038
午後からは今回の報告と今後の予定について全員で話をする。
吉俣君から入聞の報告だった。
今回は裾野に比べて日数も設備も半分以下だったので楽だったな。
これから人数が増えたら対応していけば大丈夫だろう。
しかし、魔物発生から60日以上、蓄えが無い場所に生存者は少ないだろうな。
俺は入聞までの道のりで人の反応が無かった事を思い出していた。
基地周辺は備蓄庫も多く、あれだけの人が生活できていたのだろう。
総理には立河での協力をお願いされていた。早い方がいいだろうな。
「必要な設備は入聞と同じで考えています。」吉俣君
「今回はダンジョン3個、脱穀と厨房のセットを各30、給水を30にして、
厚林に先に行きましょう。家とトイレは後日でお願いします。」
「了解しました。準備には何日必要でしょうか。」
「明日一日あればできます。明後日には出発可能ですよ。」
「では明後日、8時に出発でお願いします。メンバーは私と舘下、鈴木、山守、多門です。」
その晩はベッドで熟睡した。久しぶりのベッドだ。
翌日はダンジョンの中で準備をしていた。
ミスリルも昨晩と今日で6台の走行車を置換できるまで集まっている。
漆黒樹は多めに切って収納し岩と土も収納しておく。
貯水槽や加熱炉などは1セット残しているのでコピーで錬金すれば時間は掛からない。
外に出て若者4人と鈴木君の装備を作る事にした。
剣はアースドラゴンの角で、鞘を漆黒樹で作り11人に渡す。
「この剣は危険なので取り扱い注意ですよ。」
俺は隊員達が使っていた剣を斬って見せた。
全員が唖然と剣を見つめている。
「特に4人は注意してください。触っただけでも腕くらい落ちますよ。
幡垣さん、真畑さん、訓練用のダンジョンを出していくので4人を鍛えて下さい。
死なない程度までは大丈夫です。真畑さんの聖魔法で治る範囲でお願いします。」
4人は真面目な顔して頭を下げていた。
「「「よろしくお願いします。」」」
熊皮の性能を知ってる二人なら無茶しても大丈夫だろう。
「これで強くなれば彼女できるかな?」志賀谷君
「バカ、ここには女が居ないじゃん!」津守君
女性陣が全員で睨みつける。視線に気づいた二人は
「未婚の女性が居ないって事ですから!」津守君
遅い!ほら隊員の3人が怒ってるよ。
「今日から2人の食事一品減らしましょうか?」
優香子さんが言えば
「成江、明日からの訓練、頼んだわよ。」
「任しておいて!」
多門さんと真畑さんが打合せをする。
「確かに年下の娘さんが居ませんからね。」
俺がフォローすると
「家の娘はダメですよ!」
鈴木さんが真顔で言ってる。
「まあまあ、夕飯でも食べて、水に流そうよ。」
叶井さんが言っているが、女性陣の目は怖かった・・・
チーちゃんは独身だが子持ちで複雑な顔をして睨んでいたよ。
トシ君は夕布子さんだけ見てればいいからね。
予定より早めに立河に向けて出発する。
周辺の人は吉俣君たちに誘導してもらい、俺は人のいない場所から手をつける。
避難が終わったので全周壁を作り、堀が完成する。
付近の川と繋げ、堀に水が満たされる。
敷地に降りて、指揮官と挨拶をするが、五月蠅い。
「誰の許可を得て作業したのだ、私は許可していない!」
だとか言ってる。
「総理から連絡が入ってるかと思いますが。」
吉俣君が言うと
「連絡は来たが許可していないぞ!」
自分抜きでの決定したので拗ねてるだけだろうが。
「再度、総理に確認していただきたいと思います。」
俺はダンジョンと脱穀機セット、厨房セットを出して説明する。
鈴木君、山守さん、多門さんが立河の隊員を連れてダンジョンに入っていく。
俺は途中までダンジョンに入り
「下層で寝てる、明日の朝合流しよう。」
下層に転移して寝る事にした。
翌朝、早めに起きて井戸を掘る。
150mの井戸を掘ってから、30個の給水装置を設置して戻ると30m下に水が溜まっていた。
井戸に蓋をしてパイプを繋げて動作確認。
それを30回繰り替えして隊員達と合流する。
「勅使瓦さん、お疲れ様です。協力に感謝しています。」
「総理、いつここに来たのですか?」
「先程到着しました。昨日の報告を受けたのとこれを渡しに来ました。」
はい、借用書の束ですね。
「預かります。帰りに物品は置いていきます。厚林に向かいます。」
厚林も同じ事を繰り返し、敷地の確保、井戸の設置で2日間で終わった。
3日目の早朝に移動を開始して立河で物品を渡していく。
後は帰るだけだ、4人は生きてるかな。
暗くなる前に戻ると食事の用意が出来ていた。通信できるのは便利だ。
その晩は打合せをする事なく解散となった。
裾野と合わせて4ヶ所の安全地帯が確保できた。
関西や中部はどうなんだろうか?
誰も話題に出さないのは、余裕がないのか、教えたくないのか、だろう。
こちらから出向くにしても遠いからな、他の地域の対応は年単位で時間が必要になるだろう。
午前中にミスリルの採取を終え、6階層をキノコにする。遅くなりました・・・
それから小麦粉を作る。しっかりと2種類に分けてだ。
「6階層にキノコを出しておいたので使って下さい。」
昼食時に言うと
「キノコがあるの?シイタケは?乾燥させてダシに使えるわよ。」のぶえさん
「シメジがあればお味噌汁もいいわね。」響子さんが旦那さんを見て言う。
「マツタケもあるので今晩はマツタケご飯でお願いしたいです。」
「はい。早速取りに行くわよ。早く片付けましょう。」優香子さん
男たちは池の周りに集まっていた。醤油も味噌も熟成期間に入っており手が空いてる。
若者3人はダンジョンで訓練。
隊員さん達は5名が拠点廻り、2名が訓練だ。
「そろそろ酒だろ。酒。日本酒。作ろうよ!」叶井さん
「そうですね。作りましょう。」鈴木さん
全員が頷き、稲を刈りにダンジョンに行く。
俺は有國さんが居た区役所に行ってみる事にした。
魔物は居るが、倒しもせずに区役所に進む。
人の反応は40人程度だ。
少ないな、そう思いながら屋上に降りる。
中は悲惨な状態だった、数名の男が女性を押し倒している。
廻りには包丁や木刀を持った男たちが立って見て笑っている。
役所の廻りの穴には人が捨てられていた。
俺は部屋に入ると何か叫びながら向かってくるので、男たちを窓から外に捨てていく。
18人の男は叫びながら落ちていく。4階だ、助からないだろうな。
特に罪悪感を感じなかったな。魔物との戦いでマヒしているかな。
そんな事を考えながら
「大丈夫ですか?」
尋ねるが、皆、下を向いて震えている。全裸だし寒いよね。
俺は収納から毛布を出して置くと
「待っていて下さい。ここを動かないで下さいね。」
そう言って家に戻る。前にこいつらも穴に捨てておく。
今日は真畑さんと多門さんの女性二人が残っていたのでダンジョンに入り
「二人とも、至急で対応をお願いしたい事があります。倉庫に来てください。」
俺は6人が訓練している2階層の入口で叫び、倉庫に向かう。
すぐに二人も来たので簡単に事情を説明する。
二人は在庫の中から衣類やタオルを選んでくれるので収納する。
その後、俺は食堂においてあるパンを全て収納していく。
奥様方は唖然としているが説明している時間は無い。
二人が荷物を抱えて下りてきたので肩を組んで飛んで役所に向かう。
部屋の入口で二人に荷物を渡していく。何度も往復して配っていく。
隣の部屋にテーブルとイスを出し、果物とパンを並べる。邪魔な物は錬金で圧縮して捨てた。
外からテーブルの用意ができた事を告げ、下の部屋で風呂の準備をする。
20人か、10×3mでいいかな。
岩で風呂を造り、魔法陣を刻んだ魔石と埋めて完成っと。
窓を全て埋めて照明を置いて、入口の扉だけを残す。
俺は多門さんを呼びだし、風呂の事を告げる。
「この後の対応は?」
「入聞に行って隊長か総理に連絡して指示を仰ごうと思う、こういった対応は不慣れで。
多門さんは何かありますか?」
「私も支持を仰いだほうがいいと思います。穴の中の事も。
大人数で押しかけてくるような事は避けていただきたいかと。」
穴の中を見られたか。埋めればよかった。
入聞で無線機を借りて隊長さんと最初から話をする。
人を探しに行った時にダンジョンを設置した事。
その後、放置していた事。
被害者の前で男達を窓から投げ捨てた事。
二人に対応を任せている事。
「了解しました。今は入聞で待機をお願いできますか。」
隊長さんに言われる通り入聞で待つ事にした。
ここの隊員達の目が厳しい、前は優しかったのに。
人殺しだからかな、仕方ないな、最悪は逃げるかな。
裾野では
「総理、ご相談したい事があります・・・」
「隊長、どうしました?」
「勅使瓦さんが外出中に避難所での暴行現場を発見、鎮圧しました。」
「鎮圧?どういう事ですか?」
「・・・本人の報告ですが、加害者を窓から投げ捨てた、と・・・」
「・・・場所はどこですか?」
「練鹿区役所です。勅使瓦さんは入聞で待機中です。
現場には隊の真畑、多門の2名が被害者の保護にあたっています。」
「目撃者は?」
「被害者23名全員です。」
「そうですか。」
「入聞からの通信ですので入聞にも伝わっているかと思います。」
「どう対応するか、ですね。」
俺は入聞で待機していたが、あまりにも時間が掛かるので帰ろうとすると止められた。
出入口には隊員が内側に3名、外には10名控えている。
犯罪者だな、いや犯罪者か。強引に帰ってもいいのだが。
「今日はお帰りいただいて結構ですよ。二人は被害者の救護活動を続けるよう伝えて下さい。」
司令官に言われ、俺は区役所に向かう。
二人は食堂にした場所にいて、女性たちは風呂に入っている。
「二人は救護活動を続けるよう伝言されました。必要な物はありますか?」
「布団とかあれば、あと食事ですね。厨房セットがあれば二人で作ります。」
俺は厨房セットと脱穀セットを残して部屋に戻った。
やっぱ投げ捨てたのは、やりすぎだったな。
翌朝、総理と隊長さんが来た。
吉俣さんが招き入れ、食堂に通す。
全員が揃ってる事を確認して昨日の事を自らの口で話す。
全員が黙ったままだ。
「勅使瓦さん、昨日の行動は誠に遺憾です。今後の行動は自重して下さい。
以上です。他にはありません。」
総理が言うが皆、黙ったままだ。人殺しだし。
「ありがとうございます。寛大な処置に感謝します。」
そう言って部屋に戻る。
食堂では
「今回の勅使瓦さんの行動ですが、我々は非難する事はありません。」
総理が言う。
「今までも問題として報告が上がってました。
避難所での暴行、傷害、殺害、略奪。
移動時の襲撃もあったそうです。
これは裾野に避難してきた人からの情報ですので、確実と言っていいでしょう。
見て見ぬふりをしていた我々の責任でもあります。
打開策として装甲車の配備を進めたかったのですが、燃料の問題もあり難航していました。
勅使瓦さんの協力で4台の装甲車が完成し、巡回を開始したばかりなのに。」
「総理、申し訳ありません。我隊がもっと早く行動範囲を広げるべきでした。」隊長さん
「いえ、あなた達は良くやってくれています。判断が遅い我々に責任があります。
他にも同様の被害にあってる人がいるかもしれません。
なるべく広範囲の巡回をお願いします。」
「了解しました!」
「今回の区役所への物資の供給はどうなってますか?」
「食料はダンジョンがあり問題ありません。飲料水の確保も問題ありません。
勅使瓦さんの報告では不足物資は現状では無いようです。」
「今後の問題、ですね。
入聞での受け入れか、区役所での生活か。
本人たちの判断を仰ぐ事にしますか?」
「私をそこに連れて行ってくれないかしら。」のぶえさん
「娘みたいな年ごろのお嬢さんたちでしょ、私達が居たほうが安心できるわよ。」響子さん
「私も行くわよ。」真希絵さん。
結局3人が救護班として向かう事となった。
俺は部屋に居ても暇なので下層に降りてミスリルの採取と漆黒樹の伐採をしていた。
家を1000軒作って収納した。
外にでると総理と隊長さんが帰っていた。
食堂には行かず部屋でカップラーメン、カレー味を2個食べて寝た。
翌日も翌々日も同じ事を繰り返していた。
4日目、ダンジョンから出ると家の前に叶井さんが居た。家は6000軒も作ったよ。
「地主さん、食事どうしてんだ、食べてるのか?心配してんだよ。夕飯、食べようよ。」
そう言って食堂に連れていかれた。
「気にしてるのは地主さんだけだぜ。俺たちは感謝はしてるけど、他の感情は無いからな。」
「そうですよ、相手も襲ってきたのでしょう、正当防衛ですよ。」鈴木さん
「私達のせいで嫌な思いをさせて申し訳なかった。」有國さん・・・
「とにかく食べようよ、今日はキノコ尽くしだからね。」節美さん
「マツタケご飯もあるからな。楽しく食べようよ。」叶井さん
隊員さん達も一緒に夕食を取った。
「区役所の女性たちがここへの移動を希望しているのですが、可能でしょうか。」
吉俣さんが切出す。
「えっ!ここなの?入聞とか裾野ではないの?」
「救護にあたっていた古湊さん、道守さん、鈴木さん、隊員2名と同じ場所を希望しています。
可能であればお願いしたいのですが。」
「構いませんが人数は?」
「23名です。」
「家を建てないといけませんね。1軒に3名として8棟ですか。
叶井さん、大丈夫ですか?」
「酒作りが止まるが、4人で建てればすぐだよな、トシ!コウ!アキラ!」
「俺も手伝いますよ。素材を運ぶのは得意ですから。」
「そのつもりだったけど?」
いきなり23名が増える事となった。
翌日から家作りが始まった。
2日で3軒だ。内装は鈴木さん兄弟と谷垣さんの3人が貼ってくれる。
お決まりの内装色だ。
6日間で完成し、7日目に装甲車で往復して迎え入れた。
その合間に立河と厚林に家を刺しに行った。各2500棟だ。
「お世話になります。」23名がやってきた。
井本成美 20才
奥田雪乃 25才
下田千紗 23才
江頭照 20才
高沢美奈子 19才
合田夏帆 17才
坂東彩夏 22才
坂野奈々美 24才
宍戸沙耶香 22才
重田由香里 20才
松木愛結 16才
西口麻衣 23才
川井沙樹 18才
倉田雛乃 20才
滝口留美子 19才
滝川友紀 18才
沢田勝美 23才
中西百合子 21才
長谷法子 20才
田川沙耶 23才
布施美子 17才
米沢聡子 17才
堀越春佳 22才
下は16から上は24まで、多いな。
とてもではないが覚えきれない。
若者3人、目が怖い、ギラついてるぞ。その目はマズいからな。
「お前ら、そんな目をしてると嫌われるぞ!」叶井さん
「そうよ、もっと優しい目をして!」
優香子さん、カズナリ君の目を下げるのは止めて。




