037
醤油作りに参加してみる事になった。
「麹菌が作れないのですよ。」
鈴木さんが言う。
「種麹があれば進むんだよ!」
カズナリ君がボヤき。
「あれ、麹菌を渡しませんでしたか?」
「いただきましたが、要から作りたいって。」
「そうですが、培養して切らさないようにすればいいかと。」
「そうだよ、そうすれば作れるよ!」
「まずは培養しましょう。」
俺は醤油樽を作ってみる。
20角の支柱を岩で作る。直径1m高さ2m。これを中心から一面分切出す。角錐になるよう加工し板を当てて角度を付けて切っていく。これを穴に立て蜘蛛の糸で縛っていく。
次は底板か。下側に土を入れて固めて上に取り出し、厚みを10cmにして底板のベースにする。
上から底板を落としてはめ込んで水漏れを確認して、完成だ。食堂に持っていこう。
「鈴木さん、醤油樽ができましたよ。」
収納から出して見せる。
「大きいですね。この樽一つで1年は持つかな?」
カズナリ君が楽しそうに言う。
「2個ですかね?真希絵、醤油って1年でどれくらい使う?」
「ここだと・・・どう?200リットルくらいかな?・・・200リットルでお願い。」
「3個作りますか。」
「あと2個作ってきますね。」
40枚の板をコピーして先程と同じ要領で作っていく。醤油工房を建てるか?
食堂の裏に行って6×10m程度で食堂の小さい版を建てる。
床は鱗を砕いて床に敷き詰め圧縮して完成だ。
樽を出して鈴木さんを呼びに行く。三人で中に入り
「必要な物があったら言って下さいね。」
「こんな立派な工房まで、ありがとうございます。」
「成功しなかったらオヤジに締め落とされるな。」
「室温の設定が必要なら考えましょうね。」
忘れてた、脱穀機を出さないと。車庫に行って叶井さんに
「新しい脱穀機を持ってきましたよ。」
収納から脱穀機を出して動かして見せる。
「ここにコマを刺せば動きますから。」
一言で終わってしまった。
「やっぱ魔法は便利だな。」
叶井さんの口癖になってきた。
「地主さん、あの建物、いつ建てたんだ。ちょっと見てくる。」
叶井さんは米を志賀谷君に渡し、走っていった。
大工さんに見られると恥ずかしいな。楔で固定してあるからね。
昼飯にラーメンが食べたくなったが、我慢した。時々食べたくなるんだ、カレー味。
午後は車庫組は暇になり、作業しているのは醤油組だけだ。
「何をすればいいんだ?」
叶井さんに聞かれたので
「家に戻って奥さんと一緒に掃除、洗濯して下さい。」
「えぇ~やだな~それっ!」
「子供じゃないんだから、手伝ってあげて下さい。」
田垣さんに言われている。
作業が無く暇な集団は解散していった。俺は部屋の窓を全て開けて風魔法で埃を飛ばす。
水球を出して回転させながら床の上を動かし、外で弾けさせる。
掃除は簡単だ。
夕食は久しぶりのカレーだ。カレー粉も作りたいな。スパイスの木があれば吸収させるが。
「どこかで鶏と牛、捕まえる事できませんかね?」
「養鶏場はあるけど、檻に入ってるような物だから生きてるかしら。」
夕布子さんが言う。確かに養鶏場は檻だな、むりか。
「明日は朝から裾野に行きます。」
俺は脱穀機と洗濯機を持って裾野に行く事にした。
朝食後に裾野に向けて出発する。
司令部の中に降りて、指令室に入っていくが顔見知りなので誰も止めない。
「総理、居ますか?」
扉の所で声を上げると
「勅使瓦さん!?総理、勅使瓦さんが来ました。」
マスコさんが中を案内してくれる。
「勅使瓦さん、街の事は聞きました。誠に申し訳ありませんでした。」
頭を下げてくれる、いいひとだな。
「今日は農具を持ってきたので見ていただきたいのですが。」
三人でダンジョンの前に行く。
「脱穀していませんが、どこで作業しているのですか?」
「各集落に稲穂を運んで人出で作業しています。」
あれ、数が少ないか?
「脱穀機とか持ってきたのですが、60セットしかないのですよ。」
ダンジョンの前に並べて動かしていく。
ダンジョンから稲穂を持った隊員が出てきたので、実際に作業してもらう。
「早いですね、あっという間に終わります。」
「追加で40セット作るので1集落に1セットを置いて下さい。」
俺は40セットをコピーしていく、1時間もかからない。
隊員達が配置しに持っていく。
横の空いてる敷居に移動して洗濯機500台を出す。
「これが洗濯機です。」
使い方を説明して、10台を作っていく。司令部の分を忘れていた。
戻って脱穀機も3セット追加しておく。
「今日はこれを持ってきただけなので、帰りますね。」
「少し話をしていきませんか?」
総理に誘われ指令室にいく。
「同盟の大国から井戸の設備を譲ってくれないかと言われて困惑しています。」
「譲れって運べないでしょう。」
「飛行機を飛ばしても手に入れたいようです。」
「どれくらい?」
「多ければ多いほどいいそうです。」
「政府として見返りは?」
「小麦を10トンと言ってますが、正直な話、現状では魅力はありません。
また、赤道に近い島付近を監視していた衛星が、上空にきています。
ここの状態を監視しているようで、敷地の拡大方法や土壁の作り方も訪ねられています。
正直、無視したいのですが、この先がどうなるか分からないので無視もできない状況です。」
「そんなのトップシークレットとでも言っておけばいいのでは?」
「えっ?そんな事できるわけないですよ。」
マスコさんが言うが
「そうですね、トップシークレットでしたね。そう答えます。」
「装甲車は見られていないのですか?」
「見られているでしょう。トップシークレットです。」
二人で笑った。
「ところで隊長さんは?」
「今朝早くそちらに向かいました。そろそろ到着する予定です。」
「あの装甲車はどうですか、使えそうですか。」
「隊員のレベルが上がって外に出られるようになれば用途も広がるのですが。」
「5台かりましたが、3台は今日返します。もう1台はしばらく貸して下さい。」
「3台も完成しているのですか。」
そう言って3台を門の脇に出して家に戻る。
隊長さん達の装甲車は門の外で待っている。無傷だ。
門を開けてると隊長さんが屋根から顔を出す。
「勅使瓦さん、こんにちは、中に入れてもらえますか?」
「こんにちは、入って下さい。食堂までそのまま進んで下さい。」
隊長さんが下りてきて
「本日付けで配置になりました隊員7名を連れてきました。」
男性4名、女性3名だ。一人は見た事の無い顔だな。
(ヨシマタタケミツ)
吉俣猛光 27才
(タチシタススム)
舘下進 26才
ハタガキユウシ)
幡垣勇志 26才
(ススキノリマサ)
鈴木典雅 22才
(ヤマモリアツミ)
山守淳美 28才
(マハタナルエ)
真畑成江 26才
(タモンエリカ)
多門えりか 26才
7人増えて36人か。
隊員さんは周辺の警備で不在な事が多いだろう。
「明日、入聞に行く予定です。勅使瓦さんに同行をお願いしたいのですが。」
「いいですよ、行きましょう。」
「これを、ここに設置させて下さい。」
持ってきたのは大きなバッテリーと通信機だ。
「この通信機で装甲車と交信ができます。バッテリーの充電は装甲車で行います。」
「装甲車に燃料はあるのか?」叶井さん
「燃料は電子機器を稼働させるため、搭載しています。」
「・・・明日、俺も一緒に行ってもいいか?」叶井さん
「民間人の方をお連れするのは、控えたいのですが。」
「避難所は面白くないですよ。」俺
「一回、地主さんの仕事が見たくてな、ダメかな。」叶井さん
「・・・勅使瓦さん、よろしいですか?」
「走行中は中で大人しくしていて下さいね。」俺
「よし、大丈夫、座ってればいいんだろう。」叶井さん
「装甲車の魔力ですが、裾野との往復で消費はどうでしょうか?」
「大丈夫ですよ、これは。日本一周が可能なくらいの魔力がありますから。」
実はダンジョンコアを使って魔力を供給している。
ダンジョンコアの使用についてコアに尋ねると
魔力の供給源としての使用は可能。
形状を変える事も可能だが、それによりコアとしての機能は消滅する。
よって回答もできなくなる。
大気中の魔力を吸収する事が可能。
この世界の魔力は薄く、ダンジョン崩壊でできた場所に行けば吸収が可能。
そのコアを使っての魔力供給なので、半永久に動くだろう。
ちなみにLv5のコアが持つ魔力は俺とは桁が3つ違った。
「家は前回の場所を使ってくださいね。そのまま残していますよ。」真希絵さん
「お掃除はしていたから綺麗よ。」夕布子さん
3軒の家を指して言う。
「荷物の搬入を開始しろ。配置は予定通り、作戦室に地図を出しておけ。」
隊員達は装甲車から荷物の運び出しを開始する。
「料理を作りましょう。8人分、大急ぎでね。」優香子さん
「「「「はい」」」」
食事担当は8人に増えている。収穫も自分達で行ってるようだ。
旦那方の手が余っているので、何か考えないと怒られるかな。
「私と道守さんで味噌作りに挑戦したいのですが、いいでしょうか?」
古湊さんから提案される。
「お願いします。他にも必要な物があれば作って下さい。」
「酒、酒作ろうよ。飲みたいだろ、酒!」
酒を連発するのは叶井さんだ。
「それは後にして下さい。ソースを作ってみませんか?揚げ物にソースが必要です。」
「分かったよ、ソースだな。」
「叶井さんと田垣さん、有國さんでおねがいしますね。」
「典和さんは醤油に入って下さい。若い4人は俺と一緒にダンジョンで訓練にしましょう。
戦える人も必要ですから。」
「「「了解しました!」」」
4人はガッツポーズをして嬉しそうだ。
「でも、気を抜くと死にますからね。」
「「「えっ!」」」
「俺が一緒でも死にますよ。魔物との戦闘訓練ですからね。」俺
「「「・・・・・」」」
「そんなに脅かすなよ、死なない程度に訓練するんだろ。」叶井さん
「「「死なない程度・・・」」」
「そうですね、死ぬ気で戦わないとダメでしょうね、武器は竹槍ですか?」鈴木さん
「竹槍、いいですね、それにしましょう。」俺
「「「・・・・・ウゥゥ」」」
悪い大人に揶揄われる、皆が悪い笑顔だ。
そんな話をしていると隊員の鈴木君が来て
「父さん、久しぶり、今日からここに配属になったよ。部屋空いてる?」
おっと隊員の鈴木君は典和さんの息子か。
「空いてるぞ。好きに使うと言い。勅使瓦さん、息子の典雅です。」
「鈴木の兄さんの息子さんか、隊にいたのか、よかったなここにこれて。」叶井さん
「はい、隊長から呼び出されてここの配属を言い渡されました。よろしくお願いします。」
「任務はいいのか?」典和さん
「・・・戻ります。」
「叶井さん、鈴木兄さんは勘弁してください。典和でお願いします。」典和さん
「だってよ、兄弟だから兄さんかと思ってな。」叶井さん
「俺の地主さんも止めて下さい。」俺
「それは無理だ、爺さんの頃からの呼び方だからな。」叶井さん
夜は作戦室で明日からの打ち合わせだ。
「総理から、可能であれば入聞にも裾野と同じ協力をお願いできないかと言われています。」
地図を広げながら隊長さんが言う。
「可能ですが、あの規模だと下準備が必要ですね。ここで作って設置して戻る感じですかね。」
「お願いします。この地図を見て下さい。」
四角い枠が書き込まれた地図を見る。
「この枠を安全地帯にしたのですが、可能でしょうか。」
「周囲の建物は?」
「国の管理する建物なので邪魔であれば壊していただいて構いません。」
「それなら敷地の囲い込みは一日で終わりますね。」
門の場所、給水設備の設置場所も検討済だ。
吸水設備は30ヶ所、ダンジョンは2個。
「家はどうしますか?」
「一日で作れる数はどうなりますか?」
「錬金でコピーできるのは1000棟くらいです。設置は数時間ですかね。」
「十分な数です。トイレや給水設備は?」
「同じですね。5日あれば設置まで完了します。」
「申し訳ありませんが、脱穀機や厨房機器も含めて最大日数では?」
「そうですね、排水はどうしますか?」
「こちらの河川に流していく事は可能ですか?」
「それも含めて10日間ですかね。」
「給水設備は現状の人数に対して多いですが、周辺住民が増える事を考えていますので、ご理解下さい。」
「問題無いですよ。」
「現地に残るのは私と吉俣、幡垣、真畑の4人です。他3人はここに戻って待機します。」
俺は出発前に脱穀機セットと厨房セットを作っていく。それぞれ10セット30セットだ。
俺は予備も含め倍以上を作る事にした。味噌工房も醤油工房の隣に建てて置く。
朝食時に10日間の予定を告げると
「俺も10日間、付き合うからな。」
叶井さんが楽しそうに言う。遠足ではないからね。
俺は装甲車の外で魔物を倒しながら進む。
「バリバリッドッカーーン」
雷の音が響いている。
現地に到着すると周辺の建物にも人が居るのが解る。
「隊長さん、周辺に人が多いですね。壊す予定の建物にも人がいます。避難誘導してください。
叶井さんは中で待機ですからね。」
俺は上空から人が居ない場所で掘って盛っての作業をしていく。
避難が終わったので堀と壁と繋げ、周囲を更地にして完了だ。
畑ダンジョンを3個出す、人が多くなってるからね。
脱穀機セットと厨房セットを出して使い方を説明する。いつもの説明だ、取説作るか。
すでに日は落ちていた。食堂に置いた通信機で今日の戻りが無くなった事を告げ、明日からの作業を確認する。
「人が多いですね。当初の予定では家が足らない可能性があります。
家は2500棟に増やしましょう。」
「お願いできますか?」
司令官らしき人に頼まれる。
「問題無いですよ。」
俺はLv8ダンジョンを出して
「明日から4日間、この下層で準備します。その間に設置場所の設定をお願いしますね。」
そこからは一人で作業だ。
食事は肉と野菜を焼き果物を食べる。
肉が多いので太るかな、中年のデブは嫌われるな。
5日目の朝、外にでると総理がいた。
「勅使瓦さん、ご苦労さまです。」
「総理、おはようございます。何故ここに?」
「塩と人員を連れてきました。レベルのある隊員も必要ですから。」
そうだよな、ダンジョンが敷地にあるのに未経験者だけでは不安だよな。
叶井さん夫婦が揃ってるな。
「天然酵母の作り方を教えにきたのよ。」優香子さん
「俺は見えるだけだけどな。」叶井さん
「ちゃんと食事と睡眠はとれてるの?」優香子さん
「ええ、しっかりと。」
「はいっ、これを食べて。私達が作った梅干しが入ってるから。」
そう言っておにぎりを出してくれた。ありがとう。
まずは敷地にダンジョの土を盛り圧縮していく。
ここは高台なので川との間にある斜面に向かって排水のトンネルを掘っていく。
5本のトンネルからそのまま川まで水路を作って完成だ。途中の建物は全て壊したよ。
次は井戸を250mの深さまで掘り様子を見る。
水が染み出てくるまで貯水槽と加熱炉を設置していく。
今回は一体で作ったので井戸とパイプで繋げるだけの作業だ。
30ヶ所に設置して井戸を除くと100m下くらいまで水が来ていた。
蓋をしてパイプを200nの長さで繋げていけば完成だ。
井戸だけを残り29ヶ所に掘っていく。水の確認は全てが掘り終わってからだ。
1周廻って水を確認しながらパイプを繋げていけば、給水設備の完成だ。
少し仮眠してトイレを設置していく。
今回は長方形の敷地で長手方向に排水トンネルがあるので、穴をあければ排水できる。
穴の上にトイレを設置するだけだ、作業効率がいいな。
30ヶ所の給排水が終わったので、家を刺していく。
形になっているので柱を地中に刺せば終わる。2500棟を刺し終えたら日付が変わっていた。
翌朝、ダンジョンから出て総理と話をする。
「勅使瓦さん、これをお願いしたいのですが。」
総理が出したのは借用書の束だった。それね・・・
「了解しました、行ってきます。」
俺は周囲のホームセンターや衣料品店を廻り物品を集める。
相当の数が集まったので格納庫に出していく。
翌日、叶井さん夫婦と共に装甲車で変える事にした。
総理も裾野に戻るそうだ。
「装甲車が裾野に30台あるので可能でしたら改造をお願いします。」
「それだけの数は素材が足りませんよ。特に熊皮が無理です。
今後、隊員さん達の装備は不要ですか?」
「駆動部だけでもお願いできませんか?」
「それなら大丈夫ですが。次に裾野に行った時にでも改造できるよう準備しておきます。」
そういって9日間の入聞での作業を終え戻る事になった。
最終的には入聞は周囲の人を救護して廻り、2357人が暮らす事となった。
隊長さんは裾野に戻り、帰りは吉俣君、幡垣君、真畑さんと叶井夫婦、俺の6人だ。
途中の川で
「小魚を捕まえるので止まって下さい。」
「魚か?俺も手伝うよ。」叶井さん
「外に出ると魔物と戦うようですよ、いいですか?」
「・・・止めとく。」叶井さん
俺はオイカワを大量に凍らせて収納する。
「ありがたいわ、煮干しが無くてダシが取れなかったのよ。」優香子さん
「でも美味かったぞ、メシ。」叶井さん
「味付けには苦労してるもの。」
俺、キノコをダンジョンに出してなかったな。
戻ったらシイタケ、シメジ、マツタケ全部吸収させて6階層をキノコ畑にしよう。
昼前に戻るとカレーだった。嬉しい。




