俺が挨拶をして食事が始まる。
4人組はリバーシ2000セットを作り、隊員さん達に渡している。少しは誇っていいぞ。
奥様方も毎日の食事作り、お疲れ様。
娘たちもご苦労さま、少ない衣類でおしゃれをするのも大変だったよね。
旦那方は邪魔にならないよう、製材所と車庫をウロウロしてご苦労さん。疲れてはいないよね。
3名の隊員さんは班のリーダーから特訓までダンジョンに入ったままでしたね、いつもの事か。
子ども達、隊員さん達と遊べて楽しかったかな?
食後、すぐに裾野に向けて出発していった。
静かになった食堂で麦茶をすする。うむ、美味しいな。
また女子会が始まる事になった。
奥様方がいろいろと尋ねていく、尋問のようだが。
相手に気にってもらえたか、重要な部分から聞いていく。
大丈夫そうが5割だった、いい確率だ。
だが住居の問題になると全員が口を閉ざしていく。
少し重い雰囲気になるが、ここを拠点に仕事を作らせる、強引な案がでてきた。
問題もあるが、実際には可能だろう。
機織りの糸をここのダンジョンから拠点に運ぶ、とか強引なやり方はある。
他にも裾野へ”お泊り体験”に行きましょうか?とか。
少し離れた場所に新婚専用の拠点を作ってもらいましょう!とか
山里地区を広げて裾野から司令部を移転させよう!とか
現実的なのは裾野への訪問だな。
それなら隊長さんに頼めば明日にでも行けるだろう。
移転とか拠点作りとか簡単に言うな、奥様方は。
娘さん達がかわいいのであろうな、いろいろな意味で。
3名に裾野の質問が始まる。本当の事を言うんだぞ。
家の事、仕事の事、もろもろの話を伝えていく。
一番驚いているのはトイレ、共同だからな。
次に家、土間で一部屋しかない事に驚きを隠さない。布団は藁敷の上だぞ。
ここは恵まれているからな、覚えておかないと現地で妬まれるよ。
魚は食べていないことや調味料作りも始まっていない等々を説明した。
逆効果な気がするが、ここで生活する事で決定したようだ。
3名は苦笑するしかなかった、1万人以上が生活している環境だからね。
隊長さんの乗っていない車内では
「山里地区に移転できないかな?」
「現状では厳しいだろうな、戦力としても我々は必要だと思わないか?」
"魔力を上げてもらい、レベルまで上がった隊員は少ない。裾野や他の拠点にも出向かなくてはい
けないのだ。"
「しかし・・・ 無理だろうか・・・」
隊員達は責任感が強く、自分では決められなかった。
「おいおい、好機は逃すなよ?子孫繁栄も立派な任務だ。俺は除外されていたがな・・・」
30才の隊員が寂しそうに言ってくる。
子孫繁栄、今の任務も重要だがそっちも課題なのは知っていた。
出生率が0なのだから・・・
いろいろな思いか交錯して7日間の訓練は終わった。




